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探求者 【第二部連載開始 毎日更新】  作者: あきみらい
第一部 / 第四章 見つけるもの
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見つけるもの22


 司祭のゲイルとヘレナが討伐された魔物たちを丁寧に光へと変えて空へと送っている。

騎士たちはそれを胸に手を当て、敬意をもって見守っていた。

私とセシル、ガルド、ギルバートはその様子を更に少し離れた木の下で見ていた。私のすぐ横で暁の風が寝そべっている。

雨はまだ降っているが、随分と勢いが弱くなっている。もうじき止むだろう。セティが司祭や女性騎士を中心に雨除けの魔法をかけてやっていた。


「説教は後にする。状況確認だ。リチェ、見たまま話せ。ここに来た経緯についてはセティから簡単に聞いている」


 仏頂面の男が言う。毛むくじゃらのガルドの表情は分かりづらいが、ギルバートの方はうんうんと頷いていた。多勢に無勢。無茶をした自覚はあるので後で説教を食らうのはもう諦めるしかない。いつになく上から口調のセシルに私は小さく肩を竦めてから口を開く。


「了解。……まず、ここに来た時点では『何か』が出現していて、まだ魔素溜まりは出来ていなかった」


 私は、主観を極力抜いて話し始める。今まで見た中で一番大きな『何か』があったこと、次第にそれが小さくなりながら魔素を引き寄せていたこと、『何か』から三つほど黒い何かが落ちてきたこと、そして一気に集まっていた魔素が黒く染まり、魔素溜まりとなって、中から魔物が出現したこと。

時折、横で暁の風がぱたんぱたんと寝そべったまま尻尾を揺らす。どうやら、合っている、そうだったという相槌らしい。


「……あとは知っての通り。バカでかいコオロギみたいな葉の魔物が出てきたから、足止めのために戦っていたわ。あれをどこかにやるわけにいかないもの。途中でさすがにまずいと思ったから暁を知らせに走らせた」


 言い終わったところで、ばしっと背中に大きな尻尾が当たった。横で小山になっている守護の狼を見れば、もう二回尻尾で叩かれた。あまりの勢いに前に倒れそうになったのを足を踏ん張って堪える。恨みがましい目で見降ろせば、ふん、と、鼻を鳴らされた。


「……この後は、私が感じたことになってしまうのだけど」


 事実のみを話し終えた後、少し考えてから付け加える。三人の視線が集まった。

私はその視線に躊躇いがちになりながら続ける。あまりに個人的な感覚なので、注目されると少し困る。なんだか恥ずかしいような気分になっていた。つい私の視線は地面に落ちる。


「黒い物体が落ちてくる直前まで、『何か』から懐かしい気配がしたの。……ううん、はぐらかしても意味がないわね」


 顔を上げる。私の前にいたセシルに目を合わせれば、自分でも眉根に皺が寄ったのが分かった。あぁいやだなと私は思う。きっと今の私は、聖騎士の顔をしていない。


「あちら側にトゥーレがいるわ。おそらく夜闇の風も。何故とかどうやってとかはさっぱりわからないけれど、彼の気配がしたの。あれは、トゥーレだった……!」


 一度幼馴染の名を出してしまえば、後は堰を切るように言葉が溢れた。目の前の男の顔が、くっと歪んだのを見て、そして自分の口からもう一度幼馴染の名が出たのを己の耳で聞いて、我に返って口を閉じる。これ以上言い募りそうになるのを口の端を引いて止める。

セシルはもちろん、ガルドも、そしてギルバートもトゥーレのことは知っている。私の様子にどう言葉を返すか逡巡しているのが分かる沈黙。その重い空気の中、最初に口を開いたのは意外なことに守護の狼だった。


「我もだ」


 私に触れた部分から伝わる、ぼそりと肯定する言葉。その声なき声に見やれば、暁の風はのそりと立ち上がる。私たちの真ん中に移動し、自分に触れるようにという風に他の三人を促す。接触しなければ私たちと会話できない守護の狼は、この場にいる私を含めた四人が自分に触れたのを確認してから続ける。


「我も、確かに妹の気配を感じた」


 あの時は互いに確認することができなかった感覚を、暁の風は明確に言葉にして私が感じたものを肯定した。


「……あれが何なのかは知らん。だが、我もあれの向こうに懐かしいものを感じた。前の時の嫌な感じだけではなかった。あれの向こうに何か知らないものと、そして知ってるものがいる」


 暁の風は、彼にしてはいつになく雄弁に語ってから、こちらを見る。私はこくこくと頷いた。

思えば、あの時あの気配がなかったなら、私もあんなにボロボロになるまで戦うことを選ばなかったのかもしれない。今となっては言い訳だと一蹴されてもしかたないが……それでも、あの時向こうにトゥーレがいると感じたからこそ、すぐに離脱を選べなかったのだと思えばなんだか納得がいった。


「とりあえず、あの魔素溜まりを浄化して確認する必要があるな」


 一つため息をついた後、セシルが言った。

きっとこれだけ時間が経ってしまった後では『何か』はもう残っていないだろう。でも、他の場所のように『欠片』は残っている可能性は高い。暁の風も言っているように、サイルーンの時に見た、ただただ違和感に本能的な恐怖を感じるだけの『何か』ではなかったのだ。もしかしたら『欠片』以外にも何かが残っているかもしれない。


「……あの魔素溜まりは濃く大きいな」


 今まで沈黙していたガルドが呟いた。


「そうね、おそらく今いる三人全員でかからないと無理ね」


 ここに来ている司祭はゲイルとヘレナだ。ゲイルはともかくヘレナは治癒に特化しているため、浄化はあまり得意ではない。それに聖騎士ながらに浄化もできる私も入れて三人がかりで行っても、ぎりぎりであろう規模の魔素溜まりになってしまっている。


「リチェ、大丈夫か?」


 その問いに私は肩を竦める。今いる中で浄化を一番得意としているのは私だ。さっきまでぼろ雑巾のようになっていた私を案じてくれているのだろう。ありがたいけれど、やるしかない。だから、私は笑ってみせた。


「さっき、薬酒をくれたのはどっち? くれてない方のがもう一本残っているでしょ」


 さぁ、ちょうだい、と手を出せばその場にいた全員からとても嫌そうな渋い顔をされた。




……リチェに振り回される男性陣は大変だなってこっそり思っています。

ついでに書くのにあたって私まで振り回されてる感たっぷりです(涙)

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