第28話 目の下から産まれたクマさんはとても小っちゃい!
わたしはマミ。
マミ@スズメを休ませたい。in わたしの部屋。
土曜日だから、今日は学校が休みー。
スズメがうちに遊びに来ているのだ!
わたしとしては思うわけですよ。
なんとかね、変なことが起きないように平常心を保ちつつ、小市民として静かに暮らしていきたいなと……。スズメが傍にいればそれでね?
「ん~? どしたの? 私の顔に何かついてる?」
これ以上、スズメに負担を掛けちゃいけないもんね。
「ちゃんとついてるよー。かわいいお目目とお鼻とお口」
「かわいいだなんてそんな~♡」
くぅぅ。この笑顔、守りたいっ!
わたしだってね、ちゃんと対策は考えているわけですよ。
池中先生に教えてもらったんだけど、実はスズメの1日の出動回数にはけっこう波があるらしいんだよね。
平均的に出動が多いのは、平日のほうらしい。
ただ学校に通って帰ってきているだけなのに不思議だね? 休日のほうがハプニングが多そうなのに。
んー、だけど、思い返してみれば、登下校だけでもいっぱい助けてもらってたなあ。
行き帰りの信号や交通量を調整したり、猛犬に襲われるハプニングを回避したり、猫の集団に連れ去られないように追い払ったり、ナンパしてこようとしている男たちを警察に引き渡したりってね。
わたし、スズメがいなかったら、実は学園にたどり着けてないんじゃないかな……。
学園の中でも、それはそれはきめ細かいおもてなしを……。
わたしが授業で刺されないように、出席番号に関連する日付を調整したり、男子にお腹いっぱいご飯を食べさせて、授業中寝るように仕向けたり、体育でマラソンの授業の時には雨を降らせたり、給食はわたしの好きなものだけが出てくるようにしたりと……。
え、待って。
男子ってお腹いっぱいになると、無害化できるの……? スズメのことをエロい目で見るのは、お腹が減っているからだった……?
それはそれとして……。
とにかくね、外出するといろんなストレス要因が大挙して押し寄せてくるわけですよ。
つまり――。
平日はさておき、休日は引きこもれば何も起きないっ! はず!
そして今日は待望の土曜日!
スズメを1日中休ませるぞー! うぉうぉうぉうぉうぉ!
「マ~ミ~♡ ねぇねぇねぇ♡」
あまえんぼうスズメの登場だ!
かわいい!
無限にヨシヨシしちゃう!
「えへへ♡」
どれどれー。
かわいいかわいいスズメを、お姉さんが腕枕で寝かせてあげようじゃないの。
スズメを抱えてベッドにダーイブ!
「わっ! びっくりした~!」
至近距離で目を白黒させているスズメを観察。
長いまつげがシパシパ。
きめ細かくて白い肌がプルン。
ふわふわのほっぺたがプニッ。
……キスくらいしても罰は当たらない、よね?
幼馴染みだし?
「マ~ミ~」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
邪なことなんて一切考えてません!
「マミ~。暇だから、プールいこっ!」
プール……だって?
「それはちょっと……」
「い~き~た~い~!」
「いやー、もう水関連は当分遠慮したいなーって気持ちで溢れてまして……」
おととい、日本が沈没しかけたばかりだからね。
昨日いっぱいかけて、ようやく水が引いたところだし、プールはノーサンキューでお願いしたい!
「うちのマミも広いプールで泳がせてあげたいの~!」
うちのマミ。
スズメより背の高い皇帝ペンギンの。
うちの……。
わたしは?
