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探求者  作者: あきみらい
エピローグ
216/217

この世界のその後の話


 あれ、久しぶりね。

しばらく見なかったけれど、元気だった?

え、一度しか会ったことがないのによく覚えるなって?

そりゃ、この世界のことを教えてくれ、なんて言う人はなかなかいないもの。今度は何を聞きたいの?

あぁ、あそこに座って話そうよ。そこの屋台のレモネード、美味しいから奢ってあげる。

……というか、あなた、他の国の諜報員だったりしないわよね?

まぁいいや。王都の人たちも知ってるようなことぐらいで良ければ教えてあげるわ。


 では、その後の世界の話を、しようか。


 ここしばらくね、小さな村の人がある日突然丸ごといなくなるっていう怪奇現象が何件か起きたんだ。

我らが賢明なる女王陛下はそのことにひどく心を痛め、聖騎士を中心とした精鋭部隊を組み調査を始めた。初めは内密に調べていたのだけどね。段々、被害が増えてきて王国の民たちもざわめき始めた。特に地方では、次は自分たちがその被害に遭うのではないかと怯える者も出始めてね。村落単位で避難してきて、難民が王都の広場で騒ぎを起こす、なんてことまで起きたんだ。

 しかも、その事件はそれだけでは終わらない。なんと、その怪奇現象を模倣するやつまで現れたんだ。集落を襲い、そこの住民を連れ去ってね。しかもそれで人が居なくなった村から物を掠め取ろうとする者も出た。模倣事件の実働部隊は捉えられ、空き巣をやらかそうとした近隣の民も捕まったが、その黒幕と言える存在については、未だ調査中だという。

 そして同時期、前世代の英雄、零の聖騎士リドルフィが亡くなった。

それにより後ろ盾を失った女王に、政界は荒れたらしい。そうして訪れた女王の生誕祭。とうとう、ことが起きた。

 女王に反旗を翻す一派が、女王が郊外に作った新職人街に襲撃を掛けたんだ。それも魔物まで使って。あわやというところで駆けつけた聖騎士と騎士団の活躍により職人たちに被害は出なかったが、せっかく新しく作った街は焼けてしまってね。だが、女王も職人たちも強くてね。今は乗り越えて、新しい街を作り始めているよ。襲撃した側については、さっきの模倣犯同様まだ調査中。どうやら四十年前の宗教改革を伴った制裁や、更にその前である戦乱期の混乱に乗じて当時の聖女や聖騎士たちが迫害された時の話まで起因しているというから、相当に根は深い。

 一方、初めに起きてた行方不明事件についてもその後色々分かってね。どうやら四十年前に現れた神樹絡みの現象だったらしい。調査が進み、最終的には行方不明者たちを救出できたんだけど、その時には、なんとお話に出てくるような竜まで現れたんだ。


 え、なんでそんなことになったんだって?

ごめん、そこは私もまだよく分かんないことだらけだし、知ってることも話すと色んな人から怒られちゃうから教えられるのはここまで。

 ただね、現れた竜の片方、綺麗な翠色をしていた方は仲間だったんだ。真っ黒な竜を倒すのを手伝ってくれてね。一緒に空を飛んだんだ。

空の上は、とんでもなく広くて、そこから見たこの世界はとても綺麗だったよ。愛おしいほどに。



  ◆◇◆◇◆



「リチェさん、休憩中ですか?」

「うん。セティもお疲れ様」


 王都の中央広場。今日もそこは賑わっていた。

夏の暑い日差しを避けられるよう、あちこちにパラソルが開いている。この光景もなんだか好きなんだよね。譲り合って涼しいところを共有する。たまに魔法で優しい風を起こしてくれたり、氷をだして涼を分けてくれる者もいる。そんな皆で工夫して笑顔を作る、そんな素敵なことがごく自然にできる場所。


「俺もここでお茶飲んでいっていいですか?」

「もちろん。おねえさんがセティにもレモネードを奢ってあげよう」

「わぁ、ありがとうございます!」


 すぐ横の屋台に目配せすれば、店主がはいはいと笑った。早速グラスを受け取ったセティが嬉しそうに冷えた飲み物を口にしている。この時期は水分補給は大事だ。


「それにしても、やーっとなんか落ち着きましたね」

「そうねぇ。調査隊も解散したのはちょっと寂しいけれどね」


 あの後、救出した被災者たちはしばらくの間王都の神殿で経過観察を兼ねた保護となり、準備ができたところから順次、それぞれの元の村へと戻されて行った。復興のための支援は商業ギルドと連携する形で騎士団へと移された。その頃には調査の任務もほぼ終わった。『何か』や『神』についての調査はまだ続いているが、調査隊は解散になり、私たち聖騎士、そしてクリスだけが今も調べ続けている。


