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探求者 【第一部完結済・第二部 2026年9月連載開始】  作者: あきみらい
第一部 / 第四章 見つけるもの
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見つけるもの9


 モーゲンについたのは夕焼けの中。もう門を閉じようという頃合いだった。

本当はもっと早くにつきたかったのだが、魔導宮を出たところで呼び止められてしまったのだ。

しかたないので、クリスとセティは先に向かわせて、私一人遅れての行動となった。野暮用を片付けたついでに調査隊の本部や騎士団に寄って、いくつか用事をこなしてこれたのでまぁ良いとしよう。

目的は話しておいたので、クリスたちは先に調べ物を始めてくれていることだろう。


「なんか疲れた……」


 ブライアを村の馬房に預け、実家である食堂の方へと向かえば、後ろから気配がした。

振り返ると、夏毛に変わりつつあるのか幾分ほっそりとした暁の風がいた。


「暁!」


 養父の葬儀の時にも会ってはいるし、たびたび養成校にも顔を出しているが、なんとなく出迎えにきてくれたようでうれしい。両手を広げれば寄ってきてくれたので、その首筋に抱きつく。もふりと豊かな毛に埋もれると、少し埃っぽいようなお日様の香りがした。


「リチェ、嬉しそうだ」

「うん、少しね」


 大きな舌でべろんと顔を舐められて私は苦笑する。そんな見て分かるほど私は嬉しそうなのか。それも仕方のない話かもな、なんて思う。ずっと行き詰っていたことのヒントを得たかもしれないのだ。嬉しくない訳がない。


「暁、あれの次に出現するところを予測できるかもしれない。また走っていかなきゃな時はついてきてくれる?」

「セシルは連れて行かないのか?」

「あいつは違う件で忙しいから厳しいかも」

「ならば、仕方ない。ついて行ってやる」


 ちょっと偉そうな態度に笑う。少し硬いふかふかの毛を堪能してから離れれば、まんざらでもない顔をしている大狼の横顔がすぐ近くにあった。そのつり上がった目を見て、昔ここにいたもう一頭の大狼のことを思い出す。暁の風を伴って歩き出しながら、口を開く。


「ねぇ、暁」

「なんだ?」


 話すために軽くその毛並みに触れながらゆっくりと歩く。問いに、いつも通りの短い返事が返って来れば、ほんの一瞬言おうとしていたことに罪悪感のようなものを感じた。それを察してか、それとも気付かずにか、間が空いても急かされないことを良いことに、私は少しだけ考える。考えて、やっぱり口に出すことを選ぶ。


「……夜闇が見つかったとしたら、どうする?」


 ひっそりと風に紛れさせるようにして問うたのは、暁の風の妹のことだ。

今から三十年ほど前に、トゥーレと一緒に居なくなった一頭の銀狼。暁よりも一回り小さな守護の雌狼の行方も、トゥーレ同様ずっと分かっていない。普通に考えたらもう生きているとは思えない。それぐらい長い年月一人と一頭は行方不明だ。

 村に住まう暁の風の父親、蒼き風の子は何頭もいるが、そのうち守護の狼にまでなれたのはそんなに多くはない。ほとんどはごく普通……というには少しばかり賢く村の人たちに懐いた狼になった。

暁の風と、夜闇の風は、同じ時に生まれた兄妹であり、その代で守護の狼になれることができた二頭なのだ。暁の風にとって、どの狼たちよりも親しく近しい存在だった。まるで、私とトゥーレのように。


「……なんだ、そんなことか」


 ふん、と、銀狼が鼻を鳴らした。


「知れている。説教だ。勝手に危ないところにいって帰って来ず、皆を心配させたのだ。雷を落とす必要があろう」


 何を当たり前なことを、という口調に、私は、一瞬目を丸くする。遅れて言われたことが心に浸透すれば、思わず、くくっと喉が鳴った。


「そうだね、夜闇もトゥーレも見つけたらお説教しなきゃ。ついでに、行方不明の原因作ってるやつもとっ捕まえて、もうやりませんって念書を書かせよう」

「あぁ」

 

 そうだ、と言う風に大きな尻尾で背を叩かれた。質量があるのに、ぼふんと柔らかいので痛くはない。私は返事として銀狼の背を軽く叩く。


「ねぇ、夜闇も、今の暁みたいに大きくなってるかな」


 居なくなった頃の二頭は、今の暁の風ほど大きくはなっていなかった。普通の狼に比べればかなり大きかったのは当時もだが、それでもまだ雄羊ぐらいの大きさった。今はそこからさらに育ち、馬と大差ない。前に何度かどうにもならない時に背に乗せて貰ったこともあるが、大人になった私一人乗せても全く揺らがない。


「さぁな。だが、夜闇はメスだから育ってもここまで大きくはならん」

「そっか」


 私の頭の中にいる夜闇の風も、トゥーレも、いなくなったその頃の姿のままだ。

夜闇の風は、今の暁の半分ほどの大きさのすらりとした銀狼だし、トゥーレは十代半ばの姿のまま時を止めている。若く、少年から青年になりかけた細くてまだ少し頼りない背中。柔らかな癖っ毛を揺らし笑う目尻には皺なんてもちろんない。置いていかれてしまった私たちは、もうこんなに歳をとってしまったのに。

 ぼふ、っともう一度背中に大きな柔らかなものが当たった。横を向けば、暁の風がしれっとした顔で前を向いていた。私は鼻で息を吐き出す。


「そろそろ、かくれんぼはおしまいだって言ってやらなきゃね」


 そうだ、という風に、柔らかな尻尾がもう一度私の背を叩いた。




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