わたしは、お隣のマミ。
他人みたいですごくかなしい。
「プールはペンギンの持ち込みは禁止だと思うよ」
「ホームページ見たけど、禁止の中になかった!」
まあ、普通は名指しで『ペンギン』とは書いてないよね。家で飼っている人は少ないだろうし。でもね、ほら、ここの『ペット』の中に含まれているんじゃないかなって思います。
「今日は家でゆっくりしない?」
「え~、出かけたい~! 家にいたら、ストレスたまるでしょ?」
「ぜんぜん」
インドア派だし。
文学少女だし。たぶん。
「たまにはスズメも休んだほうが良いって。毎日忙し過ぎるでしょ。目の下にクマができてるよ?」
ほぼ、わたしのせいだけど。
「大丈夫大丈夫。私のは、やさしいクマさんだから~」
「……どういうこと」
目の下のクマの話をしているつもりなんだけど……。
「うちのクマさんたちは草食だから~、人を襲ったりしないよ?」
ホントどういうこと。
「たまにね~、目の下のクマがポロンって取れて、『クマ~』って鳴いて、隣のお家に遊びに行ってる~」
何も理解できない……。
「クマ……いるの?」
もしかして、ペンギンみたいに?
「目の下から産まれたクマさんだから、とってもちっちゃいよ!」
大きさの話ではなくてね。
「見に行く?」
「……うん」
意味がわからないので、とりあえず、見せてもらおうかな。
と、連れていかれたのは、スズメの家の隣にある一軒家。
ちなみに三軒並びになっていて、スズメの家が真ん中。スズメの家を挟んで反対側がわたしの家って感じ。
んー、見た目は普通の家だね。
表札は……なし。
ここって、ずいぶん高齢の老夫婦が住んでいるんじゃなかったっけ? 名前は……思い出せないなあ。ぜんぜん近所付き合いとかなかったし。
「えっ、ちょっとスズメ! 勝手に入って良いの⁉」
ノックもしなければ呼び鈴も鳴らさずに、いきなり玄関のドアを!
「大丈夫大丈夫~。別荘、みたいなものだからね?」
なんで疑問形?
別荘ってことは、わざわざ隣の家を買い取ったってこと? スズメの家ってお金持ちだったんだね。ぜんぜん知らなかった!
玄関のドアを閉めた後――。
「みんな~、元気にしてる~?」
スズメが大声で叫んだ。
すると。
ドドドドドドド。
部屋の奥や階段の上から、たくさんの足音が近づいてきた⁉
「わぉ~ん」
「がぅがぅがぅ」
「にゃぁ~ん」
「フォッフォッ」
「グッグッ」
「ハッハッハツ」
「フガフガ」
「ピピィ」
「プイプイ」
「フォ~フォ~フォ~」
「シュルルル~」
えええ……いやいやいやいやいや!
何ここ。
「……動物園?」
イヌ、ネコ、まではわかるんだけど……ブタとか、キツネとか、妙に胴が長いやつとか!
ああっ! クマいた!
小っちゃっ! 手のひらサイズだ!
「お~、柊か。いらっしゃい」
「せせせせ先生⁉」
なんでここに池中先生が⁉
しかも白衣じゃなくて、ジェラピケのふわもこルームウェア姿⁉ 超ラフ!
「知らなかったか? 私は今、ここに住んでいるんだ」
「ぜんぜん知らなかったです。まさか、ご近所さんだったとは……」
「行きがかり上、な」
そう言って、ちらりとスズメのほうに視線を送った。
ちなみにスズメはというと、動物たちに手荒い歓迎、というか揉みくちゃにされている。
「これも世界の修復関連ですか……」
「ま、そういうことだ。ゆっくりしていけ。ビーカーでコーヒーも淹れてやるぞ」
「家なんだから、普通に淹れてくださいよ……」
池中先生は「ハハッ」と笑ってから、部屋の奥のほうへと引っ込んでいった。
ついて来いって、ことかな。
「スズメー。動物たちと戯れてないで、中に入ろうよ」
スズメってば、動物たちにめっちゃ好かれてるなあ。
手乗りクマさんたちなんて、髪の毛に絡んで髪飾りみたいになってるし。
胴の長い白いやつ……名前思い出した! フェレットだ!
フェレットがマフラーみたいになってる!