「そういえば、クリスは?」

「なんかそれっぽい古い文献を見つけたとかで、また書庫に籠ってます……」

「あぁ、そう……」


 へちょりと困った顔になったセティに、こちらも苦笑する。

 神樹や聖女についての研究者であるクリスは、今回の件で更に忙しくなってしまった。なにせ、『何か』のあちら側から一時的に戻ってきたトゥーレは竜の姿を、元は守護の狼だったはずの夜闇の風はこちらにはいない形の鳥の姿をしていたから。おまけに魔素溜まりの浄化には亡くなったはずの聖女の気配はするし、黒き竜を倒す時にはこれまた亡くなったはずの聖騎士まで出て来てしまったのだ。言ってみれば死の概念すら覆されかねない事態に、あれ以来彼はずっと頭を抱えている。魔素を引き寄せる原因になったはずの神樹も結局どうなったのかさっぱりわからない。

 本当は、トゥーレに色々説明して貰えれば良かったのだが、残念なことに彼は時間制限付きでこちらに来ていたようで、早々にあちら側に戻ってしまった。おかげですっかり謎ばかり増えて、何も分かってない状態だ。研究者としてクリスは、私と精霊ミリエルを質問攻めにし、王立図書館の古い文献を片っ端からひっくり返している。女王からこの件の究明を命じられたことも勿論だが、彼自身の探求心がそうさせてしまうのだろう。放っておくと寝食を忘れて延々本にかじりついている様子は、さすがに少し心配だ。


「図書館?」

「えぇ」

「わかった。私も後で見に行くわ」


 お願いします、とこの歳で疲れた声で言う辺り、セティも苦労しているのだろう。まめに様子を見に行ってやった方がいいのかもしれない。

 

 ふっと音を耳が拾った。聞き馴染んだ長靴がたてる規則正しい足音。


「リチェ、ここにいたのか」

「なぁに、今日はみんな暇なの?」


 セシルもレモネード飲む? と訊けば、持っていた飲みかけのグラスを奪われた。私とセティの座ったベンチの横に立ち、人のレモネードを遠慮なく飲み干す。……暑かったのなら人の飲みかけではなく新しいものを頼めばいいのに。


「暇じゃない。リチェ、午後打ち合わせが増えた」

「えぇぇぇ、また?」


 思わず嫌そうな顔をすると、セシルが「そう言うな」と小さくため息をついた。これでもセシルやヴィンスが、私が出なくても済むよう調整してくれていることは知っている。それでも以前より格段に増えた。それもこれも先日の件ですっかり私が英雄として祭り上げられてしまったからだ。おかげで苦手この上ないのに貴族やら役人やらと話さねばならない機会が増えてしまった。

 模倣犯たちについての調査は今も続いている。戦乱期より前まで遡りそうな根の深い政治的な話に、その手の会議に放り込まれると毎回自分も性格が歪むのではと心配になる。セシルたちには悪いが極力関わりたくない。さっさと事後調査に行くと言って王都を出たガルドが羨ましい。私もそうしたかった。

 生誕祭の時の魔物の件もあるので、近いうちに魔族の王シルバーに会いに行くことになるだろう。こちらの人間相手に魔力を与えることを商いとする魔族がいる。そのことはシルバーにとっても悩ましいはずだ。彼との交渉は私の役目なので、その出発まで耐えれば、王都での化かし合いのような会議から逃れられる……と信じたい。


「まだ少しは時間があるんでしょ?」

「まぁ、昼をゆっくり食べるぐらいの時間はあるな」

「わかった」


 よし、と、立ち上がる。ちょうどさっきから竪琴の音が鳴り始めているし、周りのちらちらした視線も感じていたんだ。


「聖騎士様、歌う?」


 隣のパラソルの下にいた男の子が訊く。すっかり顔馴染みになった、まだ祝福前の小さな男の子だ。嬉しそうな顔に私も笑顔になる。


「一緒に歌ってくれる?」

「うん!」


 じゃぁ、行こう、と促せば周囲の人たちも「なんだ、結局今日も歌うのか」とか「いいねぇ」とか好意的な反応をくれる。男の子に手を引っ張られて噴水前に行けば、いつもの吟遊詩人が恭しく一礼してくれた。


