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探求者  作者: あきみらい
最終章 選びとるもの
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選びとるもの19


 夕刻……というより、夜と言った方がしっくりくる頃合いに始まった御前会議は、深夜近くまでかかった。会議前にまず私とクリスが呼ばれ、女王エレノアの前で説明を行い、その後に各組織の首脳での会議となった。

 女王エレノアを前にして、宰相、騎士団長に魔導師団長、大司祭、商業ギルドマスター、冒険者ギルドマスターといった各機関の長、それにいわゆる大貴族の家長やその代理といった錚々たるメンバーを揃え、王城内でも最も格式高い大会議室を使用しての開催。会議の進行役は女王の補佐官が行い、説明は今回の事態を予測した星芒の賢者クリスが行った。聖騎士としては王都内にいた一の聖騎士である私と、二の聖騎士セシルが参加となった。


 会議の前半は、正直、不愉快極まりないものだった。

 本当に魔物が出現するのかというクリスの推論を疑うことから始まり、次にはすでにいなくなっている六ケ所およそ百二十人の奪還は本当に必要なのか、居なくなった者たちは救出に値するのか、その予算はどこから出すのか、モーゲンという聖地を危険にさらす必要があるのか、などなど。私からすると信じられないような指摘がいくつも入った。そんな意見を出してくるのは主に貴族側の者で、中には私の目を見ながら聖騎士の株をこれ以上上げてどうするんだなどと言い放った者までいた。誰がそんなものを望んでいるか。奥歯をぎりりと鳴らした私の膝を、隣に座ったセシルが軽く叩いてきたので反論することは我慢した。それを好機と受け取ったのか、奪還に対しての反対意見のみならず、日頃の私の単独行動についての苦言などを言いたい放題に主張され、しかし反論することも出来ず涙が滲みそうになった。私が命懸けで守っているのはこんな者たちなのかと思うと悔しくて、何度も席を立ちたくなった。それを耐えたのは、横からずっと、今は待てとセシルが合図を出し続けていたからだ。


 最終的に、そういった意見を全部黙らせたのは、そこまで沈黙を守っていた女王エレノアだった。


「なるほど。言い分は分かった」


 彼女は、立ち上がることなくゆっくりと全員を見渡す。麗しいその薔薇色の唇を微笑みの形に上げ、全員が自分の方を向くのを優雅に待った後、笑んだ表情のまま私を見つめた。


「一の聖騎士リチェルカーレ」

「はっ」


 名を呼ばれた私はその場で立ち上がる。周囲の視線が集まるのを感じた。


「グラーシア王国女王エレノアの名を持って命じます。我が王国の民の救出せよ。一人として欠かすことなく救い出しなさい。全軍を預けます」


 その言葉に、何人かの息を吐く音が聞こえた。それがどちらの意味であるかを考えるのはやめ、私は口を開く。


「御意」


 ただ、それだけのやり取りで全てが動き出した。

 その後の会議はこの上なく実務的だった。女王エレノアは淡々と騎士団や王立魔導宮、神殿などの機関に全力で私の支援を行うよう命じ、宰相を引き連れて早々に席を立った。女王が退席するのに合わせて貴族たちも場を移すことを求められ、面倒なことを言っていた者たちのほとんどは女王に連れられて別室へと行った。この場には実働する者ばかりが残った。槍玉に上げられた私としては堪ったものではなかったが、あれは一種のデモンストレーションだったのだろう。どんなに反対意見が出ようとも、女王は引く気がなく、聖騎士を登用するという意思を周りに示すための。この後、私が最大限に動けるようにお膳立てをしてくれたのだ。




 大まかな方針が決まり、各自要確認案件や検討事項など持ち帰り分の確認が終わった頃には深夜になっていた。会議はその時点で一度閉会となり、解散となった。

 私とセシルは一度調査隊本部へと戻り、いくつか確認などを行った後は自室に戻ることになった。考えてみると今日も朝、モーゲンに行ってからずっと働きづくめだ。自覚すると襲ってくる疲労感に、つい、ため息が出る。

 二人揃って王城の居住区の方へと歩いていく。この時間ともなるとさすがに他に歩いている者もいない。静かな廊下に二人分の足音だけが響いている。会議で上がっていた懸念事項などを頭の中で転がしていると、騎士団の区画からはそれなりに距離があるのに気が付いたら自室の前まで辿り着いていた。


「お疲れ」


 そう声を掛けられて我に返る。


「あ……」


 そのまま立ち去ろうとする背中に、手を伸ばす。ぱし、っと私のものより大きな宵闇色のマントの端を捕まえた。そのまま、くいと引っ張れば、男が振り返る。最小限まで絞られた照明の下では、その表情はあまり読み取れなかった。


「……」


 振り返ったセシルは何も言わない。私も捕まえてみたものの、何も言えなくて、ただ見つめ合う。

 やがて、セシルが小さく息を吐いて、マントを捕まえたままの私の手を取り、丁寧に指を開かせた。


「もう遅い。お前、今朝も早かっただろう? しっかり休め」


 マントを離させたセシルが私の手を放す。子どもに言い聞かせるような口調の労りの言葉に、私は自分の眉間に皺が寄るのを感じた。欲しかったのは、そんな言葉ではない。ぽん、と、一度私の頭に乗せられた手を掴む。軽く撫でてそのまま去ろうとしたセシルが、薄暗い中、少し顔をしかめたように見えた。


「……」


 私は彼の手を掴んだまま、逆の手でポケットを漁り、自室の鍵を出す。カチャカチャと小さな金属音を立てて鍵を開け、肩で押すようにして扉を開けると、そのまま男を連れて自室に入る。


「……リチェ」


 名を呼ばれても、返事は出来なかった。しっかり彼が室内に入ったのを確認してから彼の手を放し、扉に内側から鍵をかける。手に持っていた自室の鍵を扉近くの台にぽいと投げおいて、男の方を向く。真っ暗な室内なのに、彼もこちらを向いているのが分かった。


「……」


 言いたいことはたくさんあった。なのに、いざ口にしようとしたら何も出てこなかった。私は口をへの字に結ぶ。込み上げた何かごと唾を呑み込む。ごくん、と、思いの外大きな音がした気がした。


「リチェ?」


 静かな低い声に、私は口で応えず……。

どん、と、ぶつかるようにして男の体を抱きしめた。




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