第14話 太陽は沈まない
何が……起こっているの……?
「今、太陽が――」
「大丈夫だから!」
スズメがわたしの頭を強く抱きしめる。
視界を奪われ、スズメでいっぱいになった。
――まるで太陽のような、優しい匂い。
「怖いことなんて何にもないから、大丈夫だから。マミは何も心配しなくて大丈夫だから」
「でも」
「何もないから。ちょっと強風で揺れただけだから。大丈夫大丈夫。すぐ収まるから安心して」
大丈夫。
スズメはその言葉だけを繰り返している。
わたしには、逆にスズメのほうが、何かに怯えて震えているようにしか思えない。
でも、一体何に?
最近、立て続けに起こっている不思議な出来事?
それとも別の何か?
「スズメは……大丈夫なの?」
こんなに追い詰められた様子のスズメは見たことがない。
いつもやさしくて、ほわほわしていて、かわいくて……。もし、スズメが何か困っているなら、わたしが助けるから。
「私……は大丈夫。マミが大丈夫なら、私は大丈夫だから……」
さらに強く。
わたしの全部が、スズメに包み込まれる。
わたしにはスズメがいる。
だから――。
「わたしだって同じだよ。スズメが大丈夫なら、わたしも大丈夫」
でもね。
大丈夫だから、教えてほしいんだ。
「ねえ、スズメ。わたしに隠し事、してるでしょ」
窓ガラスが音を立てる。
風も吹いていないのに。
「南野」
至近距離で、池中先生の声が聞こえてきた。
わたしの背中に、そっと手が添えられる。
温かい手。
「南野。そろそろ良いんじゃないのか?」
「ダメッ!」
スズメの体が震える。
強烈な拒絶反応。
「一人で抱え込むな」
やっぱりスズメは何かを隠している。
それも一人で。
池中先生は、それが何なのかを知っている。
「嫌なの! マミには……ずっと笑っていてほしいの……」
スズメの声が、すすり泣くような声に変わっていく。
わたしに関係する何かを、スズメは隠している。
もしわたしがそれを聞いてしまったなら、笑っていられなくなるような、そんな隠し事を。
「南野はこれまでよくやった。だから……次に進む必要があるのは、もうわかるな?」
「嫌……。マミは何も知らないほうが良い……」
「『気のせい』でやり過ごすのはもう無理だ。すでに限度は超えた」
「まだ大丈夫! まだ明日になれば……全部夢になるから!」
夢。
この不思議な出来事が、現実にはなかったことに。
もしかして、今までもそうやって……?
真っ先に思い出されるのが『青空記念日』の遊園地。
次の日、スズメは最初『青空記念日』のことを忘れていた。
でもきっと、そうじゃなかったんだと思う。
なかったことにしようとした。
わたしが納得したら、きっとあれは夢だったってことにされていたんだね。
ほかにも――。
「南野。それはもう無理だ。手遅れなんだ……」
先生がわたしの背中をやさしく擦る。
きっと反対側の手では、スズメの背中も同じように。
「わかっているんだろう?」
スズメの体が強張るのを感じた。
「太陽は――沈まない」
スズメの腕から力が抜ける。
その時、わたしは見た。
茜色の空――。
おそらくもう、夕方も遅い時刻だというのに。
夕焼けの太陽が、まるで今お昼の時刻を迎えたばかりのように、空高くあることを。
太陽は、自らの意思で沈むのを拒絶しているかのように、ギラギラと輝いていた。




