第32話 私が南野スズメ、チュン
「スズメ人形が何でここに⁉」
今朝起きた時、みんないなくなっていたから、てっきりスズメのところに遊びに行っているのかと思ってた!
――チュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュン!
「ちょちょちょっ! 多い多い多い! 何羽いるの⁉」
スズメが作ってくれた人形は、7羽だけのはずなのに、どう見ても100羽……もっとたくさんいるんですけど⁉
――チュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュン!
あーーー、一斉に飛びつかれた……。
「これはまた、壮観だな。ハハッ」
スズメ人形の隙間から、半笑いの池中先生が見えた。
「いや……笑ってないで……助けてくださいよ」
頭が、肩が……重い……。耳たぶカミカミしないで。
「どういうことなんですか、これ……。行方不明になっていたスズメ人形が何でここに? しかもめっちゃ増殖してるし」
「さあな。私にもわからん」
「わからんって……」
そんな。
「巻き込まれているのは私も一緒だ。むしろな、朝起きたら、自宅のベッドではなく、この理科準備室に転がっていた時の衝撃はな……。巻き込まれ度は柊より上なんじゃないか?」
「あ、そっか……。先生の家があった場所も売地になってましたね……」
スズメの家と一緒にきれいな更地に。
「何かトラブルが起きたことはすぐにわかったんだが……上に調査を依頼していると、コイツらが窓から飛び込んできてだな……」
100羽以上のスズメ人形が窓から飛び込んできたら――。
「それは、すごくかわいいですね」
「普通にホラーだが? お前の頭はどうなっているんだ……?」
「そうですか? わたし、たくさんのスズメに囲まれて生活するのが夢なんですけど」
最高過ぎる!
「それ、絶対に願うなよ?」
「……はい」
スズメは1人でお願いします。
たくさんは……ガマンしますから。
チュンチュン。
「はいはい。かわいいかわいい」
無視しているわけじゃないから、わたしの髪の毛をハムハムしないように。
「う~む。体が痛いな。少し、座らせてもらうぞ」
池中先生は、首や肩をゴリゴリ鳴らしながら、パイプ椅子に深く腰を下ろした。
「どっこいしょ」の掛け声つきで。
「おじさんみたい」
「ま、こう見えても私も三十路だからな。一晩も床で寝ていたら体がな……」
今度はため息。
「えっ、三十路って30歳ってことですか⁉ ぜんぜんそうは見えないですよ!」
「そうか? 生徒に言われると……少し自信が出てくるな。私もまだまだいけるか?」
それはもう。
「本音で言えば……盛りに盛っても……15歳くらいに見えます!」
ホントは12歳くらいにしか見えません。
「おい。この白衣が目に入らんのか?」
なんでちょっとキリッっとしたんですか。
「いや……服装じゃなくて顔とか」
身長とか体形とかですよ!
全世界的なアンケートを取っても良いですけど、100%わたしのほうが年上に見えるって言われると思いますよ?
「おかしいな。『大人女子の愛されモテメイク』の効果が出ていないのか……?」
「えっ、お化粧していたんですか? スッピンかと思ってました」
「してるわっ! 失礼な! 化粧品売り場の店員も『きれいな肌ですね。メイクのノリが良くてうらやましいです』って言ってくるぞ!」
へぇー。
「なんでちょっと興味を失ってるんだ⁉」
「お化粧はまだよくわからないので……」
中学生には早いですし。
「今のうちから練習して、たくさん失敗しておかないと後悔するぞ。いきなり高校生になってからメイクを始めても遅いからな」
「そういうものですか……」
「高校に入ると、周りが急にメイクをし出したように見えるが、ほとんどの女子は、放課後や休日に練習している。それを知らずに高校デビューすると……するとだな……」
あ、涙目。
今の話、実体験だったんですね……。先生、どんまい。
「中高生の頃は、大人びた女子がモテるからな。お前も早めに準備をがんばれよ」
「いえ、わたしはスズメがいればそれで良いので」
男子とか、この世から消えていただいても一向にかまいませんので……なーんて思ってないですよ? わたしたちからちょっと離れていてくれて、一切関わらないようにしてくれれば、存在していても良いですよ?
「その南野はもう……」
スズメが行方不明なんだった!
どこなの、スズメ……。
「スズメを返して……」
チュンチュンチュン。
「スズメ人形……慰めてくれるの? ありがとね」
スズメが手ずから作ってくれた人形だもんね。きっとスズメの分身みたいなもの……。
「チュンチュン」
うんうん、早く帰ってきてほしいね。
「チュン……元気出してチュン」
「えっ?」
今スズメ人形がしゃべった?……幻聴?
「悲しいチュン」
いや、幻聴じゃない。
「先生……さすがに……いたずらにしては悪質ですよ……」
わたし、本気でスズメのことを心配しているんです。
「何がだ?」
「何がって……スズメの声マネをするなんて……」
「マミ愛してるチュン」
えっ。
「先生、じゃない……」
先生の口元は動いていなかった。
じゃあ……?
「マミ好きチュン」
「元気出してチュン」
「チュンチュンチュン」
「泣かないでチュン」
「マミ~チュンチュン」
「からあげ食べるチュン?」
「ドーナツ持ってくるチュン」
「あんぱんチュン」
「牛乳チュン」
「待って待って待って!」
ちょっと待って!
「「「「どうしたチュン?」」」」
「いや、どうしたもこうしたもないでしょ……」
一斉に首を傾げないで。
「なんで人形がしゃべってるの……」
「人形じゃないチュン」
1羽のスズメ人形が、わたしの頭から飛び立つ。しばらく羽をばたつかせてから、わたしの膝の上に降り立った。
「私が南野スズメ、チュン」
何、言ってるの……?
「私もスズメチュン」
「スズメチュン」
「マミのスズメチュン」
ウソ……。
「スズメがいれば淋しくないチュン?」
スズメ人形の、クリクリとした大きな黒目が、わたしを見つめていた。
何を言って……。
「スズメが一緒にいるチュン」
「どこにも行かずにマミと一緒にいるチュン」
「マミ、好き好きチュン」
「いや、あなたたちはスズメ人形で……」
わたしのスズメじゃない、から……。
「スズメチュン」
「南野スズメチュン」
「スズメ=サウスフィールドチュン」
違う。
「スズメは疲れないチュン」
「いっぱいいれば順番に休めるチュン」
「心配ないチュン」
「ずっとマミの傍にいられるチュン」
ああ、そういうことなのね。
「世界が――」
また捻じ曲がったんだわ。




