見つけるもの14
まるでサイルーンに向かった時のようだった。
出掛けようとしたら、食堂で姉が待っていた。持っていきなさい、と、包みを差し出される。中身は前回と同じで道中でも食べられるような軽食と、携行食になりそうなものがいくつか。ミリエルから声をかけられて、その場にあったものを詰めたりしてくれたのだろうが、毎回ほんの僅かの間に用意してしまうその手際の良さに感心する。
家族に見送られ、愛馬ブライアに乗り、銀狼の暁の風を連れ、私は街道を走っていく。
村にクリスを置いていくところも、単身で突撃をかけるがごとく駆けていくところも、本当に前回と同じで、自分でちょっと笑えた。
私が出る少し前にギルバートが王都へと発ったらしいから、多分また慌ててセシルたちが追いかけてくることだろう。
向かう先は、モーゲンから見たら西南になる。戦乱期前は街があったらしいが、今はない。
四十年前、養母がヴェルデアリアへ遠征する少し前に魔素溜まりが見つかり、二人の司祭により浄化された地。しかし、その司祭たちは『欠片』の浄化までは行えなかった。当時、久方ぶりにいくつも具現化した『欠片』や出現した魔物のせいで魔封じの瓶が足りず、対応に当たった司祭二人は、黒化に苛まれながらその『欠片』を王都大神殿の聖杯の間に運んだのだという。
その話を聞いた時、私はまだそれがどんなに大変なことかを分からなかった。だが、今なら分かる。司祭二人は間違いなく決死の覚悟だっただろう。
養母はその二人を浄化し、そして魔物まで出現していた聖杯の間で『欠片』の浄化を行った。
「間に合え、間に合え、間に合え……っ」
私は祈るように繰り返しながらブライアを走らせる。
行方不明や『欠片』の出現の順番は分かったが、それがいつ起きるのかまでは手持ちの情報からは掴み切れなかった。先に事件が起きたポロやイーレアなどの場所は、過去、養母が浄化した『欠片』の出現間隔から考えるとかなり短縮された期間に起きていた。かと思えば、逆に間延びしたかのように過去の何倍も時間が経ってから次が起きていた場所もある。気まぐれにやっているというには、順番はきっちり守られているようなのが気になる。まるで、そうしている者のいる場所と、こちらでは時間の流れがずれているかのような、不思議な違いがそこにあった。
もし、間に合わなかったとしても今回の場所には村などはない。運悪く通りすがった者でもいない限り、『欠片』が出現するだけで、行方不明者は出ないはずだ。
ただ、クリスの推測が正しかった場合、後二回しか残っていない。しかも次はかなり大きめの村がある場所だ。今回、何としてでも何かの手掛かりを手に入れ、次につなげなければならない。
使われなくなって久しい街道は草が生えたり、木の根が伸びて来ていたりで状態はあまり良くない。
それでもブライアは文句も言わず私を乗せて疾走する。その少し後ろを大きな銀狼が付いてくる。
幸い、今回の場所はそこまで遠くなかった。何日もかかる道のりではない。それどころか、モーゲンからは王都に行くのと大差ない距離だった。……だからこそ、過去に浄化した二人の司祭は、魔封じの瓶なしに浄化前の『欠片』を運ぶなんて無茶をしたのだろう。
「……っ」
向かう先、雲行きが怪しい。綺麗に晴れていたはずなのに、どこか薄暗さを感じる。上空に雲が立ち込めはじめ、まるで季節外れの夕立でもきそうな、嫌な空だ。
なんだか首の後ろがちりちりするような、嫌な感じがする。
出る前に確認してきた地図を思い出す。もう数分も走らずに現地に到着できるはず。
「……暁!!」
私は前を見据えたまま、叫ぶように呼ぶ。
声に応じてやや後ろを走っていた銀狼が速度を上げ、私たちの横についた。
「おそらく、ドンピシャね。……暁、いい?」
何をとは聞かない。それで通じるから。私の問いに分かったというように、ぐる、と低い唸り声が返ってきた。私はブライアの首筋を軽く叩き、走らせたまま、馬上で体勢を変える。馬の背に跨った姿勢から、横座りへ。ちょっとでもバランスを崩せばあっという間に振り落とされる。全力で走っている揺れの中、自分の平衡感覚だけを頼りに私はそれをやってのけた。
「……暁、いくよ……っ!!」
ブライアの歩調に合わせて揺れる中、私はすぐ近くに寄せて走っている銀狼の背に集中する。走り方の違う二頭のリズムに呼吸を合わせていく。片手に巻くように持っていたブライアの手綱から手を離し、ぐぐっと体を縮こまらせるようにして身構える。
ぴたり、と、全てが合った。
「……っ!!」
私は体のばねを全て使い、ブライアの背から飛び降りる。ちょうど落ちる真下に走り込んできた大きな銀狼に抱きつくようにしてしがみつく。浅く激しく呼吸を繰り返しながら、銀狼の固く豊かな毛を掴んで姿勢を整えていく。我ながら無茶をしたものだと思う。
「ブライア、退避っ!!」
ブライアは戦闘訓練も受けている軍用馬だが、それでも経験しているのは対人の模擬戦までだ。魔物と戦うことまでは想定されていない。それに魔素溜まりに近いところに連れていった場合、魔物化してしまう可能性だってある。この先には連れていけない。
賢い白馬は、私がその背からいなくなった後、ゆっくりと速度を落とし、離脱していった。私を乗せた銀狼はそのままの勢いで走り続ける。
彼女なりの見送りなのだろう。はるか後方でブライアが高く鳴いた。
私たちは、その声を背で聞きながら、より一層暗雲が立ち込め始める地へと向かう――……。




