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異世界で普通に生きるために危ない仕事をする  作者: Yuki


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第26話 仕事の優先順位

初めて仕事を受けてから、十日ほどが経っていた。

護送、修繕、雑務。どれも派手ではない。けれど途切れずに続く。

気づけば、朝にギルドへ向かう足取りが、すっかり日常になっていた。


掲示板の文字はもう読める。

受付の説明も理解できる。質問も、返事も、遅れない。

それだけで仕事が回りやすくなるのを、実感している。


今朝ルーシーが選んだのは、近郊街道の定期便護衛だった。

危険度は黄色。何も起きない日もあるが、起きれば一気に空気が変わる。

その緊張感は、もう知らないものではない。


「おはようございます」


受付で依頼書を出すと、マレーナが帳簿から顔を上げた。


「おはよう、ルーシー。最近、黄を選ぶようになったわね」

「白ばかりだと、判断が鈍りそうで」

「いい感覚ね。ただ、今日は少し注意が必要よ」


そう言って、マレーナは言葉を整えるように続ける。


「近郊街道で、荷が荒らされたって報告が少し出てるの。詳しいことは現場次第だけど、頭には入れておいて」

「分かりました」


一拍おいて、視線がこちらに向く。


「なら、前回みたいに積極的に前に出ないでね。

あなたの仕事は護衛なんだから、まず守ることが大事よ」


「……はい」


返事は素直に出た。

できるかどうかは、現場次第だ。


集合場所には、三人の冒険者が先に集まっていた。


槍を持った男が、簡潔に名乗る。


「バロウ。前担当。盾役だ」


続いて、弓を背負った女性。


「エルナ。後方担当。索敵と牽制」


最後に、剣と盾の男が落ち着いた声で締めた。


「ノック。中央。荷と依頼主の管理。指示も出す」


全員Eランクだが、言葉に迷いがない。

仕事として組んでいる空気だ。


「ルーシーです。今日は皆さんの邪魔にならないよう頑張ります」


ノックが一度だけ視線を走らせる。


「了解。今日は武器なしね。なら、位置は荷車横。合図があるまで動かないでくれ」


「はい」


バロウが少しだけ口元を緩めた。


「返事が早いのは助かる。黄はそれだけで事故が減る」


街道を進むうちは穏やかだった。

商人は余計な話をせず、御者は馬の歩調だけを見ている。

往来は徐々に減り、森が近づくにつれて音が薄くなっていく。


馬が鼻を鳴らし、歩調を落とした。

御者が手綱を引く。


「止まれ」


バロウの手が上がり、荷車が止まる。


ルーシーは言われた通り、荷車の横へ寄った。

依頼主の近く。前には出ない。


その瞬間、頭上で影が跳ねた。

次の瞬間、石が飛んできて荷車の側面に当たる。


ガン、と嫌な音。


「来た」


エルナが短く言い、弓に手をかけた。


木の上に影が四つ。人より少し小さい。腕が長く、動きが落ち着かない。

素早く、落ち着きなく跳ね回る。


(……サルみたいな魔物だな)


日本で見た映像の印象が、自然と重なる。

正面から噛みに来るというより、場を荒らして崩すタイプ。


「スクリットだ」


ノックが即座に判断する。


「荷を狙う。追うな。倒すな。まず追い払え」

そのまま続ける。

「ルーシー、位置はそのまま。声だけ出せ」


「はい」


理解している。

それでも、一体が荷の紐に手をかけた瞬間、体が先に反応した。


前に出るつもりはなかった。

止めるつもりだった。離してほしかっただけだ。


距離が詰まり、手が出る。


——鈍い音。


スクリットは、そのまま地面を転がって動かなくなった。


一瞬、空気が止まる。


バロウが短く息を吐いた。


「……一撃かよ」


その直後だった。


残りのスクリットが、一斉に動く。

戦う気配はない。引っ張る。投げる。散らす。

荷車の周りを回り、こちらを忙しくさせる。


箱が落ち、蓋が外れる。


「荷が!」


商人の声。


ノックが盾で間に入り、エルナが矢で牽制する。

バロウが槍で距離を作り、追い払いの形を整える。


スクリットたちは、倒れた一体をちらりと見て、すぐ森へ引いた。


ノックが息を吐く。


「一匹倒れた。それを見て、残りが動いた」


短い言葉だったが、状況をそのまま言い表していた。


被害は軽微だった。

中身は無事で、馬も落ち着いている。護送は続行できた。


帰り道、ノックがぽつりと言う。


「昇格を考えるなら、今日の反省は必要だ」

「……はい」

「強いのが悪いんじゃない。ただ、強いと順番を飛ばしやすくなる」


ルーシーは手の甲を見た。少し赤い。痛みはない。

残っているのは、感触じゃなく判断のズレだった。


ギルドへ戻ると、マレーナがすぐに察した。


「何かあった?」

「スクリットが出て……止めようとして、一体倒してしまいました」

「それで?」

「その間に、荷を荒らされました。大事にはなっていません」


マレーナは短く頷いた。


「仕事としては減点。でも、今のうちに分かってよかった」

帳簿を閉じ、続ける。

「あなたは、困っているのを見ると体が先に出る。でも護衛は、まず守ること。倒すのは最後でいいの」


「はい」


「次は、先に相談して。役割を決めてから入りましょう」

「分かりました」


ギルドを出て、夕方の風を受ける。

守る位置にいるつもりだった。合図を待つつもりだった。

それでも、体は先に出た。


(……守る順番)


守るのは荷で、馬で、依頼主で、自分の動きは最後。

次は、合図が出るまで動かない。


そう決めて、ルーシーは歩幅を整えた。

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