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探求者  作者: あきみらい
最終章 選びとるもの
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選びとるもの27


 大地が揺れているような、でも、もっと異質な。

揺れというより、ズレとかブレと表現した方が良いのかもしれない。

そんな揺れがその場にいた全ての者に襲い掛かった。


 想定していても耐えられなかったらしい何人かがバランスを崩して転んだ。立っていられなかったセティがうずくまる。その彼にガルドが駆け寄った。クリスのもとにはヴィンスが支えに走る。身構えていた私は咄嗟に杖を支えに踏ん張る。まだ光の『雨』が降り注いでいて、視界が白く染まっている中、悪酔いしそうな感覚に、ぐっと喉が鳴る。そんな私の肩に温かいものが触れた。守るように抱き寄せられる。そんなことをするのはこの場に一人しかいない。私は錫杖を地面に突き立てたまま、セシルと寄り添うようにしてその揺れを耐えた。


 やがて、『雨』がやんだ。

まだ、地面は淡く光っているが見渡す限り真っ白という状態からは脱し、私は錫杖に半ばしがみつくような姿勢のまま辺りを見渡す。私を支えながらセシルも同じようにしていて……二人、同じ方を向いて、止まった。


 湖の中心方向。先ほどまでは水のあった場所。セティとクリスがその場にあった水を『雨』にしてくれたことでいつもなら水没している底が、祭壇のある中心近くまで露わになっていた。

その、一部。

明らかに、歪んでいる。焦点が合いそうで合わない、おかしな場所がある。

まだ微妙に続いている揺れだかブレだかのせいかとも思ったが、やっぱり違う。


「……セシル」

「あぁ」


 囁くように名を呼べば、肯定の相槌が返ってきた。

私は気持ちを落ち着かせようと、数度深呼吸を繰り返す。そうしているうちにおかしな揺れもおさまった。大丈夫だ、普通に立てる、と自分に心の中で言い聞かせ、背筋を伸ばす。大丈夫だと言う風にセシルの腕を軽く押せば、彼もまた立ち位置を変えぬまま同じように姿勢を正した。彼の手だけは、ここにいると無言で主張するように私の左肩に残り続けた。

 神樹の苗木が出現した場所でも同じような揺れがあったと養母の手記にあったと、クリスからは聞かされていた。今までと違い百二十人もの出入りが出来る『何か』を開く以上、今までのような小さな『何か』の出現とは違い、周囲に影響が出る可能性があるとも。その可能性の一つとして言われていたのが、養母たちが遭遇したという、おかしな揺れだ。

まさにそれを体験することになった私たちは、予想以上のその現象に翻弄され……やっと収まった揺れに、それぞれ息をつくことになった。今の揺れは、本当に気持ちが悪かった。


「ザザっ!」

「……問題ないっ!」


 私の振り返らずにかけた問いに、壮年の騎士は即座に答えた。視界の隅で座り込んでいたセティがガルドに手助けされて立ち上がった。クリスも大丈夫だろう。さっきちらりと見た時にはヴィンスがついていた。ザザの様子からして後ろにいる騎士たちや司祭の二人も問題ない。


「……空、が」


 誰かの呟きに、私は、ばっと見上げる。


「……」


 始まる前はあんなに晴れていた空が、暗くなり出していた。『何か』に引かれ魔素が集まり始め、それに伴い大気も不安定になり出したのだろう。先ほどの人工的に起こした『雨』も引き金になっているのかもしれない。少し前に葉の魔物三体と対峙した時のような、そんな重い空だ。

 そこで、私は気が付いた。『何か』……神々の覗き窓に魔素は引かれているのではない、その向こうにある違う何かに魔素は引かれているのだ。『何か』だけに引かれていたのなら、アティスで開き続けた『何か』にはもっと魔素が集まり、あの場に魔素溜まりが出来ていたはずだ。他の被災地もそう。サイルーンでは、私が投げ込んだメモに反応した何かがもう一度あの場に『何か』を開き、もう一つの要素が重なったから、あの場に魔素溜まりが出来て魔物が出現していたのだ。


 ざわり、と、何かを肌に感じた。


 殺気を向けられたのに近いその感覚に、否応なしに反応させられた。空を見上げていた私は前を向く。おかしな感覚かもしれない。だけど、『何か』の向こうにいる何者かの視線を確かに感じた。サイルーンで感じた、ぞわりと背筋を這うあの嫌な感覚に、浅く息を吐き出す。すぐ傍らにいるセシルのマントをこっそりと握る。くん、と、引かれたマントに気づいたのだろう。私の左肩に置かれていた彼の手がほんの一瞬だけ力を強め、それから離れた。私も握ったマントから手を放す。視線は交わらない。二人、同じものを見ている。彼の方を向かなくても、そう、わかった。


 ぽたり、と、空から雫が落ちてきた。

ぽた、ぽた、と、次々に振り始める。次第に強さを増し始める。

先ほどまでの『雨』とは違う。あの冷たさはない。生温く、どこか粘着きを感じるような、そんな雨。

光の慈雨でできた水溜まりに波紋ができ、その水面を揺らす。ほんの一瞬前に浄化されたはずの大地が泡立ち始める。


 『何か』は、もう、見えない。

その場所に急速に集まり始めた大量の魔素が暗く凝り、今まで見たことのない規模の魔素溜まりが出来ようとしていた。ちりちりと生存本能を刺激する気配が、暗がりの中で生まれようとしていた。


 しゃんっ!!


 強く、錫杖で大地を叩いた。

私の意思を反映したかのような、強く、澄んだ音が響き渡る。

吹き始めた不快な風を振り払うような、その音に、周囲全ての注目が私に集まるのを感じた。

喉を開く。意識して発音する。この場に居るすべての者に、届くように。


「……総員、戦闘態勢っ!!」


 右手に持った錫杖にゆっくりと左手を這わせる。

古き法具は淡く光を放ちながら本来の形へと姿を変えていく。

右手に、光り輝く聖剣が現れた。私はゆっくりとそれを握り直す。


 私の左では同じように剣に光を纏わせたセシルが剣を構えた。

私の右には大剣を構えたガルドが。セシルの左には双剣を構えたヴィンスが。

背後から複数の声の詠唱が聞こえ始める。


「全力をもって魔を打ち払えっ! 必ず、生き延びよ!!」


 私は、大地を蹴り、それに向かって駆け出した――……っ!!




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