見つけるもの4
セティとのお茶会は、気が付いたら結構な人数でのお茶会になっていた。
私たちがお菓子を広げていたら、広場にいた小さな子どもたちが近づいてきて、それに気が付いた親もやってきて……。気が付いたら、その辺りのテーブルに皆で手持ちのお菓子やら、近くの屋台で買って来たものやらを並べてのお裾分け大会になっていた。
かつての学友が混ざってきた辺りでセティが少し戸惑っていたが、お菓子いっぱいで周りも笑顔の雰囲気にのまれてか、前に苦手だと言っていた同年代の子たちとも話をしていた。
私はその様子を眺めながら、道中で貰った焼き菓子を頬張る。しっかりバターを使ってあるらしい焼き菓子はしっとりとした口触りで、ほのかにレモンの風味が効いていた。今度こっそり買いに行こう。騎士服姿だとまた頂いてしまうかもしれないから、次回は私服の方がいいかもしれない。
図らずも二十人近く集まってしまった突発お茶会だったが、集まった人たちが子どもやその保護者だったおかげでとても和やかな雰囲気になった。あちこちで雑談の花が咲く。なんとなくそれを見守るような気分で私は眺めていた。
そんな中、ふっと会話が途切れた。
何か起きたのかと私は辺りを見渡す。すると、周りの人々はにこにこした顔で広場の真ん中を向いていた。雑談に気を取られていたが、さっき見た吟遊詩人が歌い続けていて終盤に差し掛かっていた。クッキーを食べていた小さな男の子が立ち上がる。
ごく最近増えたちょっと長めの繋ぎをリュートが奏でる。朗々と響くバリトンに、可愛らしい声が重なった。よく聞けば、小さな声で一緒に歌っている人が男の子以外にも何人もいた。
「やがて空へと還りし英雄は
優しき光放つ乙女星の隣
一際明るく輝きて 迷いし我らを導きたもう」
吟遊詩人が続く最後のフレーズを歌う中、クッキーの粉を口元にくっつけた男の子が気取ってそれっぽいお辞儀をする。顔を上げれば自慢げで満足そうな笑顔。周りもぱちぱちと拍手を送っている。私も一緒になって拍手をする。
「新しいところも歌えるようになっている子、多いんですよ。うちの子も覚えたいって言ってね、何日も広場に通ってきていたの」
「そうだったの……」
びっくりしていたのが顔に出ていたらしい。男の子の母親が笑いながら説明してくれた。
そんな私たちの目の前で、男の子はいくつかお菓子を持って吟遊詩人の方へと走っていく。ちょうど最後まで歌い終わった壮年の吟遊詩人は、お辞儀をしようとしたところに寄ってきた男の子に笑顔になった。
そのまま抱き上げて、高い高いをする。見慣れた光景らしく、周りも微笑ましそうに笑って見守っている。そうなるまで、何日あの子はこの広場であの歌を聞いたのだろう。
下ろしてもらった男の子が、手に持っていたお菓子を吟遊詩人に差し出す。受け取らせてから、男の子はこちらを指差し、何か喋ってから、大きく手を振った。母親がそれに応えてこちらで手を振っている。
吟遊詩人は人の良さそうな顔で、こちらに会釈をした。前の見目麗しい青年吟遊詩人ほどではないが、王都では何度か見かけた顔だった。この辺りを中心に回っているのだろう。街にもごく自然に馴染んでいる。
「……そういえば、聖騎士様」
母親が男の子を迎えに行き、空いたそこに若い女性がそっと詰めてきた。周りをちらちらと見てから、こちらに注目が集まっていないことを確認し、ぽそっと小さな声で私を呼んだ。私はそれに合わせて、目だけで、どうしたの? と問いかける。
「近くの村で、人が居なくなることが続いてるって聞いたんですけれど……本当ですか?」
レモネードの瓶に唇を付け飲んでいた私は、聞こえた言葉に女性の方を見た。不安そうな顔は作った物には見えない。
「……どこで、それを聞いたの?」
周りにこんな話題を悟られないように配慮してくれている相手に合わせ、こちらも小声で問うた。
「馴染みの行商人さんから、ついさっき。……家族を故郷に残してきたから、本当なら心配で」
「そっか」
どこの出身です、と、告げられた地名は王都から馬車で半日ほどのところにある村だった。村と言っても大きめで、モーゲンと同じぐらいの規模だったはずだ。
王都には地方から仕事を求めて出てきている者も多い。また、本人の持つ資質から、六歳の祝福後に寄宿舎付きの学校に入学し、そのまま定住してしまうものも一定割合いる。彼女がどちらなのかはわからないが、様子からして単身でこちらに来ており、もしかしたら故郷を王都を繋いでいる行商人によく手紙を託すなどしているのかもしれない。
今のところその規模の村が丸ごと被害に遭ったことはない。でも、大丈夫だと安易に言うこともできない。モーゲンだっていつ被害に遭うかわからないのだ。私はどう答えようか少し迷う。いたずらに話を広めるわけにはいかない。でも、彼女の心配は本当で、だからこそ嘘もつきたくなかった。
「……この後、お時間はある? 良かったら、その行商人さんからも少し話を聞きたいから案内して欲しいのだけど」
考えていたのは、ほんの数秒だっただろう。
私は否定も肯定もしないという選択をした。小声で言えば、女性は何か察したらしい。あります、と応えてから、こちらにそっと微笑んでくれた。私も、同じように笑顔で頷き、ありがとう、と礼を言う。
それから、私は何気ない風に立ち上がる。
「……そろそろ、私はお暇するわ。皆はどうする?」
「あ、私はもうちょっとここにいます」
「僕はそろそろ行こうかな」
「聖騎士様、お片付けしておくから、このままで大丈夫よ~」
「お疲れ様です!」
「お仕事がんばって!」
言えば、あちこちからそれぞれの返事が飛んできた。初めの方からいた年配の女性たちが片付けを引き受けてくれたので、ありがたくその言葉に甘えることにする。
「セティ、クリスによろしくね。ちょっと寄り道してから今日は実家に帰るわ」
「わかりました!」
持って帰る分の荷物だけを持ち、私は手を振って広場の人たちと分かれた。




