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探求者  作者: あきみらい
第四章 見つけるもの
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見つけるもの5


 広場であった女性に案内されて、市場へと向かう。

王都城下町の市場は城門のすぐ近く。広場から門への太い道の北側にある。王国内のあちこちから運ばれて来た商品は、ここで仲買や各商店、そして王都に住まう人たちの手へと渡っていく。

 午後もお茶の時間が過ぎた後ということもあり、市場のあちこちでは店仕舞いが始まっていた。近隣の村から野菜などを卸しにきている者たちはこれから帰るのだ。この時間帯特有の割引を目当てに集まっている人たちもいる。持ってきた商品を少しでも捌いていきたい売り手と、少しでも安く手に入れたい買い手が、あちこちでやりとりをしている。総じて、もうすぐ夕焼けも始まるこの時間帯でも、市場はとても賑やかだ。

 案内されたのは、そんな市場でも割と小規模な店の並ぶ辺りだった。市街地寄りの辺りとは違い、日によって違う売り手たちの店が並ぶ辺りだ。敷物を敷き、その上に持ってきた商品を並べていたり、隅っこの区画を割り振られたものは、すぐ横に荷馬車を置き、そのまま商品の陳列棚として利用している者もいる。

 雑然とした市場でも特にわちゃくちゃしているそこを、女性はきょろきょろと見渡して、目当ての人物を見つけたらしく歩いていく。私もそれについて行きながら、周りも観察する。商売中だからか、どの商人たちも表情は明るい。目が合えばすぐに売り込んでこようとする。


「おじさん! よかった。まだいてくれて」

「あれ、アメリ。手紙はさっき預からなかったかい?」

「あ、そうじゃなくて……」

「こんにちは。……って」


 アメリと呼ばれた女性は、少し遅れてきた私を紹介しようと手招きした。私もそのつもりで近づいて、目を丸くする。


「あれ、いつぞやの聖騎士様……!」

「あなた、あの時の馬車にいた人だよね?」

「えぇ、そうですとも。あの時はありがとうございました」


 深々と頭を下げられて、慌てて顔を上げるように言う。

小さな敷物に細かく華麗な刺繍を施された布をいくつも並べてそこで商っていたのは、見たことのある顔だった。そろそろ片付けようしているのか、荷物をまとめ始めている。

 少し前、サイルーンでの現場へ急行する際に、道中で立ち往生をしていた乗合馬車を助けた。その馬車の乗客の一人が目の前の商人だ。商材の入った大きな荷物を抱え、困り果てていた顔が印象的だったのを覚えている。確か、荷物は知り合いへの祝いの品だから、何とか早く届けてやりたいのだと言っていた。


「お陰様で、出産前に品を届けることができました」


 なんでも嫁いだ女性のために、故郷の親からの預かった赤子の産着を届けようとしていたのだそうな。あの時は時間がなくて詳しく聞けなかった。だが、今事情を聞き、だからあの様子だったのだと納得する。出産が早まりそうだから大急ぎで届けてくれと頼まれたのに、途中で馬車が動かなくなったのでは気が気ではなかっただろう。


「おじさん、ちょっと時間とれる? こないだ教えてくれたの聖騎士様が聞きたいって」

「こないだ……? あ、あぁ。あれか!」


 人の良さそうな小太りの商人は、少し考えていたが思い当たったようだった。


「忙しい時分にすまないわね。代わりに片付けを何か手伝うわ」

「あぁ、大丈夫ですよ。うちは品数は多くないから。すぐ終わります」


 言いながら、売り物の布を丁寧に畳んでいく。見れば刺繍に爪を引っ掛けないようにと、わざわざ布製の手袋までしていた。


「聖騎士様、それじゃ、私はここで」

「えぇ、ありがとう。気を付けて」


 失礼します、と丁寧にお辞儀して去っていく女性を私が見送っている間に、すぐ終わるとの言葉通り、商人は商品を背負い鞄にしっかりと納め、最後に敷物をくるくると巻き取った。それを鞄の上にくくり付けている。


「それで、聖騎士様、えぇっと……」

「あぁ、そうしたら少しだけ、そうねぇ…… あそこで話を聞かせて」


 辺りを見渡して、市場の隣の建物を指差す。商業ギルドの事務所の一つで、一部の部屋は市場に来ている商人たちが時間借りすることができるようになっている。商談などに使う者も多く、少し高めに払えば防音対策もしっかりされた部屋を借りることができる。向かう最中、商人は自分がどんな商品を扱っているのかや、どのあたりを回っているのかなどを話してくれた。




「さて、聖騎士様、村の人が消えてること、であっていますか?」


 商人ギルドの職員と話し、一番防音がしっかりしている部屋に入って座れば、商人はそっと窺うようにして訊ねてきた。私は、こくりと首肯する。先ほどまでの雑談を引っ込め、即座に話を切り替えてくる辺り、出来た商人だなと思う。


「えぇ、どこで聞いたのか教えてちょうだい」


 私はあくまでもお願いというスタンスで訊く。テーブルを挟んだ位置に座った商人は、はい、と頷いた。先ほどまでの朗らかな様子が引っ込み、不安げな様子が顔を出す。彼も思うところがあるのだろう。


「最初に聞いたのはサイルーンでした。ちょうどあの後です。どっか近くの集落が音信不通になってると酒場で。たまたまこぼれ聞こえただけだったんで、また流行り病かと思いました」


 流行り病が他に蔓延しないようにと、小さな集落を一時的に隔離することは、割とよく聞く話だ。ひどい病でない場合でも、他に広まることを恐れて、ある程度落ち着くまで出入り禁止にするなんてことは、年に何カ所かで起きることだ。王都近くでは騎士団と神殿が連携して支援を行っている。私たちも、集団行方不明の被災地を、それが起きているように偽装して封鎖を行っていた。


「最初ってことは、他でも?」

「えぇ、その次は東の方でしたね。そっちは仲間の商人から。イーレアが何故か長く封鎖されていて商品が届けられないと。気になってあちこちで知り合いに聞いてみたら、他にもいくつか長期封鎖されているらしいと聞こえてきまして」

「そう」


 何が起きているんですか、と不安を隠さない視線を向けてくる商人に、私は考える。図らずもここまで情報をかき集めてしまった者はどれぐらいいるのだろう。きっと女王陛下は既に把握されていそうだが、どこまで情報を出していいか、まだ指示を受けていない。戦場での判断なら私もそれなりに出来るが、これは言ってみれば情報統制や情報操作の域に入る話だ。残念ながら私はそういうものには長けていない。


「……何か、起きているのですね。分かりました。私はこの件については口を噤みます。仲間とこの話になったら、しばらく口外するなと言っておきましょう」


 こちらが答えあぐねていれば、商人はゆっくりと首を縦に振り、自ら請け合った。つい視線を落としていた私は、その言葉に顔を上げる。どうして? と顔に出てしまっていたのだろう。商人はそんな私を見て、穏やかに微笑んだ。


「その様子だと、何も言えないのでしょう? だから、真偽とかは聞きません」

「なんで……?」

「それは、あなたが聖騎士様だからです」


 とても簡単なことだという風に言って、商人は続ける。


「私は、神樹が切り倒された時の光を見ています。あれを成した聖騎士様もたった一度ですがお話したことがあるんですよ。……今、あなた様も何かを為そうとされている。きっと私たちを守るために。違いますか?」

「……違わないわ」

「それに、あなた様にはあの時助けてもらいました。ひどく急いでらっしゃったのに、わざわざ足を止めて、私たちを助けてくれた。だから、信じます」


 そう言い切る商人に、私は静かに頭を下げた。




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