第20話 マミの淋しがり度チェック
常夏の海~沈まない太陽2倍キャンペーンの日から3日後。
今のところ世界の平和は保たれたまま、何気ない日常を謳歌しているわけだけど――。
昼休み。
給食を食べ終えた後のひと時。
「マミ~どうしよ~。放課後に理科準備室に集合だって~」
スズメが、スマホの画面を一瞥してから机に突っ伏した。
「呼び出し? 昨日の課題は提出したよね」
授業中に課題のプリントを終えられなかった人だけ、宿題になって持ち帰っていたやつね。もちろんわたしは、授業中に終わっているから問題なしだけど。
「課題~? そんなのあったっけ~? あ~~~~」
スズメは宿題組だったはず。
「手伝おうか」って言ったのに、「あと少しだからよゆ~」って言っていたのは、どこのどなたでしたっけね?
「もちろん別件のほうだよ~」
あー、別件ね……。
世界の終わり案件かなあ。
わたし、今のところ何もやらかしてないと思うんだけど。
* * *
放課後、理科準備室に入るなり、白衣のちびっ子先生こと池中先生が高らかに宣言した。
「というわけで実験を行う!」
「実験、ですか……」
実は別件の呼び出しじゃなくて、理科の実験だったりするのかな?
「事前に南野から説明があったと思うが、感情のコントロールの実験に協力してもらう」
「感情の……」
スズメさん……? わたし、何も事前に説明なんてものをしていただけていないんですけど? あ、露骨に目を逸らしてきたな⁉
「あれだよあれ~」
どれよ。
「ほら……マミの淋しがり度チェック?」
「なにそれ」
「どれくらいの時間までなら、私が傍にいなくても大丈夫かな~の実験だよ!」
「えっ、それって……」
ストレス耐性的なチェックをされるってこと?
「我々も、これまでは柊に関知されないように影から見守ってきた。しかし今は次のフェーズに移行し、柊自身にも自分の置かれた状況を把握してもらう必要が出てきたわけだ」
わたしの願望をかなえようとして、世界のほうが勝手に常識やらなんやらを捻じ曲げてしまうという恐ろしい事象について、ですね……。
「スズメのおかげで世界平和は保たれていたんだよね……」
その節は、大変苦労をおかけいたしました。
「そんな大層なもんじゃないってぇ。マミが楽しければ私も楽しいし。Win-Winってやつかな~」
にへらと笑うスズメ。
なんて良い子なの! 好き!
「事実を知った柊が、変に自分を抑圧せずに感情を小出しにしつつ、緩やかにコントロールできる状態が理想だ」
なんとなく言っていることはわかります。
「そのためには、どこがボーダーラインなのかを正しく理解してもらう必要がある」
「ボーダーライン、ですか」
それって、世界が滅亡するかどうかの――。
「ターニングポイントって意味ですよね」
ここまで来たら、もう引き返せない場所を見極める。
「いいや、ボーダーラインだ。そんなにギリギリを攻める必要はない。柊自身に、安全マージンがどれくらいなのかを体感してほしいだけだからな」
もうちょっと緩く考えろってことですかねー。
「というわけで、このあとの時間は、柊にはこの理科準備室の中でしばらく1人過ごしてもらう」
「私は別室でモニタリングしてるからね~。淋しくても私を呼んじゃダメだよ! うへへ♡」
なんでスズメはちょっと楽しそうなの。
「呼ばないけどさー」
別に放課後1人で過ごしたことがないわけじゃないし?
「2時間ほどここで過ごした後、致命的な問題が起きなければ、そのまま1人で帰宅してもらう予定だ。作戦終了時刻は、ヒトハチマルマルとする」
「……なんて?」
「ああ、すまん。18時だ」
「なんでちょっと軍隊っぽく言ったんですか……? もしかして先生って……自衛隊所属?」
池中先生って、学校の教師以外にも政府に席があるとかなんとか……誰か偉い人が言っていた気がする!
「いや、昨日の晩『フルメタル・ジャケット』を見ていたから、つい真似して使ってみたくなっただけだ」
「え~! あれ私も好き~! ハードボイルド!」
「あの渋さがわかるのか! 南野もやるな!」
え……わたしだけ、何にもわからない……。
ジャケット? 服の話……?
「オホン。とにかく、作戦は18時で終了だ。それより前でも、異変が起こった時点で実験は中断するものとする。良いか、お前ら! わかったら返事だ~!」
「サ~・イエッサ~!」
「バカモノ! 私は女子だ!」
「イエスマム!」
「グズグズするな! ケツを蹴り上げられたいか⁉」
「イエスマム!」
「敬礼をしている暇があったら、さっさと行動しろ! のろま!」
「イエスマム!」
……なにこれ。
あ、スズメが駆け足で理科準備室を出て行っちゃった……。
池中先生は、その姿を見て満足そうに頷いた後、わたしのほうに向きなおった。
「というわけで実験開始だ」
良い笑顔、ですね……。
「浮かない顔だな? 南野がいなくなって、もう心細いか?」
「さすがにそれは……」
まだ1分も経っていないですし。
2歳の子でもまだ泣かずにガマンできますよ……。
「なんかこう……スズメと池中先生って仲が良いなって……」
たぶん何か、同じ組織的なところに属しているんですよね?
「いや……これはすべて……演技だ」
「どういうことですか……」
「柊の感情に波風を立てるための実験だ。悪く思うなよ」
眉間にしわを寄せて言われても……。
「演技ですか……。映画撮った時にも思ったんですけど、スズメも演技がうまいですよね。台本を1回読んだだけで、あんなに自然な演技を。ほぼ一発撮りでしたし」
「『スズメの恩返し』か。あれは迫真の演技だったな」
「それでちょっと……。もしかしたら、普段のスズメも演技をしているのかなあって」
わたしに見せている顔って、スズメの素なの? それとも世界を守るための演技なの? って、不安が――。
「あの子は……そんな器用ではない、と思うぞ」
「そう、ですか」
あの子。
池中先生がスズメのことを庇うと……モヤッとする。
「おい……おい……柊……」
池中先生の様子がおかしい。
「何ですか?」
窓の外を見て、何で震えているんですか?
あ――。
「お前……3分も持たないのか……」
窓の外で、なんかこう……巨大な怪獣みたいなのが火を噴いて暴れていた。
「……すみませんでした」
わたし、役立たずのウルトラマンでした。




