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探求者  作者: あきみらい
最終章 選びとるもの
210/217

祈りの鐘2


「光弾が上がりました」


 王城の執務室にいた私、エレノアは報告を受けて顔を上げた。


「そう。わかったわ」


 この重要な役割を任され、城の見張り台から走ってきたのだろう若い騎士に、労いをこめて目で微笑む。それから右を向く。そこに控えていた宰相が承知しているという風に首肯した。私が立ち上がろうとすると、すぐ背後にいた護衛騎士が椅子を引いてくれた。その手を借りて立ち上がる。ドレスの裾が静かに床を擦る。悩み、選んだ今日のドレスの色は白。金糸を多くあしらったそれは、聖女の法衣に似た作りのもの。


「バルコニーに出ます」

「はっ」


 私の言葉に、宰相をはじめとした周りの者たちが動き始める。どこからともなく侍女のローラが現れ、立ち上がった私のドレスを軽く直し、ほんの僅かに落ちていた髪をささっと直した。宰相は部下に小声で指示を出し、この後のために先に走らせた。知らせてくれた若い騎士は立ち上がり、扉近くへと移動して姿勢を正す。


 先ほど知らされた光弾の合図は、聖地モーゲンにて作戦が予定通り開始したというものだ。ここ、王都より早馬でおよそ一時間。現地はここより標高が高いが、間に森や小さな丘もあり、光弾が上がっても直接は見えない。それでも把握したいからと間に人を配置した。光弾を確認し次第、中継地として同じ光弾を打ち上げる。そうして繋ぎ受け取った合図が、先ほどの知らせであった。この後にいくつも打ち上がることになる合図も全てそうやってこちらでも受け取る。

 不要な人員であると進言した者もいた。そこまでする必要があるのかと問うた者もいた。その言葉を支持する者たちもいた。言葉には出さなれなかったが感傷からの命令ととった者も明らかにいた。

 前王エイドリアンのとった劇薬のような政策により、その力を半減以下へと落とされた貴族もそれなりの数いる。民を、そして真実を守るためとして、膿出しを行った叔父エイドリアンを私は誇りに思う。おそらく私が彼の立場だったとしても、同じことを目指しただろうし、そして、彼ほどの偉業は成し遂げられなかっただろう。ただ、その王冠を継いだ立場からすると少しばかり辛い。もう少し穏やかな政治を行ってくれていたなら、私への風当たりも少しは今よりマシであったのではないか、などと時々思ってしまう。

 前王エイドリアンがこの世を去り、前世代の英雄リドルフィも星になった今、私を後ろ盾を失った女王と見なし、態度を変えた者もいた。今回の私の決定に足を引っ張る者もいる。

 ……それでも、引くことはできなかった。リチェに英雄になると覚悟させ、あそこまで言わせたのに私が怯むわけにはいかなかった。


 剣を持てぬ私は、王位という力をもって戦い、この国を守るのだ。


 赤い絨毯の敷かれた廊下を歩き、やがて、大きなガラス扉の前に至る。

その移動の最中にもう一度知らせが来た。光弾三発。交戦開始の合図。私は歩きながら、その報告を受け取った。もう少し時間が経てば、現地より早馬を使っての報告も入ってくるだろう。


 私は、顔を上げる。

賢者クリスは、現地は天候が荒れるだろうと言っていた。多くの魔素が集まることで天候にすら影響が出る、と。目の前の、青く明るい空を見ながら、私は現地を思う。


「開けなさい」


 私の声に、控えていた者が静かにガラス扉を押し開く。サイドに纏められていたカーテンが、外からの風に揺れた。

 開かれた扉の向こう。広間一つ分はあるバルコニーには廊下と同じように赤い絨毯が真直ぐ敷かれ、その両脇に揃いの制服を着た近衛兵たちが並んでいる。

 その更に向こう。まだ手すりで見えぬ先。どこか波音にも似た人々のさざめきが、王城前広場に多くの人々が集まっていることを知らせていた。

 斜め後ろに宰相と騎士団の副団長、王立魔導宮の副長など数人を従え、護衛騎士にエスコートされて、私は絨毯の上をゆっくりと進んで行く。騎士団長も魔導宮の長も現地へとやった。私が本気であの場を守るつもりであるという意思をこめて、この場には最低限しか残さなかった。


 風が、吹く。

北からの風に、立ち止まった私の背からマントのように垂らしたドレスの布が靡いた。

私はその風が来た方向を一度見つめ、それから前を向く。


 たくさんの視線が私に集まっていた。

広場にいる王国の民たちが私を見ていた。貴族も平民も、市民も農民も、大人も子どもも、男も女も。その場にいた全ての者たちが私の言葉を待っていた。


 一度、目を伏せ、静かに気付かれぬよう呼吸を整える。


 私は、女王。

この国を統べる者。この国を守り、導く者。

誰に反対されようと、誰に阻害されようと、私は守ると決めたものを守り抜く。

あの地で、戦っている者たちを孤独にはさせない。

国の全てを巻き込んで、彼らを支える。


 今、まさに死と隣り合わせて戦っている者たちも、

私が守ると決めたこの国の民なのだから。


「我が、グラーシア王国の民たちよ……!」


 ゆっくりと、誰の耳にもはっきりと届くよう呼びかけた私の声は、

魔導士たちの力により王都内に響き渡った――……! 




★ 明日の更新スケジュール ★

ep.211 6時台後半(7時には上がってます!)

ep.212 11時台後半

ep.213 12時台後半

ep.214 22時台後半

ep.215 21:40(いつもの時間)

ep.216 エピローグ 21:45


最後ぐらいは小説家になろうのTOPページに出したいなぁと手動での投稿を考えているため、一応各話40分ごろを考えているのですが多少前後するかもしれません。

(いつもは予約投稿の機能を使っていました)

どうやらAI作品が増えたみたいで、今までのように投稿するのではTOPページには出てこれないみたい。

殆ど露出できないままの連載だったのに見つけて下さって、皆様ありがとうございます(涙)


ラスト5話分+エピローグも、リチェは全力で走っていきます。

明日掲載分は1万字ちょっと。量が多いですが良ければ読んでやってください。


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