第23話 わたしがスズメのためにできること
リムジンの車内で渡されたのは、シャンパンではなくて栄養ドリンクだった。
なんかめっちゃ高そうなやつ。
えーと……スーパーロイヤルプレミアムハイテンションエンターテイメントノットデリシャスリミテッドエディション(エゴマ油入り)?
超苦い……。
スズメも「うへぇ」って顔してる。
変顔もかわいい。
「それにしても、リムジンで登校かあ」
「さすがマミだね!」
「いやいや……これは誇って良い感じの雰囲気じゃないでしょ……」
世界に気を遣われていると言いますか……ホント申し訳なくて。
わたし、何もお返しできませんよ?
「マミは生きているだけでえらいからね!」
「それを言うならスズメのほうでしょ」
このかわいさは、世界の宝だし。
あーでも、世界に見つかってほしくはないなあ。
「静かだねぇ。眠くなっちゃう……」
ホントに車が走っているのかと疑っちゃうほどに、何の振動も来ない。
エンジンの音も、周りの走行音も何にも。
でも窓の外を見れば、ビュンビュン景色が流れていく。
「座席は広いし、寝ても良いんじゃない?」
すぐ着いちゃうと思うけどね。
「あ~、枕だぁ♡ おやすみなさい」
スズメは、羊のマークの枕に頭を預け、すぐに寝息を立て始めた。
疲れている、のかな。
疲れているよね。
1日100回も、世界の捻じれを修復してくれているんだもんね……。
誰にも見てもらえないのに。
それを引き起こしたわたしさえも知らなかったのに。
「無理させてごめんね……」
スズメの頭をそっと撫でる。
髪の毛に指を通して、少し乱れた髪型を整え――。
耳たぶをプニプニ。
あ、笑った。かわいいなあ。
写真撮っておこ。
やっぱり動画にしよ。
ほっぺたをツンツン。
小刻みに震え出した。
鼻のてっぺんを押してみたら――くしゃみした!
触るところによって反応が違うのが、またかわいい。
こんなにかわいいのに、世界を守ってくれてるんだなあ。
何かお返しがしたいな。
わたしがスズメのためにできることって何だろう。
やっぱり……できるだけ世界を捻じ曲げないようにすることだよね……。
なるべく変なことを考えないようにする。
ガマンすると、余計に良くないって言われたしなあ。でも、ガマンじゃなくて、最初から考えなければガマンにならないよね。
〇〇だったら良いのに。
みたいなことを思わないようにする訓練が必要、かな。
そうだよ。
今朝の紫外線対策だってそう。スズメが日焼けしたってかわいいに決まってるんだから、別にリムジンに乗ってまで登校する必要ないんだよね!
歩いても15分。
走ったら10分くらい。
車だったら……あれ?
なんでまだ、学園に着かないの?
動画の撮影時間――1時間45分⁉
えっ、完全に遅刻じゃん!
「ちょっと! 運転士さん⁉」
なんかこう、仕切り板みたいなのがついていて、運転席の様子が見えない。
「こっちの声、聞こえてますか⁉」
『はい、なんでしょうか』
あ、スピーカーから声が。
「いつ着きますか⁉ もう遅刻しちゃってるんですけど!」
先生になって言おう……。
リムジンに乗ったら渋滞に巻き込まれました?
いやいや、そもそも知らない人の車に乗るなって話だし……。
『いいえ、遅刻はしておりません』
「えっ、だってもう10時ですよ⁉」
『スズメお嬢様がお疲れのようですので、今しばらく休憩のお時間をちょうだいしたく存じます』
「お疲れ……ですけど……」
んー、まあ良いか。
もう遅刻は確定しているし、今さら急いでもね。
「スズメも気持ち良さそうに寝ていますし、あと少しだけなら……」
『ありがとうございます。もしよろしければ、ヒーリングミュージックなどをおかけしてもよろしいでしょうか』
「あ、はい。お願いします」
こうなったら、徹底的にスズメに癒しの時間を!
『それでは良き旅を』
旅、ね。
オルゴールの曲かあ。癒されるわあ。
ふわぁぁぁぁ。
……わたしも眠くなってきちゃった。
「マミ~! マミ~! 早く起きて~!」
ふへっ?
「マミったらもう! こんな短い移動時間に寝ちゃうなんて~! また夜更かしでもしたんでしょ!」
「えっ……あれ? もう着いた?」
後部座席のドアが開かれている。
「けっこう前に着いてたよ! マミが寝ちゃってるから、ずっと起こしてたの!」
「それは……ごめん」
スズメの寝顔を見ながら、オルゴールの音楽を聞いていたら、つい……。
「遅刻しちゃうから早くいこ!」
「いや、もう完全に遅刻しているって……」
あれから何時間経った?
もしかして、もう給食の時間だったり?
「まだ間に合うって~。急ご!」
え……8時22分。
「ウソでしょ……」
どういうこと……。
まさかまた、世界が捻じ曲がって、時間が撒き戻った……?
「本日はご乗車いただき、誠にありがとうございました。これからも良き旅を」
運転士のお姉さんが手を差し伸べてきた。
「マミ~! 早く早く~!」
「あ、うん」
運転士のお姉さんの手に掴まって、リムジンから降りる。
「それではまた、ご縁がありますように」
お姉さんの素敵な笑顔を残して、リムジンは走り去っていった。
時刻は、8時25分。
朝の会が始まるまでに、まだ10分もある……。
「スズメが直してくれたの?」
「なにを?」
「時間だけど」
スズメは不思議そうな顔をして首を傾げた。
「まだ何にもしてないよ~。リムジンのことはあとで良い感じにやっておくね!」
何も……?
じゃあ、さっきのは……ホントに夢?
スマホのビデオの撮影時間が、12時間を超えていたのに気づいたのは、教室の座席に着いた後だった。




