第18話 メンヘラの究極系、地動説を覆す?
じゃあ、わたしの願いをかなえるために、太陽のほうが勝手に忖度して昼の位置まで戻ったってこと?
「わたし何者よ……。えっ、怖っ!」
「太陽よりも強い存在……かな? さすがマミだねぇ♡」
スズメが抱き着いてくる。
「え? 今の話の中に、さすが要素なくなかった?」
これが夢じゃないんなら、普通にホラー案件なんですが⁉
「もしかして、今って世界中で大パニックになったりしてない……? 昼と夜が逆転しちゃって、世界の終わりだー、みたいな……」
占い師とか、預言者とか、泡吹いて倒れてそう……。
インターネットに繋がらないからニュースが見られない……。
「大丈夫大丈夫~。私たち以外、この異変には気づいてないはずだから~」
「……どういうこと?」
スズメがちらりと池中先生のほうを見た。
先生は小さく頷くと、スズメの代わりにしゃべり出した。
「柊が願った通りに世界は変容していく。その対象には、人の常識も含まれる」
「……洗脳?」
「太陽系では太陽が中心にあり、地球を含む惑星は、太陽の周りを自転しながら公転している」
「地動説、ですね」
「その常識が書き換えられた。ただそれだけのことだよ」
「それだけって言われても……」
わたしの仕業⁉……ヤバくない?
「柊が望めば、また元に戻ることもあるだろうな」
「いやいやいや、今すぐ戻って? 地球の公転周期は365日! 1日は24時間! 昼と夜があって、春夏秋冬の季節がほしい!」
これで……元通り?
「えっ、ぜんぜん戻らないんですけど⁉」
どういうこと⁉
「地球の公転を逆回転させることがお前の願いではないからだよ」
「それってトンチですか……?」
ごめんなさい、降参するので、その屏風から虎を追い出してください。
「きっとマミが納得していないから、まだ夜にはなれないってことじゃないかなぁ」
「またわたしのせい⁉ 納得していないって何よ」
「んふふ♡」
えっと……何?
椅子に座れって……?
「あの……」
なんでスズメは、わたしの膝の上に座ってきたの……?
「マミは、私のこと好きぃ?」
首に手を回してきて、耳元で囁くのは反則じゃないですかね……。
「そ、そりゃ、ね……?」
今、わたし、クールに答えられた⁉
声が上擦ってた⁉ いやー! 恥ずかしいっ!
「おおおお幼馴染みとしてねっ⁉」
ああああああああああああ!
勘違いされてないよね⁉ わたし、キモくなかったよね⁉ ね⁉ ねねねねね⁉
「でもぉ……まだ疑ってるでしょ?」
一瞬、息が止まった。
「私と池中先生が何かしてるって思ってるでしょ」
「……オモッテナイヨ」
「マミがまだ納得していないから、昼間が終わらないんだと思うよ」
つまり、太陽を昼間に留めているのはわたし。
そういうことだって言いたいのね。
「んんー」
どうしたものかな。
「OKOK。じゃあ、2人の言うことを全面的に信じるようにがんばる!」
「ホントにぃ? 私たちが、マミのことを騙そうとしているかもしれないのにぃ? ふぅ~♡」
耳に吐息を!
ななななんて小悪魔なの!
「ほらぁ、せんせぇも~♡」
「私か⁉……仕方ないな。……ふぅ~」
えっ、ちょっ⁉
「なにするんですか⁉」
鳥肌立ったわ!
教師が生徒にそういうことをするのはどうかと思いますよ!
「いや……南野が色仕掛け作戦の指示をだな……。なんかすまん。真顔で睨まれるとは思わなかった……」
そこまで恐縮されると、わたしが悪いみたいじゃないですか……。
「へこんでるせんせぇもかわいい♡」
「すすすすスズメ⁉」
まさか、スズメの好きな人って、池中先生なの⁉
そんなの嫌よ!
わたしのスズメぇ……。
誰にも渡したくないの。先生と親しくしないで。わたしとだけ仲良くして……。一生幼馴染みのままで良いから。これ以上の関係は望まないから、誰のものにもならないでぇ……。
「おい! 南野! ヤバいぞ!」
池中先生の緊張した声。
……あれ? 急に暗くなってきた?
「マミ! 太陽が!」
太陽?
「ああっ! 何あれぇ⁉」
端から欠けて……日蝕⁉
「これはまずい! 柊、誤解するな! 私と南野は何の関係もない! ただの教師と生徒で、上司と部下なだけだ! 一切の恋愛感情はない! そもそも、私はイケオジ好きだ! ほらっ、証拠もある! 今のイチオシは、俳優の西村マサヒコ様だ!」
ブロマイド写真を首から下げて……先生、ガチじゃん。
おじさんと世界一の超絶美少女スズメじゃ、ジャンルが違い過ぎる……。じゃあ、スズメのことは何とも思ってない……?
「せんせぇ! 太陽が!」
おや? 急に明るく?
日蝕が終わって元のまんまる太陽に?
