第27話 スズメが暴走して……日本沈没⁉
教室の室温27度……か。
んー、暑い。
クーラーの効きが悪いんじゃない?
……なんてことはないよね! 27度最高! ぜんぜん暑くない! 超快適気温ー!
いや、ダメだったわ。
南極のブリザードみたいな風が直接吹いてきた……。
「へっくしゅん」
こんなの風邪ひくって。
ん。
スズメが席を立って、トコトコこっちに歩いてきた?
「マミ~。肉まん食べる?」
にっこりと。
「……ありがたくいただきますけどー……でも今、授業中ですよ!」
怒られるよ!
そもそもその肉まんどこから持ってきたの⁉ 真夏だし、購買にもコンビニにも売ってないでしょ!
「首の太い血管を温めると良いよ~」
マフラー!
スズメ柄の刺繍でかわいいけど!
真夏にブリザード級のエアコンの風にあたりながら、マフラーをして肉まんを食べるわたし。
これは何のガマン大会なの?
「エアコンを調節してくれたら、それで良いんだけどな……」
普通が一番だよ。
「いや、暑い……」
また27度……。
ちょうど良い温度設定は無理なの……?
「そうだね~。ヴェネツィアって良いよね。憧れちゃう~」
イタリアの水の都ヴェネツィアですか?
いや、急に何の話?
そんなことより。
「席に戻って授業を受けなさい」
「でも~」
「でもじゃない」
「でもでも~、そのままの服だと濡れちゃうよ?」
……はい?
えっ、えっ⁉
教室に大量の水が流れ込んできた⁉ え、水道管が破裂した⁉
「ヤバいヤバい!……ヤバ……い……?」
先生もクラスメイトも……誰も騒がないね。
膝辺りまで水浸し……あー、そういうこと?
「水の教室2-2~! なんちゃって♡」
「かわいく言ってもダメ」
かわいいけど!
「夏服が水着になった伏線を、ここぞとばかりに回収しようとしなくて良いから……」
あーあ、上履きと靴下がぐちゃぐちゃだよ……。
と、水の流れに乗って、教室の前を大きなスズメが泳いで――。
「やあ、柊。……これはまた、派手にやってるな……」
スズメ型の足漕ぎボート!
……に乗る幼女――じゃなくて、池中先生!
「池中先生……。わたし……じゃないですよ」
「マミもゴンドラで移動する?」
それ、ゴンドラじゃなくて足漕ぎボートだから。
ゴンドラはもっと大きくて、たしか木の舟で、ウンディーネさんが立って手漕ぎで進むボートだからね。
「かわいいけど……普通の教室に戻してほしい」
水の都はノーサンキュー。
「ペンギンのマミも喜んでるのにな~」
ペンギンの……わたし?
すごい速さで水中を移動している黒い物体が!
「これがお風呂場で飼っているという例のペンギン……」
この間の『常夏の海~沈まない太陽2倍キャンペーン』の時に南極に帰りそびれたっ子だ。わたしと同じ名前が付けられている!
「マミ~、マミ~! 戻っておいで~!」
「クワックワッ!」
びっくりした! めっちゃ大きい声で返事するんだ……。
ていうか、思ったよりペンギンデカい!
スズメと身長がほとんど一緒! 若干ペンギンのほうが大きいんじゃない⁉
「マミ~♡ えらいえらい♡ 肉まん食べる~?」
「ちょちょちょ! ペンギンに肉まんあげちゃダメ!」
ペンギンの食べ物は魚でしょ!
「南野。肉も小麦も、やめておいたほうが良いな」
ほらー。理科の先生もこう言ってるし!
