見つけるもの21
私が駆け付けた時には、魔物は三体のうち二体が完全に動かなくなり、最後の一体も今まさに倒されようとしているところだった。
調査隊の班長であるザザやレオンをはじめ、騎士たちが上手く連携をとって魔物を追い込み、動きを封じている。動かなくなった二体にも念のため数人ずつ見張りがついている。少し驚いたのは、宵闇色のマントを纏う者が二人もここに来ていたこと、そしてギルバートとセティまで討伐に加わっていたこと、だ。
聖騎士養成校の武術教官をしているギルバートは、私より少し下の代の、元聖騎士候補生だ。試練を受ければおそらく合格し聖騎士になれたであろう彼は、自ら試験を受けずに養成校の教官になることを選んだ。武術に秀でた彼は、私たち現役聖騎士たちと比べても遜色ない腕前だ。しかも、自身の武器に光属性の付与も行える。対魔物の戦力では間違いなく普通の騎士たちよりも戦える。
魔導士少年のセティは、魔物からかなり離れたところで、司祭のゲイルに守られながら、騎士たちの武器に炎などの付与を行っていた。獣などが変じた魔物はごく普通の剣でもダメージを入れることができるが、葉の魔物は別だ。通常の武器では攻撃しても、ぎゅるりとした表面の管が組み変わり無効かされてしまう。魔法や、魔力付与された武器で攻撃し、管を断ち切っていくしかないのだ。
「……リチェさんっ!」
ヘレナたちがいる後方から駆け戻った私に、セティが気が付いた。横にいたゲイルがちらりとこちらを向く。詠唱途中だった守護盾を騎士たちの前に展開してから、目だけで私に微笑み、また前線へと視線を戻した。
「リチェさん、間に合ったんですね。さすがです!」
まるで自分のことのように嬉しげに笑う少年は、多分、私がズタボロになっていた姿を見ていないのだろう。配慮してくれた仲間たちにこっそり感謝する。ヘレナの様子からして私は相当ひどい有様だったはずだ。そんなものをまだ幼いこの少年に見せずに済んで本当に良かった。この様子だと到着した面々と交代して少し休んでいたとかそんな認識になっていそうだ。
「セティたちが頑張って調べてくれたからね。あの魔物を野に放たないで済んで本当に良かった。」
「はいっ!」
「……クリスは?」
「師匠は宿でニナさんにお願いしてきました」
任せて下さい、という風に言う様子に頷く。確かにあの状態は休んでもらわないと。本人はこちらのことが気になりはしているだろうが、この先のことを考えるとこちらに連れてこなくて正解だ。むしろ、セティも休ませなくて大丈夫だったのだろうかと見やれば、まだ小柄な少年はこちらの心配を察したのか、自分はちゃんと毎晩寝ていました、と笑った。
「助かるわ。ありがと! ……私もちょっと行ってくるね」
「はい! 気を付けて!」
少年に見送られて、私は前線へと走っていく。
最前線へと一気に走り込んでいった私に、仲間たちが待っていたとでも言うように場所を開けた。ザザが早くやってくれという風に苦笑を浮かべ顎で魔物を示す。
宵闇色のマントをなくしてしまった私の前、二人の聖騎士がちらりと視線を投げてくる。右側に二の聖騎士、セシル。対魔物になることを想定してのことだろう。いつもより大振りな剣を使っていた。左側には三の聖騎士ウルガ。その大柄な体格を活かして扱う大剣は養父が好んで使っていたものに似ている。
その二人がこちらを見て、しかたないなという風に道を開けた。私は笑む。きっと後で文句は言われるだろうが、こういう時はありがたく譲ってもらう。口の中で身体強化の呪文を唱える。
五本の足を切り落とされたコオロギもどきの大きな魔物は、それでもまだ表面の管がぐりぐりと蠢いていて、残った一本で周りにいる者を薙ぎ払おうとしている。その最後の一本をセシルが切り飛ばした。私は、その直後に踏み切る。
「……光よ、我に力をっ!!」
私の声に反応して、聖剣が光を増した。
神聖魔法の自己強化を受けて、高く飛び上がった私は魔物の真上から胴の真ん中に剣を斬り降ろす。
ぎっ、と低く軋むような音を立てて、魔物の体が一段沈んだ。ダメ押しのように力を籠めれば、ぎゅるぎゅると動いていた魔物の表面の管がぴたりと止まった。一瞬遅れてそれらが弛緩したように力を失い、だらりと地面に崩れる。
魔物の上から飛び退き、地面に着地した私は、は、っと息を吐き出した。
二呼吸分程遅れて、わっと周りが湧いた。振り返れば、戦っていた皆が笑顔になっている。少し離れたところにいたゲイルがこちらに歩いてきている。この後、神聖魔法で魔物を還すためだろう。
「……リチェ」
一人、笑顔じゃないやつがいた。私は低く呼ぶ声に、ぎこちなく振り返る。相手の顔をしっかりと確認する前に、ばさりと宵闇色のマントを頭から被された。顔に撫でるように触れたその感触に、やっぱりあの時のはこのマントだったかと苦笑する。もがくようにしてそれを退けて顔を出せば、怒った顔の男が前にいた。
「あー……えぇっと……」
「ひどい恰好だ。着けとけ」
「はい……」
反論を許さない口調で言われれば、私は大人しく従った。