「本当に危なかった……。だから、この作戦はリスクがあるからやめようと言ったんだ……」
先生、玉のような汗を掻いていらっしゃいますが?
「ん~とぉ……」
わたしの膝の上でゆらゆら揺れないで。
「これでわかったでしょ?」
「……何が?」
先生の性癖?
まあ、それはわかったけど。
「先生が、ハゲたおじいさん好きだとは思わなかった」
「バカモノ! 西村様はおじいさんではないわ!」
ハゲは否定しない、と。
「今ね、マミが世界に絶望したから、太陽が光を失って、地上の生物が死滅する氷河期に入ろうとしたんだよ?」
「……え」
氷河期……?
「恐竜が滅んだ、あれ?」
「それには諸説あるがな。巨大な隕石が海に落ち、巻き上げられた粉塵によって、太陽光が遮られて氷河期が来た、というのが今のところ最有力な説と言われている」
さすが理科の先生だねえ。
「でもでもぉ~、今のは違うよ?」
「ほぇ?」
「太陽光が遮られたんじゃなくてね、太陽がなくなっちゃうところだったの~」
んんー……。
「もっとヤバい?」
「もっとヤバい!」
ヤバい!
「わたしのせい……?」
「まぁ……そうかなぁ? 私きっかけでもあるけどね!」
たしかに……。
でも。
「わたしが世界の滅亡を……。わたしって、危ない存在……」
だよね……。
「ぜんぜん危なくないよぉ!」
「危ないでしょ……。ちょっとした勘違いで世界を滅亡させようとした、んだよ……?」
「大丈夫だよぉ。今も、滅亡しかかっただけで、滅亡はしなかったでしょ?」
なんでそんなに余裕なの……。
滅亡だよ、滅亡! SEKAI NO OWARIですよ!
「マミの傍にはわたしがいるもん。マミの気分が落ち込んだら、わたしが元気にさせてあげるから大丈夫~♡」
ちょっと楽しそうなのはなんでなの……。
「ちょっと気分が落ち込んだだけで、世界滅亡の危機になるとか……」
メンヘラの究極系過ぎないですかね?
「んんー。わたしって、寺にでも入って修行したほうが良い?」
「なんでお寺なの?」
「感情を無にする、みたいなことをしないと、ちょっとしたことで世界の危機が訪れちゃうし……」
座禅を組んで、心頭滅却すれば火もまた涼し?
「柊、それは悪手だ」
「握手?」
スズメの手を握って……柔らかぁい。
「悪い手という意味だ」
「し、知ってます!」
ちょっとボケただけですぅ。
顔、熱っ。
「感情は変に抑えず、表に出していけ。良い感情も悪い感情も小出しにしないと……溢れ出る」
一気にボーン?
「小っちゃい感情ならね、わたしが何とかしてあげられる……と思う!」
力強……くはない握手。
握力弱々でかわいい。
「スズメは、超能力者なの?」
悪のわたしに対抗するために生み出された、人類の最終兵器的な?
あ、わかった!
美少女戦士だ! ツインテールにして魔法少女にしよう!
「ただの幼馴染みだよぉ」
「またまたー」
「マミと一緒にいるのが楽しいだけの幼馴染み! だから、私と一緒に楽しく過ごせば、マミは大丈夫なの!」
なるほど……?
「まあ、そういうことだ」
池中先生はそれだけ言うと、ヒビの入った窓ガラスをそっと撫でた。
「えっ、それだけ? 先生には、なんか科学者っぽい理屈をこねて納得させてほしいんですけど……」
「そうしてやりたいところだが……何もわかっていないんだ。今わかっているのは、南野が言ったことだけなんだよ」
「そんなぁ……。わたしが超危ないヤツってことしかわからないじゃないですか!」
怖すぎて、お家に帰れない……。
「だからぁ! マミは危なくなんてないの! メッ!」
「世界滅亡女だよ……」
危なすぎるよ。
「ずっと私が一緒にいてあげるから大丈夫! よっと!」
スズメがわたしの膝の上から飛び降りる。
「……ずっと?」
「ず~~~~~~~っと! 私たちが学校を卒業して~、マミがエロい感じのリクスーを着てOLになっても~、それから、年取っておばあちゃんになっても! ず~っとだよ!」
「ずっと……」
スズメのスーツ姿……でへへ♡
じゃなくて!
「スズメは……ほら……結婚とか?」
「しないよぉ。マミより好きな人なんてできるわけないし!」
なん……だって……。
これはもう、実質プロポーズ⁉
わたし……ゴールしても良い……カナ?
「おい! 南野! ヤバい! 太陽がっ!」
ん、何か暑い……?
「ああああ! 太陽が! 長巨大になってるぅ! 常夏! 急に常夏がぁ!」
「マミ! 抑えて抑えて!」
抑えて⁉ 何を⁉
「わたし、今、人生の絶頂を迎えているんですけど⁉」
もう、何にも抑えられないっ!
このまま全力疾走でぇぇぇぇぇ!




