表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で普通に生きるために危ない仕事をする  作者: Yuki


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/58

第6話 明日から

町に入ってから、瑠衣は何度も視線を感じていた。


だが、その理由ははっきりしている。


(……ケガじゃない)


包帯を巻いた人間は、町にいくらでもいる。

傷そのものは、特別じゃない。


見られているのは、服だった。


動きにくそうな形。

妙に整った縫製。

旅人でも労働者でもない格好。


(……そりゃ、浮くよね)


三人の同行者は、町の外れへ向かって歩いていた。

人通りが減り、建物の間隔が広くなる。


大きな木造の建物が見えてきた。

荷車と木箱。

出入りする人間の多くは、武器を持っていない。


(……倉庫、かな)


中に入ると、空気が変わった。

埃と木の匂い。

仕事場の匂いだ。


男だけではない。

箱の整理をする年配の女性と、

その近くで仕分けをしている若い女性が二人。


(……人は、ちゃんといる)


少しだけ、肩の力が抜けた。


年配の男が前に出てきて、

同行者と短い言葉を交わす。


内容は分からない。

だが、流れは読める。


——ここで働くか。

——条件はどうする。


男の視線が、瑠衣に向く。

包帯。

服。

体格。


評価、というより確認だ。


瑠衣は、何も言わずに立っていた。

今は、しゃべれない。

無理に主張する場面でもない。


しばらくして、男が建物の奥を指した。


倉庫の裏。

簡単な仕切りの向こうに、粗末な寝台が並んでいる。


(……寝る場所)


次に、食事の方角を示す仕草。


(……飯も、出る)


条件は単純だ。


働く。

その代わりに、寝床と食事。


金の話は、出ない。


(……妥当)


今の瑠衣には、選択肢がない。

家を借りることもできない。

宿に泊まる金もない。


「今日から」ではないのが、救いだった。


男は、手を広げて、

太陽の沈む方角を指す。


(……明日から、か)


今日は、準備だけ。


それでいい。


同行者の一人が、瑠衣の方を見て、

短く頷いた。


「ここなら、大丈夫だろ」


そう言われている気がした。


倉庫を出ると、日が傾き始めていた。


肩はまだ痛む。

服も、相変わらず浮いている。


(……でも)


今日一日で、


町に入った


働く場所が決まった


寝る場所がある


それだけで、十分だ。


倉庫の裏で、簡単な食事が出た。

パンと、薄いスープ。


量は多くない。

でも、温かい。


(……ありがたい)


夜、寝台に横になる。


天井は低く、布は薄い。

それでも、地面よりはずっといい。


肩の具合を確かめる。


(……明日、動ける)


無理はしない。

できることだけ、やる。


働いて、

寝て、

食べて。


順番を守れば、生きていける。


瑠衣は、そう判断して目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