第34話 スズメ印のおいしいからあげ~ほっぺが落ちるチュン♡
「スズメがいない世界が……固定される……?」
「そうだ。これまでの傾向からいえば、そうなると思われる……。そしてそれが、お前にとって最悪の結末となるだろう」
スズメがいない世界。
スズメがいないことが常識になる。
そうなるともう、スズメは帰ってこない……。
「絶対嫌です!」
そんな世界ならないほうがマシ!
あ、地震だ!
「おい、めったなことを考えるなよ?」
「……すみませんでした。つい、世界が滅亡するところで……」
「気軽に滅亡させるな」
うーん。平常心平常心。
でも……わたしの中で、世界に対するヘイトが溜まっていく……。
おや? 窓からスズメ人形が戻ってきた?
「マミマミマミ! スズメを発見したチュン!」
「えっ、ホント⁉ どこどこどこ⁉」
スズメ人形お手柄ぁ♪
「こっちチュン!」
と、窓から再び飛び立つスズメ人形。
「待って待って! わたし、空飛べないし!」
「……飛べないチュン?」
窓の桟に止まる。
「人間は足が発達しているから、地面を歩くの。翼もないでしょ?」
手を広げてみせる。
「マミは体が重たいから飛べないチュン?」
「それも、そうかもね……。鳥は体の中が空洞なんだっけ?」
うろ覚えだけど。
「鳥の骨は、空洞になっているんだ。そして翼を動かすための胸筋が非常に発達している。筋肉だけで体重の約20%を占めているからな」
「さすが理科の先生!」
うーん、でも……。
「スズメ人形の体の中には、綿が詰まっているよね。どうやって飛んでいるの?」
「愛の力チュン」
「愛……」
「深く突っ込むな。理解しようとしてはいけない。それが今の世界の常識だ」
人形も飛ぶ世界。
「飛ぶ以前に、どうやってしゃべってるの、とかいろいろありましたね……」
わかりました、気にしない!
「マミも愛の力で飛ぶチュン?」
「いやー、ちょっとそれは……。愛の力でダッシュするので、校門前で待ち合わせね!」
その常識に乗っかると、うっかり飛べそうなので怖い……。そうしたら、たぶん帰ってこれなくなりそうだからやめとくね!
「わかったチュン! 校門で待ってるチュン!」
スズメ人形は、再び窓の桟から飛び立っていった。
「じゃあ先生。わたしはスズメを探してきます!……でも授業は……」
一応今って、授業中……ですよね。
「さっき臨時の職員会議の予定が入った。授業は短縮で、生徒たちは下校するようにアナウンスが出たところだ。問題ない」
「また職員会議……。それ、都合良すぎますね」
「バリエーションを考えている余裕がないんだ。贅沢を言うな。ほら、さっさと行ってこい」
池中先生は、「シッシッ」と追い払うように手を振ってきた。
「はーい。でも世界はあっさりスズメを返してくれましたね。スズメ人形がスズメの役割を全うできなかったからかな?」
「……おそらく違うな。あくまで私の私見だが……世界は、自らの失策を失策とは認めない」
えー、それって。
「ごめんなさいできない人ってこと、ですか……?」
「平たく言えばそうだな」
「めっちゃ厄介じゃないですか……」
「これまでの傾向から言えば、というだけだ。もしかしたら今回は、別のケースに当たるかもしれない。そうだと良いが……」
すごく自信なさげ。
まあ、良いですよ。この目で確かめれば済むことですし。
「とりあえず、スズメ人形の指示に従ってみます!」
「おう、行ってこい! もし会えたら、南野によろしく伝えてくれ」
先生の言葉に背中を押されるように、わたしは理科準備室を飛び出した。
* * *
そして、校門で待つこと30分ほど。
「マミマミ~、お待たせチュン」
スズメ人形がゆっくりと……まるで電波の悪い時の動画くらいカクカクした動きで、わたしの頭の上に降り立った。
「ねえ、遅すぎない? わたし、あれから先生と立ち話をしてからここに来たんだけど? 窓からまっすぐここに飛んでくるだけなのにどれだけ……」
「ごめんチュン……。風が吹くと飛ばされてしまうチュン」
「そっか。綿だから……」
「サボっていたわけじゃないチュン。全力でがんばったチュン」
「うん。ありがと。頭ごなしに怒ったりしてごめんね」
この子は、人形なりに全力を尽くしてくれている。
ホントありがと。
「マミにチュ~してもらえたら、許すチュン」
「チュぅぅぅぅ⁉」
「いつもみたいにしてほしいチュン」
そりゃね、寝る前にいつもスズメ人形にはキスしてから寝てたけどぉ。
……誰も見てないよね?
「じゃあ、わかった。手の平の上においで」
「チュチュン」
頭の上から転がるようにして手の平へ。
スズメ人形は、ゆっくりと箱座りをして目を閉じた。
「いくよ……」
「いつでも待ってるチュン」
返事されると恥ずかしいなあ。
ホントに誰も見てないよね……?
