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探求者 【第一部完結済・第二部 2026年9月連載開始】  作者: あきみらい
第一部 / 第四章 見つけるもの
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見つけるもの13


 クリスの説明を受けて、私は即座に行動に移った。

もし彼の分析が正しかった場合、すでに間に合わないかもしれない。それでも走る以外に私には選択肢がない。

隣の学長室の扉を叩き、現学長グイードに王都、調査隊本部への使いを出してもらうよう頼む。本来そんなことを頼む相手ではないが、背に腹は代えられなかった。今は一刻を争う。一瞬呆気にとられたグイードだったが、こちらの話を聞き即座に対応してくれた。おそらくギルバート辺りを使いに出してくれるだろう。自分がどこに行くかと、どこを確認しろとだけ書いた短い手紙をグイードに押し付けて、私は実家へと走る。行くなら完全武装しなければならない。


「暁を呼んで!」


 養成校から広場の方へと走っていく途中にいた、銀色の狼を見つけて私は声をかける。暁や蒼き風と違いごく普通の大きさの個体だ。村には蒼き風の子孫だが守護の狼にはならなかった狼たちも居付いている。まるで牧羊犬のように村の人たちに懐き、共存している。

私に声をかけられた狼は、ぴく、と耳を動かした後、すくりと立ち上がり喉を反らす。遠吠えのようによく響く声で鳴くのを聞きながら、私は食堂裏の屋敷へと飛び込んだ。そのままバタバタと自室のある二階へ駆けあがる。


「リチェ?」

「ミリ!」


 私の様子に居間の方から顔を出した精霊に、私はほんの一瞬だけ足を止めた。


「ミリ、すぐ行かなきゃいけないの。だから一個だけ教えて」


 何? という風にミリエルが瞬いた。人にしか見えない、私たちと同じにしか見えない、そんな仕草に私は先日話された内容がますますわからなくなる。でも、今はそんなことを言ってはいられない。


「あなたの言う『神』は私たちの味方?」


 自分でもその問いが何を意味するかなんて分かっていなくて。言ってみれば直観的に出た質問だった。自分を『神』のレプリカだと言った精霊は、そっと優しく微笑んだ。


「えぇ。少なくともあなたにとっては味方よ」

「わかった」


 私は、その言葉を素直に受け取る。他でもないミリエルがそう言ったから。家族として暮らしてきた精霊は、あの養母が育てた神樹の葉を持っているのだ。娘の私から見てもお人好しで、黙っていることはしても嘘なんてつかなかった養母の、だ。もし、性質を受け継いでいるなら、きっとミリエルも黙っていることはしても、嘘はつかない。


「ミリ、後でクリスが来るから、そしたらその『神』の話をしてやっといて」


 言いながら残りの階段を駆け上がる。そんな私を追いかけるような「わかったわ」とミリの返事が聞こえた。

 自室に入れば今まで着ていた物を脱ぎ散らかしながら着替え始める。これから向かうのは、サイルーンで見た『何か』が出現する場所だ。魔物と戦うことになる可能性も高い。養母譲りの白い聖衣を身につけ、その上から聖騎士の騎士服を着こんでいく。初夏に入り始めている今だとこの重ね着は少しばかり暑いような気もするが仕方がない。きっちり着こみ、ブーツを履く。中で足の指をぐいっと開き、しっかり力を入れられることを確かめる。ズボンの上からベルトを回し、いくつかのポーチと一緒に剣帯を身につける。ベルトの端が邪魔にならぬようにと巻き込んだところで、私は一度息をつく。

 目に入った鏡に、ぐい、と、挑むような視線を向ける。そのまま近づき、置いてあった飾り紐を使って髪を一つ、高い位置に纏め、結んだ。きりりと気持ちも引き締まるような気がした。

きっちり髪がまとまったので上着の袖に腕を通し、最後に宵闇色のマントを羽織る。

脱ぎ散らかした服はまとめてベッドの上に投げた。行儀が悪いがミリエルがどうにかしてくれるだろう。


「……エマ姉にまた苦笑いされそう」


 いつも、これって決めたらすっ飛んで行ってしまう、なんて姉は笑う。少し前にもこんな風に出てったな、なんて思い出す。

 あの時は、まだ師匠リドルフィが生きていた。あの時、慌てて飛んで行かなかったら、師匠の口からいろんな話を聞けたのかもしれない。それが少し寂しい。でも、あの急な出発も必要なことだったと思っているから後悔はしていない。

 いつでも持ち出せるようにとまとめてあった荷物を手に取る。


「……」


 自室を出て、一度廊下で立ち止まる。前の時はここで気づいた師匠が部屋から出てきてくれた。思えば、私が慌てて出掛けていく時は、師匠は毎回どこかで見送ってくれていた。あれは、師としてだったのか、それとも養父としてだったのか。もう聞くことはできない。今回も出て来てくれたらいいのに、と、思わずそちらを向いた私は胸が詰まって、ぎゅっと目をつぶる。


 「お前の、思うようにいきなさい。光は常にお前と共にある」あの時師匠はそう言って私を送り出した。あの『光』はもしかしたら、よくある祈りの言葉ではなかったのかもしれない、と、ふと思い至った。零の聖騎士、いや、最後の聖騎士リドルフィにとっての『光』は、聖女グレンダだった。私たちには見えない何かを見ていた師匠には、もしかしたら私自身が知らない何かを、私に見ていたのかもしれない。例えば、ミリエルが私を聖女と同じ純白だと称したように。


 私は瞼を上げ、前を向く。


「いってきます」


 「頑張ってこい!」と、いつものように低く優しい声が聞こえた気がした。





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