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探求者 【第一部完結済・第二部 2026年9月連載開始】  作者: あきみらい
第一部 / 第四章 見つけるもの
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見つけるもの10


 聖騎士養成校。

モーゲンの村に寄り添うように作られたその学校には、この学校があり続ける限り、おそらくそのまま保存されるだろう部屋が一つある。

それは学長室の隣に位置する、一つの旧教官室。

他の部屋よりも窓が多く、温室のように一部の床はタイル張りになっている。室内にはいくつも植木鉢が置かれ、全体の色彩も教官室というより誰かの私室といった感じの柔らかなものだ。

 今、その部屋の応接セットのテーブルには、大量の本が詰まれ、書き物机ではセティがカリカリと何かを書き続け、ソファではクリスがひたすら読み続けている。私も同じだ。ひたすらページをめくっている。


 確認を始めたのは、聖女グレンダが書き残した日記、だ。

養母も、まさかこんな風にメモを取られながら自分の日記を読まれる日が来るとは思っていなかっただろう。

養母がこのモーゲンで生きた三十年とちょっと分の日記は、この部屋の本棚に納められていた。

 養父はこの日記を養母からの恋文だなんて言ってよく読んでいたが、私はまともに読むのは初めてだ。真面目な性格の養母だから日記もさぞかしかっちりしたものだろうと思って開いてみれば、そんなことはまったくなくて。読み進めるうちに、聖女だった養母もまた普通の女性でしかなかったんだと思い知らされる。

日常の他愛もない呟きがそこには詰まっていた。試した料理を失敗したとか、花が綺麗だったのに養父が気付かず踏んだとか、何を作りたいとか。詩のようなものが書いてある時もあった。飼ってた鶏のヘタな絵が描いてあることもあった。どうも養母は絵の才能はからっきしだったようで、他にも時々野菜や花なども描かれていたがお世辞にも上手くはなかった。そんなところもまたなんだ愛らしくて、なんだか亡くなってもう二十年以上経っているのに会いたくなった。


「……それにしても、完全に盲点でしたね」

「うん」


 ソファに沈み込んだ姿勢で読んでいたクリスが立ち上がる。手に持っている日記帳には、いくつか栞代わりの紙切れが挟まっている。歩いて行って、それを弟子のセティに手渡した。私とクリスが必要事項を日記帳を片っ端から捲って見つけ出し、見つけたものをセティが紙に書き出しているのだ。


「リチェもよく気付きましたね」

「……なんか、聞いた覚えがある地名ばかりだなって思ったのよ」


 しみじみと言うクリスに、私は肩を竦める。

二人を巻き込んだのは正解だった。私より先に作業に入った二人は、まず日記を軽く確認し、作業の分担を決めた。闇雲にやっていてはこの冊数では分からなくなってしまう。何せ、壁一面に作られた本棚一列分、三十年以上毎日書かれただけの分があるのだ。私一人だったらこの大量にある日記帳相手に途中で投げ出していたかもしれないし、こんな風に効率よくリスト化しようなんてことは思いつけなかった。

今、セティが書き出しているものを、最終的には時系列に並べてリスト化し、地図にも転記する。


「グレンダさんが浄化したところ、か。多分、これはリチェかエマしか気づけなかったでしょうね」


 自分が持っていた物を渡す代わりに、セティの作業が終わった日記帳を受け取ってきたクリスは、それを本棚の元の場所に戻す。日記以外には養母がクリスに託した神樹絡みの手記や、養母の蔵書などが本棚に並んでいる。日記以外の段は空いているところも多い。そんなところには小さな植木鉢や、木彫りの置物などの小物が並んでいる。私にはどれもなんだか懐かしいものだ。


「寝物語におばちゃんの武勇伝を聞いていたからね。……おばちゃんが、几帳面に書き残してくれている人で良かったよ」


 流石に私も子どもの頃に聞いた話を全部なんて覚えていない。でも、養母は何かの参考になればと自身の日記をこの部屋に残していった。養母がクリスに話したことからすると、次の聖女が同じように苦しまなくて済むように、そのヒントになるのならとのことだったらしい。しかし、そのおかげで今、私たちは必要な情報を見つけることができそうなのだ。


 一連の集団行方不明事件、そして、それ以外でもここしばらくの間に『欠片』が見つかったところには、一つの共通点があった。

養父リドルフィが私たちに確認するようにと残した地図ではまた絞り切れなかったのは、養父自身もこの関連性に気づいていなかったということだろう。


「まさか、全て、おばちゃんが浄化したところだった、なんてね」


 戦乱期は、今とは比べ物にならないほど多くの魔素溜まりが発生した時代でもあった。聖母グレンダに限らず、多くの司祭たちがその魔素溜まりを浄化することに尽力し、時にはそのために命を落としたりしていた。

 養父が私たちに残したのは、養父が覚えている限りの全ての魔素溜まりがあった場所の地図だ。

彼自身が祝福を受けた聖騎士として魔素を知覚していたことが災いして、逆に養母と行方不明事件との結びつきを思いつけなかったのかもしれない。

私だってびっくりだ。まさかもうずっと昔に亡くなった聖女の浄化した場所を選りすぐって、また『欠片』が出現したり、行方不明者が出ていたりするなんて。

モーゲンに戻ってきてすぐ、姉のエマに確認したら子どもの頃に使っていた地図も出てきた。こちらに書いてあるものは養母が寝物語に語ってくれた時は全く時系列に添っていなかったので、おそらく戦乱期中のものも混ざっている。今、セティが作ってくれている三枚目の地図と見比べれば、どれが戦乱期中に浄化した場所で、どれがそれ以降に浄化した場所なのかも把握できるだろう。


「ねぇ、クリス」


 ソファに腰を下ろし、次の一冊に手を伸ばしていた星芒の賢者を、私は呼ぶ。

顔を上げたクリスは、なんとなく私が言うことを予測できているような顔をしていた。


「……」


 私は、言いかけた言葉を呑み込む。立てた仮説はおそらく当たっている。当たっているからこそ、こわくて口に出したくなかった。ゆっくりと首を横に振った私に、クリスは、分かっているという風に頷いた。




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