表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で普通に生きるために危ない仕事をする  作者: Yuki


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/61

第23話 並んで歩くということ

門前広場には、すでに荷馬車が一台止まっていた。

馬は落ち着いた様子で、御者らしい男が手綱を整えている。


その少し離れたところに、三人の冒険者が集まっていた。


「あ、来た」


声をかけてきたのはトムだ。

倉庫にいた頃から何度か顔を合わせている。

力仕事をよく引き受けていたから、見覚えはあった。


「おはようございます」


ルーシーがそう言うと、トムは軽く手を上げた。


「やっぱり来たな。

 最近、外の仕事も多いって聞いた」


「はい。少しずつ、ですけど」


言葉が自然に返せたことに、自分でも少し驚く。


「リナ。回復役ね」


穏やかな声で、女性が名乗った。

こちらも倉庫で何度か見かけた顔だ。


「カイ。倉庫じゃ、あんまり話してないか」


細身の青年が言う。

確かに、顔は知っているが、言葉を交わしたことは少ない。


(……でも、知らない人じゃない)


それだけで、気持ちはずいぶん楽だった。


トムが依頼主と短く話してから、こちらを振り返る。


「じゃ、行こう。

 初仕事だろ。気張らなくていい」


「はい」


その一言で、肩の力が抜けた。


荷馬車が動き出す。

隊列は、前にトムとカイ、中央に荷馬車、後ろにルーシーとリナ。


(……後ろ、落ち着く)


視界が広く、全体が見える。


最初の道は穏やかだった。

人の往来もあり、鳥の声も聞こえる。


「足元、気をつけて」


リナが声をかけてくる。


「ありがとうございます」


言った瞬間、リナが少し目を丸くした。


「……言葉、ほんとに上手になったわね」


「え、そうですか?」


思わず声が弾む。


「倉庫にいた頃とは、全然違う」


(……よかった)


ちゃんと伝わっている。

それだけで、胸の奥が少し温かくなった。


森が近づくにつれ、空気が変わる。

音が減り、風の流れが一定になる。


カイが手を上げた。


「……静かすぎる」


トムがすぐ応じる。


「全員、少し寄れ」


短い指示。

ルーシーは、荷馬車の横に寄る。


(……ここ)


そう判断した、その瞬間だった。


草むらが揺れた。


姿を現したのは、狼に似た生き物だった。

大きさは、知っている狼よりひと回り大きい。

毛並みは荒く、目が妙に鋭い。


(……ヴァル)


最初にこの世界で襲われたとき、

周囲の人間がそう呼んでいた獣だ。


トムが剣を抜く。


「ヴァルだ。警戒!」


獣が低く唸り、跳ぶ。


ルーシーは、とっさに位置をずらそうとした。

進路の間に入る、それだけのつもりだった。


――だが、踏み込みが思ったより深くなる。


(……あ)


体が、軽い。


気づいたときには、腕が出ていた。


殴るつもりはなかった。

押して、進路を外すだけのつもりだった。


鈍い音がして、拳が獣の肩口に当たる。


ヴァルは体勢を崩し、横に転がった。


「……え?」


カイの声が漏れる。


獣はすぐに立ち上がろうとしたが、

こちらを警戒するように後ずさりし、そのまま森へ消えた。


一瞬、静寂。


「今の……素手?」


トムが聞く。


ルーシーは、少し困ったように笑った。


「えっと……剣、持ってなくて」


「いや、そこじゃない」


トムは剣を収め、息を吐いた。


「結果的には助かった。

 変に噛まれなくてよかったな」


リナが近づいてきて、腕を見る。


「痛くない?」


「はい。大丈夫です」


本当に、痛みはなかった。


(……やっぱり)


依頼主が不安そうに口を開く。


「今の……危なかったんじゃ?」


「もう離れましたし」


ルーシーは、できるだけ柔らかく言った。


「大丈夫だと思います」


トムが頷く。


「この程度なら想定内だ。進もう」


再び歩き出す。


隊列は変わらない。

だが、空気は少しだけ変わった。


「ルーシー」


カイが小声で言う。


「さっきの動き、慣れてる感じだった」


少し考えてから答える。


「……体を使うことには、慣れてます」


「なるほど」


それ以上、聞かれなかった。


目的地に着き、荷を渡す。

確認を終え、仕事は完了した。


帰り道、トムが言った。


「無茶はするな。

 でも、反応は悪くない」


「ありがとうございます」


素直に、そう言えた。


ギルドで報酬を受け取る。

銀貨一枚。


(……ちゃんと、仕事だった)


剣は振っていない。

でも、確かに役には立った。


ギルドを出ると、日は傾いていた。


(……並んで歩いた)


それだけで、今までと違う。


そして同時に、

あの踏み込みの感覚が、頭から離れなかった。


(……なんでこうなるのか、

 ちゃんと原因を理解しないと)


それもまた、

この仕事を続けるなら必要なことだと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