「え~? マミはお肉大好きなのに~?」
「それはこっちのわたし……」
人間のほうのマミの好物です。
まあ、わたしは、魚も好きだけど。好き嫌いとかないからね。
「こっちのマミもマミと同じだよ~。ね~、マミ~♡」
「クワックワックワックワッ!」
めっちゃ懐いてる……。
あ、肉まん一飲みにしちゃった。
寒いところの動物だし、熱い食べ物は普通にダメだと思うんだけどな。
「クワッ!」
「あ~、そうなんだぁ。じゃあいこっか~!」
スズメがマミ(ペンギンのほう)の背中に乗って――。
「ちょっとスズメ⁉ どこ行くの⁉」
ナチュラルにメルヘンなことしないで。
今日は『常夏の海~沈まない太陽2倍キャンペーン』の日じゃないよ! もうそんな日は来ないでほしいけどね!
「えっと~。あっちに南国のアイス屋さんが来てるってマミが教えてくれて~。ちょっとアイス買って来ようかなって」
ふむふむ。
「クワッ!」
「ね! 売り切れたら困るよね!」
ふむ……。
完全に……ペンギンと会話してるね。
「これが、柊の望みか? 意外と少女趣味があるんだな」
「絶対違いますね」
見た目幼女な先生に言われると、脳がバグりますね。
「それならこれは……なんだ?」
「それをわたしに訊かれましても……」
また世界が忖度を?
でも、わたしはぜんぜんうれしくない……気もする?
スズメがすっごく楽しそうにしているから、まーーーーー、良いですけどね……。
「う~~~~ん。いかんなぁ」
池中先生がスマホの画面を見て、何やら難しい顔をしていた。
「また何かトラブルですか……?」
まあ、今の惨劇がトラブル以外の何物でもないんですけどね。
「異変が広がり過ぎている……」
「たしかに、だいぶ、ぐちゃぐちゃですね」
控えめに言ってもカオスな状況だなあ。
「いや……日本の国土の7割が水に覆われた」
「えっ⁉」
日本沈没⁉
「暴走しているな……」
「まずくないですか? これってどうすれば……?」
わたしが願う? 元に戻れーって。
でもさっきから、けっこう願ってるような気もしないでもない……。
「違う。南野が、暴走しているんだ……」
「あー」
そういうことですか。
たしかに暴走してますね……。
ペンギンに乗ってどっか行っちゃったし。
「マミ~、せんせぇ! 南国アイス買ってきたよ~!」
10段くらい重ねてあるアイスを両手に。
どんなバランスで乗ってるの、それ……。
「スズメ、楽しそうですね」
「ああ。非常に良くないな」
「良くないんですか?」
「良くないぞ」
スズメが楽しそうなら、わたしは良いかなって思いますけど?
「修復をすべき役割の南野が、積極的に異変を引き起こしてしまっている。そしてそれを、柊は必ず許容する。世界はそれすらも理解した状態でこうなっているということだ」
うーん。
うーん?
「ダメ、ですかね?」
「異変はなるべく早く修復しなければ、その状態が異変ではなくなり、確定してしまうからな」
「……日本は沈没して、水の国になるってことですか?」
「このままだとそうなる」
んー。
「それは、ちょっと困りますね」
「ちょっとどころではないがな」
冗談ですよ。
めっちゃ困りますね。
「んんー。スズメ……疲れているんでしょうね」
ずっとわたしのために世界を修復し続けて……夢の中でも修復しているし、たぶんぜんぜん休めてないんだと思う。
「それは否定しない。だが、南野にしかできないことだ」
「なぜ、スズメだけにしかできないの?」って訊いても、明確な答えは返ってこないんだよねえ。
「困りましたね」
「困った」
なんか、期待するような目で見てきますけど、何ですか……。
「いやー、わたしはわたしで、大人になろうとがんばってはいますよ?」
なるべくいろいろなことを受け流すように。
そして受け入れるように、ってね。
「それは……助かる。が、しかし……」
池中先生はスズメを見つめていた。
「もう少しちゃんと……休ませたい、ですね?」
「そうだな! 南野には少し休む時間が必要だな……」
お、なんか方向性が合っていたっぽい。
でも先生の気持ちはわかる。
「たしかにねー、休んでほしいなあ。世界のほうも変に気を回して、わたしの願いをかなえようとしなくて良いから、スズメの出動機会を減らしてほしいですね……」
「そう、だな……」
先生は、ずっとスズメのことを目で追っていた。




