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探求者  作者: あきみらい
最終章 選びとるもの
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選びとるもの26


 村の朝食の時間が終わって少し経った頃。全員が配置に着いた。

湖畔には聖騎士四名を筆頭に、調査隊のメンバーを核に据えた騎士や魔導士、司祭などの戦闘員が。

村の中心部には村長デュアンを中心に村の戦える者たちや聖騎士候補生と教官たちと、事情を知る冒険者たちが。

村の敷地から外側にあたる湖の周りにも騎士など支援要員が控えている。

村の戦わない人たちは教会に避難し、そこで祈りを捧げてくれている。村の奥の家畜小屋には、あの日と同じように家畜たちが集められ、蒼き風や守護の狼たちと、ウルガとイリアスが酪農家たちと一緒にそこを守っている。

 湖の周りには支援の騎士たちがかなりの数が待機していた。

今回救出する被災者は百二十名にも及ぶ。どのような状態でこちら側に移されるのかは分からないが、自力で動けるとは思い難い。私が一度あちら側に行った時のように、結晶化した状態で現れるかもしれない。その状態で現れた者たちを保護し、安全なところまで避難させる人員は可能な限り多く配置した。湖を囲むようにして、万が一魔物が溢れた場合に対処する者たちも含めると、相当な人数がこの作戦に参加している。騎士団を中心とした部隊のほとんどの指揮は、騎士団長ダリオンがとってくれていた。


「……そろそろ時間ね」


 上流側の水門を閉じたために湖の水位は随分と下がっていた。水際も中央の方へと寄っている。数時間のうちに乾いた湖の底を歩いて、予定していた場所に移動した私は、周りにいるメンバーに振り返る。

ゆっくりと時間をかけて一人ずつに目を合わせていく。ザザを筆頭にきっちり武装した騎士たち、実戦経験をしっかり積んできたゲイルと治癒が得意なヘレナという頼もしい司祭、そして魔導師のクリスと、その弟子のセティ。この半年ちょっとの間、ずっと一緒にいた調査隊のメンバーたち。私の横には三名の聖騎士たちも並んでいる。みんな、私と目が合うと頷いたり微笑んだり、武器を軽く掲げてみたりと反応を返してくれた。私は最後に隣にいるセシルに目を合わせる。彼が首肯するのを確認して、私も同じように頷いた。


「それじゃ、始めよう」


 私の言葉に、皆が動き始める。予め決めていた位置に移動する。

湖の水際、ギリギリの位置に私は立つ。あと二歩も左へ行けば水に入る、そんな場所だ。

その向かい側、少し水際から距離を離してセティが私と向かい合う。さらにそこから岸側に数歩の距離に弟子の方を向いてクリスが立った。三名の聖騎士は私とセティに何かあってもすぐ対処できる位置についた。騎士たちや司祭の二人も聖騎士たちよりもう一回り遠巻きに私たちを見守っている。


「……光よ、ここに」


 腰から剣を抜いた私は、そうっと囁く。剣身に左手を這わせると、細身の剣は淡い輝きを発し、その姿を変えた。頭に四つの遊環をもつ、錫杖。少し古びた風合いでその全体に植物のようなレリーフの刻まれた法具はどこか温かく感じる淡い光を纏っていた。

 私は長いその先をそうっと大地につけると、片手で持った姿勢で、クリスを見る。

 私の視線を受けて、星芒の賢者は一つゆっくりと頷いた。杖を構え、一度深呼吸してから、呪文を唱え始める。


「偉大なる魔導師ケレスティヌスの孫弟子であり、星芒の魔導士ロドヴィックの弟子、

 星芒の賢者クリスが命ずる。

 星明りよ、凝れ

 一つはこの地を守る清らかな水のように 

 一つはこの地を渡る気高き風のように

 一つはこの地を照らす眩き日差しのように

 星明りよ、三つ鏡となり内なる光を今ここに映し出せ!」


 壮年の賢者の落ち着いた声にきらきらと光が凝る。

三カ所。何もなかったところに三つの大きな鏡が出現した。

 その真ん中でセティが緊張した面持ちで目を閉じ、何度か肩で呼吸を繰り返している。目を開けた魔導士少年は一度師匠の方をちらりと見、それからもう一回だけゆっくりと深呼吸をする。その様子がさっきのクリスに少し似ていて、見守っていた私は自然と笑みを浮かべていた。

 やがて、まだ声変わりしていない少年の高い声が詠唱を始める。


「水よ、

 全てを包み、慈しむ水よ。

 星芒の賢者クリスの弟子、魔導士セティが告げる。

 モーゲンを見守り続けた湖の水よ、

 慈雨となってこの地に降り注げ!」


 少年が杖をゆっくりと振り上げると湖に残っていた水がゆっくりと空へと昇り始めた。まるで雨が降るのを逆さに見せられているような不思議な光景だった。少年の魔法を三つの鏡が増幅している。初めは少しずつだった水の流れが次第に地上から空へと向かう滝のようになり、上空に人工の雲を作って行く。真っ青だった空が白い雲で覆われて、日が陰っていく。


 ぽつ、と、最初の一粒が空から落ちてきた。

湖に残った水の全てを巻き上げて空に出来た雲が、ぱたぱたと地面を濡らす『雨』を降らせ始める。

空を見上げていた私はそれを頬で受け、目を閉じる。姿勢を正す。クリスから教えてもらった養母の使った呪文を一音ずつしっかりと発声し、韻を踏む。

手に持った錫杖をゆっくりと持ち上げる。


「……聖女グレンダの聖杯より溢れし水よ、

 この地の魔を払い、全てを浄化せよ!

 光よ、この地を照らし、闇を退けなさいっ!!」


 しゃんっ。


 どん、と強く地面を叩いた錫杖の遊環が、澄んだ音を響かせた。

術の発動と共に、降り注いだ『雨』が光り始める。

はじめは淡く、次第に強く。


 ずい、と、魔力を吸い取られるような感覚が一瞬して……不意にその感覚が消えた。

光に覆いつくされる視界の中、ほんの僅かに色彩の違う光に気が付く。私の左腕で腕輪に変形した聖杯が柔らかな光を発していた。それを認識できたのはたった一瞬。

辺り一面が眩く光る雨によって照らされて、影がなくなる。

この場にいる全ての者が強い『雨』に打たれて清められていく……。


 そうして。


 揺れ、が、きた。



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