第4話 目覚めた場所、見られる側
とりあえず5話まで今日書いてみます。
意識が戻ったとき、最初に感じたのは痛みだった。
肩。
鈍く、熱を持った感覚。
そのすぐあとに、違和感。
(……布、巻かれてる)
櫻井瑠衣は、すぐには目を開けなかった。
身体を動かさず、呼吸だけを整える。
床は固い。
だが、地面ではない。
焚き火の匂いと、木の匂いが混じっている。
(……屋内、かな)
そこまで確認してから、ゆっくりと目を開けた。
視界に入ったのは、木組みの天井。
粗い造りだが、雨風はしのげそうだ。
森の中よりは、ましな場所。
だが、安心はしない。
視線を動かすと、少し離れた位置に人影があった。
三人。
全員、立ったまま。
距離を保ち、こちらを見ている。
(……警戒、されてる)
当然だと思った。
自分は、この世界の人間じゃない。
服装も、素材も、形も違う。
しかも、血まみれで倒れていた。
立場が逆なら、同じ対応をする。
瑠衣は、両手をゆっくりと視界に入る位置へ動かした。
何も持っていないことを示す。
その動きに、相手の一人が反応した。
わずかに腰を落とし、武器に手をかける。
(……距離は、保ったまま)
悪くない。
誰かが、言葉を発した。
短く、硬い音。
意味は分からないが、問いかけだと分かる。
瑠衣は首を横に振る。
分からない、という意思表示。
それから、自分を指さす。
「……ルイ」
発音は、日本語のままだ。
通じるとは思っていない。
案の定、相手は顔を見合わせるだけだった。
(……まあ、そうなるよね)
無理に話そうとはしない。
通じない言葉を重ねるのは、相手の警戒を強めるだけだ。
瑠衣は、肩の包帯を指さした。
次に、噛みつく仕草をする。
狼の形を、簡単に手で描く。
相手の一人が、低く声を出した。
「……ヴァル」
単語だけが、耳に残る。
(……狼、かな)
確信はないが、反応から判断する。
空気が、ほんの少しだけ変わった。
完全に信用されたわけではないが、
敵ではない、と理解された気配。
瑠衣は、それ以上動かなかった。
今は、弱っている。
(……ここで無理するのは、普通じゃない)
選択は、いつも通りだった。
視線を下げ、静かに待つ。
相手が次に何をするかを見る。
誰かが、水の入った器を置いた。
距離は詰めない。
(……毒の可能性も、ゼロじゃない)
だが、喉は渇いている。
瑠衣は少しだけ器に手を伸ばし、
匂いを確かめる。
変な匂いは、しない。
一口だけ、口に含む。
問題は、なさそうだ。
(……よし)
その様子を、相手たちは黙って見ていた。
助けられた。
だが、安全ではない。
それでいい。
ここはまだ、
次の判断を間違えたら終わる場所だ。
瑠衣は、もう一度、ゆっくりと息を整えた。




