見つけるもの8
ガルドに教えられた私は、まずは神殿に行き、奥の聖杯の間に安置してあった『欠片』を浄化してきた。
昔、聖女グレンダは、安置されているうちに聖杯の間を汚染し、魔素溜まりにしてしまった『欠片』をいくつも浄化していたそうだ。魔素溜まりは、近くに汚染されるような獣がいなかったとしても、溜まった魔素を元とした魔物が生じることがある。実際、付き添った零の聖騎士によって露払い的に魔物を退治してから、レプリカの聖杯に置かれていた『欠片』を浄化したことも何度かあったらしい。当然ながら、魔物もいるような場での浄化は危険を伴う。
その時の教訓を生かし、今は浄化前の『欠片』が届いた場合には最優先事項として扱われる。今、『欠片』を浄化できる者は私を入れて三人だけだ。そのうちの一人は、イリアスたちが見つけてくれた方の『欠片』の回収にいっている。もう一人はかなりの高齢のため実質的にもう引退しているに近い。つまり、今ある『欠片』については、私がやるしかないのだ。
その足で、王宮魔導士たちの巣窟である魔導宮へと向かう。
私はここも苦手なのだが、用事があるのだから仕方ない。受付で用件を言い、微妙に居心地の悪い思いをしながら待つ。どうにも薄気味悪いのだ。この受付すら来るたびに様子が変わっている。色合いとか配置とかそういう次元ではない。前に来た時は大神殿より神々しい真っ白な空間だったし、その前の時は森中にいるような空間だった。今回は極彩色の染料を好き勝手ぶちまけたかのような有様になっている。そこで待つようにと言われたベンチは大型の蜘蛛を模していて、正直座りたくなかった。早くここから去りたいと祈るように念じながら待てば、その祈りが通じたのか、さほど経たぬうちに迎えが来た。
「セティ!」
「どうしたんですか、リチェさん」
こっちです、と魔導士のローブを着たセティが魔導宮内へと案内する。魔導宮はそこにいる者たちの性質上そうなってしまうのか、中は曲がりくねった迷路のようになっており、おまけに来るたびに変わっている。嘘か誠か魔導宮内で遭難した者が出たなんて話をいくつも聞いたし、実際、私が一人で歩こうとしたら間違いなく迷う自信すらある。廊下がそんなおかしな有様な上に、場所によっては怪しげな何かが突然落ちて来たり、壁から見たこともないような植物が生え、その蔓が怪しげに蠢いていたり、扉の向こうから何やら恐ろしげなうめき声がこぼれていたり。とにかく普通ではない。
するすると慣れた様子で歩いていくセティに、小さくてもやはり王宮魔導士なのだな、と毎度感心する。少なくとも、私はここには住めない。
「説明は後ね。ちょうどセティとクリスが王都にいて良かったよ」
「わかりました。あ、そこ危ないです」
指摘されて慌てて避けると、一瞬前私がいたところに、壁から白い何かが飛び出してきた。
手に持っていたいつもより大きめの鞄を、抱えるように持ち直す。
「うわっ、何あれ!」
「ん-、知らない方がいいかもです」
セティが嫌そうな顔をしながらごまかした。怖いので私は追及をやめる。自分でもカッコ悪いと思いながら、こそこそと小さなセティの背に隠れるようにして歩いていく。
そのまま歩き続けると、やっと見慣れた扉があった。セティが呪文を唱えてドアノブに手をかけ、扉を開いてくれた。どこか、聖騎士養成校に残る養母の部屋に似た空間に、はぁぁ、と私はため息をつく。なんだか最近ため息をつき過ぎだ。とりあえず変に疲れた。
「リチェ、いらっしゃい。どうしました?」
「クリス。唐突に押しかけてごめんね」
穏やかな声で迎えてくれた魔導師は、部屋の応接セットの近くで何かをしていた。セティにどうぞ、と勧められてそのソファに腰を下ろす。すると、部屋の主自ら淹れてくれたらしいお茶が出てきた。
「明日、いや、今日この後すぐにでも、モーゲンに行ってもらうことはできる? 二人に調べ物を手伝ってほしいの」
「今すぐ、ですか?」
向かいの席に座った師から引き継いで、お茶菓子を用意しようとしていたセティがびっくりしたように声を上げる。
「えぇ、出来れば今すぐに。手掛かりが見つかったかもしれない」
「なるほど。セティ、それは手土産にあっちに持っていきましょう。リチェ、何日か滞在するかもということであっていますか?」
「多分。ちょっと量が多いから一日では終わらないかも」
その言葉だけでクリスはピンときたらしい。やっぱり頼る先はここであっていた、と私はホッとする。
そう、やらなければならない作業は少し時間がかかりそうなのだ。しかも、頼める相手も限られているし、向き不向きもある。私はどちらかというと不向きな部類の作業だ。
「わかりました。準備をしますので少しお茶を飲んで待っていてください。その分だとリチェも行きますよね?」
「えぇ。そのつもり」
「なら、一緒に行きましょう」
普段は持ち歩いていない私の鞄に一度視線をやったクリスが、にこりと笑った。




