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異世界で普通に生きるために危ない仕事をする  作者: Yuki


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第34話 第五部 道に立つ者

もう少しつづくかも・・・


異変は、音だった。


草を踏みしめる、わずかに乱れた足音。

それが、風の流れとは別の方向から届いた。


ルーシーは反射的に視線を走らせる。


――前方、右寄り。


まだ姿は見えない。

だが、「隠れている気配」がある。


「……前方警戒」


声は小さく、だがはっきりと。


ブレイデンが即座に反応した。


「止まらず進む。

 隊列そのまま、間合いを詰めさせるな」


御者が理解したように、歩調を一定に保つ。

止まれば襲われる。

動いていれば、盗賊は出るタイミングを測るしかない。


数十歩。


草地が、わずかに揺れた。


今度は隠す気もない。

二人、三人と姿を現す。


装備は軽装。

革鎧に短剣、弓が一本。


「……少なめだな」


ロウェナが低く言う。


「様子見だ。

 本隊が後ろにいる可能性もある」


ブレイデンの判断は早い。


「カルヴァン、火は温存。

 ルーシー、前に出るな。位置維持」


「了解」


ルーシーは剣に手をかけたまま、抜かない。


盗賊たちは道の中央に立ち、距離を詰めてこない。

代わりに、声を張り上げた。


「おい、商人!

 通行税を払え。荷の三割でいい」


典型的な手口。

最初から奪う気はない。

抵抗が弱ければ、じわじわ削るつもりだ。


エドガーが答える前に、ブレイデンが一歩出た。


「通行税は払わない。

 道を空けろ」


短い。

交渉の余地を与えない。


盗賊の一人が、ルーシーの背中の剣を見て、口元を歪めた。


「……いい護衛だな。

 だが、その剣――」


一歩、前に出る。


「扱いきれてないだろ」


その瞬間だった。


ルーシーが、剣を抜いた。


速くはない。

派手でもない。


ただ、重さを乗せたまま、地面に突き立てる。


――ドン。


土が沈み、剣身が半ばまで地面に食い込む。


「……」


盗賊の言葉が、止まった。


ルーシーは剣から手を離さないまま、静かに言った。


「振り回す剣じゃありません。

 止めるための剣です」


抜く。


剣先が、重さを保ったまま持ち上がる。


「技術が足りないのは、分かってます。

 だから――前に出ません」


一歩も、踏み出さない。


ただ、そこに立つ。


盗賊は、距離を測り直す。


剣が重い。

だが、振り回さない前提なら、踏み込む側が不利になる。


ブレイデンが続ける。


「道を空けろ。

 次は、警告じゃない」


沈黙。


盗賊たちは、視線を交わす。


護衛は七人。

弓、盾、魔法使い二名。


割に合わない。


「……ちっ」


舌打ち一つ。


盗賊たちは草地へと下がった。

追撃は、ない。


ブレイデンはすぐに判断する。


「進む。

 今のは“挨拶”だ。次はない」


隊列が動き出す。


ルーシーは剣を鞘に納め、息を整えた。


腕に、微かな痺れ。

だが、震えはない。


カルヴァンが小さく言う。


「……なるほどな。

 あの剣、振れないんじゃなくて――

 振らないんだな」


「はい」


ルーシーは答えた。


「今は、まだ」


それで十分だと、誰もが理解していた。


道は続く。

危険も、まだ終わらない。


だがこの瞬間、

ルーシーは確かに “Dランクの役割”を果たしていた。

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