見つけるもの3
英雄がいなくなった後も、月日は過ぎていく。
元よりこの数年は、歳の割に元気だった零の聖騎士リドルフィも王都にくる頻度はめっきり減っていた。
それでも時折自ら馬に乗り王城などへと向かっていた彼の姿を見ていた者も多いだろう。年老いた後も顔馴染みには自分から声をかけ、軽い世間話などをし、笑っていた。そんな彼の面影が、どこかこの街にはまだ残っている。
鍛冶師の店から出た私は、久しぶりの休暇を王都で過ごしていた。
馴染みの店に寄り、ちょっとした日常雑貨を買ってみたり、昼食を食べてみたり。初夏に差し掛かり少し強くなった日差しの中、のんびりした歩調で街を行くとあちこちで声をかけられた。仕事明けだったこともあり、いつもの騎士服姿だからかもしれない。見知らぬ人に気さくに話しかけられたり、店頭で呼び止められてお菓子などを渡されたりする。
以前も少しはこんなことがあったが、先日の広場でのことがあって以来その頻度は増えたような気がする。
頑張ってね、とか、いつもありがとう、なんて言葉をかけられて、少し照れ臭くなりながらも笑顔で受け取るようにしていた。師匠ならきっとそうしたからだ。
多分、彼らも師匠がいなくなって寂しいのだろう。同じ配色の騎士服を着る私に、彼の面影を重ねているのかもしれない。それはなんだかとても光栄なことのように思えた。
「……とは言え、ちょっと荷物が増えてきたわね」
ほとんどは食べ物や日用品だ。「お姐さん、大変そうだからこれ使って」と途中で渡された布袋いっぱいに、菓子や果物、瓶入りの飲み物やパン、新しい手ぬぐいに手作りの石鹸。小さな花束もあるし、なぜか布地まで渡された。この後実家に帰る予定だから、ほとんどは姉に対処を頼むことになるだろう。特に布は私では上手く扱えない。頂いた以上はしっかり使いたい。渡せば姉か姪が何か私の使えるものを作ってくれるだろう。
「少しお腹に入れるかー」
布袋からはみ出しているお菓子や瓶を見下ろしてから、私はまた歩き出す。幸い、この通りを抜ければ、もう中央の広場だ。行けばベンチの一つぐらいは空いているだろう。
その時、ふと視界に入った背中が見覚えのあるものに思えて、瞬く。タイミングよく横を向いた顔は、やっぱり知っている顔だった。
「セティ……!」
名を呼べば、まだ小柄な少年が振り返った。確か十二歳になったばかり。魔導士のローブを着た彼は、初めどこから呼ばれたのか分からなかったようで、きょろきょろと辺りを見回していた。その様子が少し可愛く感じて私は笑顔になる。その歳よりもずっと聡明で大人顔負けの知識と能力を持つ少年だが、こういうちょっとした挙動などには年相応の子供らしさがまだ残っている。
「こっち、こっち」
「あ、リチェさん!」
笑いながら言えば、やっと見つけてくれたらしい。振り返った少年の表情が私を見つけた瞬間、ぱっと明るくなった。私は布袋を抱え直しながら、片手を空け、軽く手を振る。長いローブを揺らしながら走ってきた少年は、こちらの荷物を見て目を丸くした。
「すごい荷物ですね……。どうしたんですか、これ」
「なんか、あちこちで貰ってしまって。セティ、少し暇?」
横並びになって歩きながら問えば、こくりと頷く仕草付きで肯定の返事がきた。
「うん。クリス師匠のお使いで図書館に行ってきた帰りなんだ。本を読んできてもいいよって言われてきたから、もうちょっとぐらいなら戻るの遅くなっても大丈夫」
「なら、おねえさんとお茶しない?」
お菓子もいっぱい貰っちゃって、と袋の中身を軽く見せれば、おぉ~と歓声が上がった。確か貰ったものの中には瓶入りのお茶やレモネードもあったはずだ。屋台などで何も買わなくても座る場所さえ確保できれば、ちょっと豪勢なお茶会もできそうだ。
「あ、それなら俺もいいもの、持ってます!」
背負い鞄に入っている、と少年が笑う。なんでも、王立図書館の司書さんが手作りクッキーを分けてくれたのだそうだ。たしかにこんな少年がお使いに来たら、お菓子の一つや二つ持たせてやりたくなるだろう。受け取る時の様子を想像すれば、どんなに賢くてもやっぱりまだ子どもなんだなぁと微笑ましく感じられた。
「そうしたら、そうねぇ、あそこのベンチがいいかな。どう?」
「いいですね!」
屋台が並ぶ辺りの近く、ベンチのついたテーブルがいくつか並ぶところを指差せば、俺、席とってきます! と言って少年が走り出した。普段走り慣れていない男の子のそれを、私はのんびり追いかける。
国葬から後、今のところどちら起因の集団行方不明も起きていない。警戒を緩めるわけにはいかないけれど、今ぐらいはこの平和な景色を素直に受け取っても良いのかもしれない。
広場に入れば、いつものように人々のさざめきに交じり楽器の音も聞こえてきた。今日はあの吟遊詩人ではないらしい。手にしたリュートをかき鳴らしている。歩きながら耳をすませば、乙女の件もしっかりと歌い上げている。そのことにちょっとほっとして、私は少年の待つベンチへと向かった。




