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亡国の反逆少女たち  作者: しゃぼてん


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第7話 アズハ

 小高い丘の上に一級市民と上流二級市民が住む高級住宅街がある。その高台の一画にアズハの家はある。

 この家には、今、アズハの他の家族は住んでいない。


 偉大党幹部のアズハの父は、かつて出世のために大陸の一級市民女性と結婚し、アズハが生まれた。

 しかし、彼らはアズハが幼い頃に離婚、母はアズハを捨てて一人大陸に戻った。父はほどなく愛人だった日本人女性と再婚したが、数年前に彼女とも別れ、今は三度目の結婚をして新しい家庭を築いている。


 父の2人目の結婚相手は、アズハにとっては実質育ての母で、仲がよかった。彼女のことをアズハは実の母親以上に母親だと思っている。

 だが、母というより姉というほどしか年齢が離れていない父親の三人目の妻とは折り合いが悪かった。


 だから、父と新しい妻が引っ越すと言った時に、アズハはそのままこの家で一人暮らしをすると主張し、結果、厄介払いのような形で、願いがかなった。


 アズハはリビングの窓から町を見下ろした。ガラスに自分の顔がぼんやりとうつり、その向こうに復興しきれていない灰色の街並みがみえていた。

 あの町のどこかに、藤原優香がいる。

 わずかに鼓動が早まった。


 同じ学年の生徒の顔と名前は、最初の1週間で覚えるようにしていた。だから、彼女のことは1年の最初の週に認識していた。

 一見、平凡な少女。この国に無数にいる二級市民のひとり。

 日本自治区のどこにでもいるような庶民の家の娘で、よくみれば顔貌は美しいが、校則通りの髪形と制服は、彼女を本当にどこにでもいる平凡な少女に仕立てあげていた。


 それでいて、彼女はどこかほかの人とは違った。


 アズハはガラスに向かってつぶやいた。


「私に関わっちゃいけない」


 今日まで、アズハには微塵の迷いもなかった。

 復讐の先には破滅しかない。

 地獄を見る前に死ねれば御の字。

 なんら愛着を感じないあの父親をふくめ、アズハの行動の結果、家族は多かれ少なかれ皆、絶望の淵に叩き込まれる。

 そうなっても、すべてが本望。

 むしろ全員死んでしまえばいい、と怒りに満ちた心は叫んでいた。


 だが、この破滅を巻き散らす復讐譚に彼女はまきこみたくなかった。


 普通のニ級市民がテロリストとして捕まれば、簡単には殺してもらえない。

 拷問を受け、生き延びたとしても、さらなる生き地獄に送られる。

 何も知らない家族ですら、運が良くて三級市民落ちだ。


 だから、この前、東条歩が提案した時、アズハははっきりと反対した。


「どうせバレちゃったんだ。あの子を仲間にいれようよ。そのほうがコントロールしやすい。たぶん彼女はすすんで協力してくれるよ」


「却下」


「まきこみたくないって? いやぁ、君は女の子にはやさしいね。俺のことは容赦なく巻きこんでおいて。それとも、あの子だから?」


 おどけたようにからかうように言う歩の言葉に、アズハは自分でも驚くほどに苛ついた。


「ふざけるな」


 たしかにアズハは歩は遠慮なく巻きこんだ。

 だが、それは三級市民地区で会った時、歩の瞳の奥に、自分の心に燃え盛る怒りと共鳴するような怒りが見えた気がしたからだ。


 三級市民地区に送られた弟を持ち、大人たちが見て見ぬふりをする絶望的な現実をその目で見てきた歩と、何も知らずに平和に二級市民地区で生きてきた彼女は、違う。

 少なくともアズハはそう思っていた。


 歩は肩をすくめて言った。


「まぁ、いいけどね。だけど、あの子、たぶん、非定型能力者(エイティー)だと思うよ。本人は自覚してなさそうだけど」


「エイティー? 代償は?」


「さぁ。君と同じように障害のないラッキーなレアタイプかな。ひょっとしたら見えないところにあるのかもしれないけど」


 非定型能力者、通称エイティー、あるいは、新人類とかニューヒューマンと呼ぶ者もいる。

 彼らが生まれる仕組みも、その能力の謎もはっきりとは解明されていない。

 だが、いつのころからか地球上の人類の中に一定の確率で彼らが生まれるようになった。


 彼らは、普通の人間にはない、ずば抜けて優れた能力、時には不可思議な超能力としか思えない力を持つ。その代わり、たいていどこかに激しい能力の欠落や障害を持っている。


 国によっては彼らの能力を重用しているところもあるが、どこかに欠落部分があれば三級市民とされる日本自治区では、非定型能力者はほぼ間違いなく三級市民行きだ。

 だから、エイティーはこの自治区では蔑称、劣った者を馬鹿にする言葉だと思われている。非定型能力者の弟をもつ歩は、決してそうは思っていないが。


「わからない程度なら、そのまま二級市民として生きていける」


「ふーん。やっぱり彼女が心配なんだね?」


「何が言いたい?」


 歩は肩をすくめ、軽い調子で言った。


「別に? 付き合っちゃえよ。彼女、君のことが好きだよ」


「ふざけるな」


「ま、冗談だけどね」


 冗談じゃない。


 自分を映すガラスを見つめながら、心の中で、アズハつぶやいた。


 彼女は、決して、この破滅の道に引きずりこんではいけない。


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