チュッ。
「こ、これで良い?」
「マミ大好きチュン!」
飛び上がったスズメ人形が、わたしのほっぺたに向かってくちばしを突き立ててくる。
「痛……くはないわね。布だし」
スズメ地獄突きはかわいいだけで、殺傷能力はなし、と。
まあ、人形だし。
「元気100倍、スズメ100倍チュン! さっそく出発するチュン!」
「機嫌が直ったなら良かったけどね。ところで、どこに向かうの?」
わたしの頭の上に鎮座していらっしゃいますけど。
「門を出て、北東に100mチュン」
「おお、道案内してくれる感じ?」
まあ飛ばれても、あの速度だと一生かかってもたどり着かない気がするし、それでいっか。
北東北東……どっち?
「あっちチュン」
くちばしで髪の毛を引っ張って方角を教えてくれるスタイル。
まあ、ぜんぜん痛くないし良いかな。
「はいはい。100mね。……100mってどれくらい?」
徒競走だと50mしか走らないからわかんない。
「マミの1歩が約70cmだから、だいたい143歩で100mチュン」
「へぇー。そうやって数えるんだ? 物知りねー」
スズメ人形ってすごい。
「インターネットで調べたチュン」
「インターネット使えるの⁉」
人形なのに⁉
「Wi-Fi内臓モデルチュン!」
「すごい……」
「なんでも訊くチュン!」
「なんでも……って言われると、ぱっとは思いつかないね」
思い浮かぶのは、スズメのことばっかり。
「スズメは今……どこで何をしているの?」
なんて。
「わからないチュン。インターネットで検索できなかったチュン」
「だよね……」
今は存在しないことにされちゃってるから……。
でも、絶対諦めないからね!
「100mチュン。そこの路地から大通りに出るチュン」
なーんだ。歩数で数えなくても教えてくれるのね。
「歩道を右に、3軒先のお店に入るチュン」
「お店? お店お店……。ここ? お総菜屋さん……?」
ホントに合ってるの?
こんなところにスズメが?
自動ドアを通り、お総菜屋さんの中へ。
お昼の少し前ということもあって、まあまあお客さんが入っている。
でもどう見ても普通のお店、なんだけど……。
「レジに行くチュン」
「うん……」
「おばちゃん、スズメ印のからあげを500gくださいチュン」
「あいよ~。チュチュ~ン」
「へ?」
スズメ印のからあげ……?
「ここの看板商品チュン。宣伝用のポップを見るチュン」
えーと、ポップポップ。
『スズメ印のおいしいからあげ~ほっぺが落ちるチュン♡』
「ほ、ホントだ……って、ぜんぜんスズメと違う!」
「でも手掛かりチュン」
「そう、なの?」
「マミが無類のからあげ好きなのは知っているチュン」
「それは、そうだけど……関係ある?」
今探しているのは、スズメなんだよ?
「関係大ありチュン! この世界はマミが好きなもので溢れているチュン。それがスズメ印になっていたら、好き×好きで、それはもうスズメチュン!」
「どんな理論よ」
「マミが好きなものはスズメチュン?」
「そうよ」
今さらの確認?
「からあげも好きチュン?」
「そうね、好きよ」
「からあげ=スズメチュン!」
「いやいやいや、そうはならないでしょ」
「チュチュン?」
なんで急にわからなくなるのよ……。
「はいよ~。スズメ印のからあげ500gおまちど~さん。チュ~ン!」
お店のおばちゃんまでチュンって……。
「えっ、はい。わたし財布持ってない!」
スークルカバンを学校においてきちゃったし!
「またまた~。マミちゃんからお金なんて取れないわよ。チュンチュン!」
「いや……」
わたし、おばちゃんとは初対面ですよね?
「ありがとチュン。マミはからあげが好きチュン。いっぱい食べてしあわせになるチュン!」
「あ、ちょっとコラ! お金も払ってないのに受け取っちゃダメ!」
「大丈夫よ~。早く元気になってちょうだいね。チュンチュン!」
「え、あ、はぁ……。どうも……」
なんかもう、ほかのお客さんの視線も痛いし、この場を早く立ち去りたい……。
ずっしりした紙袋を受け取って、逃げるように店外へ。
「ちょっともう……。恥ずかしいじゃないの!」
こういうのは先に説明しておいて!
「熱いうちに食べるチュン」
袋の中から漂ってくる匂いが……。
「じゃあ1個だけ……」
500gってすごい量だぁ。
あ、すぐ食べられるように爪楊枝も入れてくれてる!
「んまぁぁぁぁい!」
噛むとじゅわっと油が染み出してきて、すっごくおいしいよぉ。
あー、しあわせぇ。
……も、もう1個だけ♡




