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探求者  作者: あきみらい
第四章 見つけるもの
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見つけるもの7


 捜査は中々、進まない。

国葬も終わって動き出せるようになったら、今度はぴたりと現象が止まってしまった。

もちろん行方不明事件の被害なんてこれ以上増えてもらっては困る。しかし、何も起きないおかげで手掛かりもさっぱりなのだ。いなくなった人たちがある日突然戻ってきたなんてこともなく、逆にどこかで悲しい姿で見つかったなんて報告も上がっては来ていない。バーレアの件の黒幕たちも、一度失敗したことから警戒しているのか、今のところ動きはない。とても平和だ。喜ぶべきことだけど、もどかしさに、時々叫びたくなる。だが、街の中ではそうするわけにもいかない。代わりに、騎士団の訓練場やモーゲンの養成校に、私は顔を出しては剣の稽古などに混ざることが増えた。


「あぁ、やっぱりここにいたか」


 騎士団学校の訓練生数人を一度に相手をすることを、何セット分やっただろうか。

そろそろ休んでくれと教官役に乞われて、訓練場隅のベンチに追いやられていた私は、瞑っていた目を開けた。視界に入ったのは、少し硬そうで、もふっと豊かな毛。冬場に比べれば若干ボリュームが落ちているが、それでもあの胸毛や尻尾の毛に埋もれてみたくなる。


「ガルド」


 見えた同僚の名を呼べば、ぐ、と、返事代わりの唸り声が返ってきた。

ぽいっと、水の入った瓶を投げ寄越された。私はそれを片手で受け取る。ぱしりといい音がした。


「ありがと」


 石板で出来たベンチの隣の席に、三の聖騎士ガルドがどさりと腰を下ろす。私はその様子を横目に見ながら、貰ったばかりの瓶を開けた。そのまま口を付け、瓶を傾ける。ごくごくと喉が鳴った。我ながら女子の飲み方じゃないかもなぁ、と思いながら、唇の端からこぼれた分を手の甲で拭く。

半分ぐらい飲んだ後に、残りを自分の頭の上から、ばしゃりとかけた。頭を、顔を、髪を伝っていく水が体の中で行き場を失っていた火照りを冷ましていく。はぁぁ、と息を吐く私の横で、ガルドがぶるぶると体を振って毛から雫を飛ばしていた。


「あ、ごめん」

「いい」


 若干距離を離したところに座り直したガルドが短く言う。私はその様子に少し笑って、濡れて額に貼り付いていた髪をかきあげた。髪も服も濡れているが、初夏に入りかけていて暖かいし、今日は日差しもある。そのまま放っておいても大丈夫だろう。気になるようなら後で魔法で水気を飛ばせばいい。


「どうしたの? わざわざ」

「報告と、顔を見に来た」


 狼系獣人の少し癖のある声に、そう、と、私は相槌を打つ。

彼は訓練場の中央の方を見たまま、あぁ、と返事をする。視線の先では、さっき私が相手をしていた騎士学校の生徒たちが指導教官の周りに集まっていた。やがて二人ずつの組になって、それぞれに打ち合いを始める。まだ十代半ばの子どもたちだ。動きはまだまだ未熟だがとにかく元気さだけはある。


「魔素溜まりがあったのは一箇所。他は問題なし。『欠片』もあったから魔封じの瓶ごと神殿においてきた。見つけた魔素溜まりはゲイルが浄化した」


 どこと、どこと、どこを確認してきた、と地名が続く。私は、地図を思い浮かべながら一つずつ頷く。要調査としてガルドに託したリストは手元にないが、言われた場所は近場だったこともあり、すべて覚えていた。私は、うーん、と唸る。私の中に浮かび上がってきた一つの仮定は、まだ説明するにはあまりにも根拠が足らない。それでもなんとなく、予感がする。


「……ガルド、悪いんだけど二カ所ほど先に回ってきてもらっても良い?」

「分かった」


 理由も聞かず彼は即答した後、どこを?と問うてきた。私はリストを思い出し、その中から該当する場所で近いものを二カ所あげる。


「単なる勘なのだけどね。もし、そうだったらちょっと嫌だなぁって」


 ガルドはつり上がった目をこちらに向けて、私の目を確認するように一呼吸分見つめてから、低く言う。


「そういう勘は割とあたるものだ。すぐ見に行こう」

「えぇ、お願い」


 私の言葉を受けて、彼は立ち上がる。体格のいい獣人の彼が横に立つと、私は完全に影で覆われた。すぐに行くのかと思えば、ガルドはそこで少しの間、私を見下ろしていた。そうして、徐に手を伸ばしてくる。何? と見上げれば、彼は毛に覆われた両手で、ぼふぼふと数回私の頭を撫でる。ついでのように肩も撫でられてやっとわかった。濡れている部分を拭いてくれていたらしい。


「……ごめん、ありがと。ガルドが濡れちゃうよ?」

「手だから問題ない」


 言って、ひょいと空になった瓶を持ち上げると、今度こそ振り返りもせずに歩いていく。

私はその背中を見つめ、苦笑する。狼系獣人の表情はとても分かりづらいが、どうやら心配してくれていたようだ。届かないと知りつつ「ありがと」と小声で言う。


 その後、私はもう一度考え始める。

あのリストを見た中で気づけたのは、おそらく私一人だろう。

ガルドが教えてくれた、『欠片』があった場所。それに、昨日戻ってきたイリアスとウルガが教えてくれた、やはり魔素溜まりがあった場所。そして、少し前に私自身が浄化を行ったヴェルデアリア。この三カ所には共通点があった。ただの偶然かもしれないが、でも、なんだかとても引っかかるのだ。単なる思い過ごしなら良いが、そうではない場合、なんだかとても嫌な感じがする。


 私は、立ち上がる。見えた何かを確かめるために。




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