↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で普通に生きるために危ない仕事をする 〜なぜか体だけが強すぎる元会社員、目立たず働きたいだけなのに〜  作者: Yuki
第一章 普通の仕事ができるまで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/87

第39話 商隊護衛⑥ 焚き火の距離

 日が沈むと、街道の空気は急に冷えこんだ。一行は見通しのいい場所を選び、野営の準備を始める。

 ルーシーは近くの林から枯れ木を集め、それが終わると、エドガーたちの天幕(てんまく)のペグ打ちに回った。

 渡された木槌(きづち)で、ペグの頭を二度叩(たた)いた。

 ペグが消えた。

 頭まで、すっぽりと地面の中だ。足元には、土の丸い凹(へこ)みしか残っていない。

 (一回目で、もう半分入ってた。二回目は、いらなかった)

「貸してみろ」

 天幕の向こうから、バルドリックがのそりと来た。

「エステル、布の端、持っててくれ」

 隣で天幕の布を広げていた白い人――エステルが、外套(がいとう)の裾(すそ)を押さえたまま布を引き受けた。バルドリックは凹みの前にしゃがみこみ、太い指で土を掻(か)き分けて、ペグの頭を指先でつまんだ。

「ペグってやつは、新入り。こう、揺すりながら――」

 引いた。

 ペグは動かなかった。

 指を掛け直し、もう一度引く。首筋に筋が浮き、顔がじわじわと赤くなっていく。ペグは、微動だにしない。

 焚(た)き火の方から、いつの間にかの人の声が飛んできた。

「おーい、盾が負けてるぞ」

「うるせえ」

 バルドリックは土を払って立ち上がり、ルーシーの肩をぽんと叩(たた)いた。

「明日だな」

「はい。明日です」

 二本目からは、半分の力で叩(たた)いた。それでもペグは、ほかの天幕より、爪の先ほど深く入った。

 食事は硬いパンと、干し肉入りの薄いスープだった。一日歩いた体に、塩気がよく染みた。

「前に出なかったな」

 スープを啜(すす)っていたブレイデンが、焚(た)き火を見たまま言った。

「出ても、足手まといなので」

「前に出る新人は、たいてい二日目に担架だ。担架を担(かつ)ぐ手間は、そいつの取り分から引く」

 (天引きの制度、あるんだ)

 ブレイデンは椀(わん)の底の汁を飲み干した。

「今日は、引かずに済んだ」

 焚(た)き火の向こうで、カルヴァンが小枝で薪(まき)を突いた。

「昼間、俺が魔法を構えた時。お前、反応しただろ」

「首の後ろの肌が、少し」

「感知の才能もあるか」

 小枝の先で、焚(た)き火の芯(しん)をつつく。火の粉が、ひとつ上がった。

「魔力は見えないが、感じることはできる。感じた奴は、たいてい振り向く。お前は振り向きかけて、やめた。なんでだ」

「何なのか、分かりませんでした。分からないもののために、前から目を離したくなかったので」

「それでいい。今はな」

 カルヴァンは小枝を火の中へ放った。

「お前は、勘がいい。――妙な勘だがな」

「さあ、寝ろ」

 ブレイデンが言った。

「最初の見張りは俺たちがやる。二番目は、フィンレイと新入りだ」

 焚(た)き火の向こうで、いつの間にかの人――フィンレイが、スープの椀(わん)を軽く持ち上げて見せた。

 ルーシーは毛布に包まり、枕元に剣を置いた。

 (……仕事、したんだ)




    ◇




 肩を叩(たた)かれて目を開けると、焚(た)き火はひと回り小さくなっていた。

「交代だ」

 フィンレイは、もう斜面の側に腰を下ろしている。ルーシーは剣を背負い直し、その隣に座った。

「眠れたか」

「少し」

「上等だ。初日の新入りは、たいてい一睡もしねえ。でかいのは、図太さもでかいんだな」

「図太くは、ないです」

「初日の野営で寝る奴を、図太いって言うんだよ」

 ルーシーは言い返す言葉を探して、見つからなかった。

 フィンレイは小石を一つ拾い、指の上で転がした。

「で、あのペグ。明日、本当に抜けるのか」

「抜きます」

「盾が負けたやつだぞ」

「バルドリックには、言わないでください」

「もう全員知ってる」

 ルーシーは、毛布の端を握った。

「明日の朝が、楽しみだ」

 話しながら、フィンレイはときどき斜面へ目をやっていた。

 何度目かに見上げたとき、木々の間で、何かが、ちかりと光った。

 月を拾った、金具の光り方だった。

 目を凝らす。もう、何も見えない。枝が風に揺れているだけだ。

「フィンレイ。今、斜面の上で何か光りました。一回きりです」

 フィンレイの指の上で、小石が止まった。

 今度は、斜面を見なかった。見ないまま、小石を草の上に置き、腰の水袋に手を伸ばす。

「……見えたなら、向こうも見てる。火を小さくしろ」

 ルーシーは薪を一本抜き、灰をかぶせた。

 焚(た)き火が、手のひらほどの大きさまで落とされた。

これでやっと34話が終わりました。1話としては異例の長さでしたが、今回書ききりたいことは全部かけたので次回35話に進めます。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。