「英雄殿、いつものですか?」

「えぇ」


 かしこまりました、と頷いて、彼は竪琴を弾き鳴らす。よく知ったフレーズ。この王都にいる人たちのほとんどが歌えるだろう、聖女と聖騎士の武勲詩。

小さな男の子と一緒に歌い出せば、ごく自然に周りの人たちの声も重なっていく。その輪の真ん中にいる私をセシルが見守っている。セティが笑いながら一緒に歌っている。




 あの戦いが終わり、しばらくした頃。ここで周りに多くの人々がいる中、吟遊詩人に問われた。

 人々を守り、行方不明だった者たちを助け出し、竜で空を駆る聖騎士。

新たな英雄の武勲詩を作っても良いかと。


「ん~……、今はいいや」


 そんな風に答えた私に、彼は目を丸くした。周りの人たちからも、私の武勲詩なら聞きたい、どうして作らないんだと問われた。そんな彼らに私は苦笑する。確かにあれだけ憧れているのを隠さずにいたからね。驚かれても仕方ない。


「だってね。私、まだまだもっと活躍するつもりだもの」


 だから、今の時点での武勲詩は要らない。どうせならもっとたくさんのことを成し遂げた後がいい。

それに、私の歌を歌う代わりに養父母の歌が歌われなくなるのも寂しい。私はあの歌がとても好きだから。

そう答えた私に、周りは呆れながらも笑い、納得してくれた。

なら、新しい武勲詩の代わりに、もっと広場に顔を出して、歌ってくれ。皆に話を聞かせてくれ。

そんな皆の優しい言葉に私も笑った。




 憧れながらも武勲詩を望まなかった女聖騎士は、代わりに英雄譚を残すことになった。

諦めの悪い女聖騎士が、人々が忘れてしまっていた『神』と、人との懸け橋になる……。

そんな、新たな神話のような、物語を。


 人々はその物語を『探求者(リチェルカーレ)』呼び、いつまでも語り継いだ。




  ≪ 探求者 第一部 完 ≫



この物語も、娘たちに捧げておきます(笑)


======================


探求者 第一部。これにて完結です。

ここまで読んで下さって、本当にありがとうございました。

なんとか今回も完結まで辿り着くことが出来ました。


第二部は9月より連載開始しようかと思っています。

今日からこちらでは少しお休みを頂いて、その間にシリーズ外伝として神話時代の話を一本書いてくるつもりです。

人生最初で最後のチャレンジってことで、若い頃から憧れていた賞にぶつけてきます。……かなりギリギリ日程なので間に合わなかったら来年応募かもだけども(苦笑)

落ちたら、こっそり涙と共にこちらでシリーズの一つとして掲載します。



単体読みできます、と言いながら始めたけれど、最終的には前作を読んでここに辿り着いてくれた方がほとんどなのかな、なんて思っています。


先日、前作『食堂の聖女』の印刷も全巻終わり、無事本棚に並べることが出来ました。

全7巻。並べてみたら、なんだか涙が出ました。

どうにか娘に置いていくという初志貫徹できたようです。



本作については、今月末か来月頭におまけのシーンを一つ投稿予定です。

また、第二部開始直前にこちらにてもう一話掲載し、お知らせすることを考えております。

もし良ければ、ブックマークはそのままもうちょっとだけお付き合い頂けると嬉しいです。


前作、本作共に、ここまで辿り着けたのは支えて下さった皆様のおかげです。

本当にありがとうございました。




2026/05/22 あきみらい


★ オマケの告知 ★

自費出版の前作。

自分の本棚に並べるだけのつもりが、予想外に欲しいと言って下さる方がいらっしゃったので、少量ですが増刷することが決まりました。

印刷費用と送料などの実費は頂いてしまうことになりますが、もしご希望される方がいましたら、私にメッセージを頂けると嬉しいです。

準備が整った時点でXや活動報告にて告知を行いますので、ご興味のある方はチェックしてみてください。(作者ページにXの私のアカウントへのリンクがあります)

読みたいといって下さった皆様、本当にありがとうございました。


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