見つけるもの2
バーンと分かれて、王都へと帰る。
つい癖でブランカに乗って来てしまったが、たまにはのんびり歩いてみても良かったかもしれない。
この先増やす予定の第二、第三の集落のことも考えて先に整備された街道は広く大きな馬車も楽々通れる道幅があった。しかも、徒歩での往復も想定されていて、街道のあちこちに木陰を作る木が植えてあったり、少し休むこともできるベンチなども置かれていたりする。ほどよい距離なので、王都から余暇の散歩として集落に訪れる者も出てきそうだ。
王都に戻ってきた私は、門近くの騎士団併設の厩舎に愛馬を預けると、その足で職人街へと向かう。
この辺りも私にとっては馴染み深い。私のことも、そして先日亡くなった師匠リドルフィのことも知っている人が多い。あちこちで声をかけられながら目的地へと向かう。職人街の中でもかなり奥の方。少し金臭い匂いのする建物の扉をノックし、返事を待たず中へと入った。扉についたベルがちりりんと可憐に鳴った。
「あぁ、リチェ、ちょうどいいところに戻ってきたな。今出来上がったところだ」
ベルの音が聞こえたらしい。家主が奥から出てきた。いつもなら店内に入っても気づいてもらえず、怒鳴るようにして呼ばねばならないのに、本当にタイミングが良かったらしい。
「ガラン、ありがとう」
そう言いながら、店主は部屋の真ん中にある大きな台に見慣れた剣を置いてくれた。私は歩み寄りその前まで行く。鞘に収められたそれを手に取り、ゆっくりと引き出す。露わになった剣身に私自身が映った。しっかりと日々手入れされ、そして今、職人の手により研がれたばかりの刃は、窓から差し込む光をきらりと跳ね返した。鋼色よりもう少し明るく、通常の銀色ではなく淡い金色の光を纏う、剣。
私は鞘から全て抜き出した剣を片手に持ち、台から数歩離れる。ガランは間違えて人が入ってこないように、さりげなく入口の方へと移動していた。店内でもそうすることを想定して空けてある場所に行くと、私はゆっくりと剣を振るう。初めは、ただ上から下へ、数度。次いで両手を添えて斜めに。その姿勢から切り上げ、薙ぐ。剣技の型をなぞっていく。
やがて、一通り試しきり、剣を下ろす。
己が右手にある剣を見下ろす。淡く光を感じる、愛剣。私の相棒。
聖騎士になる際に、前代の一の聖騎士が愛用していた剣を私の体格に合わせ打ち直してもらい、そこに養母が亡くなる直前に、聖女として携えていた錫杖を丸ごと用いて付与をしてくれた。
『聖剣』と呼べるものがこの世界にあるなら、私が持っているこの一振りこそがそれだろう。
手に馴染むそれを、確かめるように手に軽く力を入れる。
そんな私の様子に、ガランは無言のまま首をしゃくった。
壁際に試し切り用の藁束が置かれていたので、私はそれを一つ前に引っ張り出す。
詰まり具合を確かめるように、ぼんぼんと叩けばしっかりした質感を感じた。問題なさそうだ。
私は藁束から二歩分ほど離れると向き合う。そうして、勢いはつけず、そうっと斜め上から藁束に刃を当てた。力を籠めなくとも、すんなりと刃は進み、ほんの一瞬後には切断された藁束の上の部分が、どさりと重い音を立てて床に転がった。
「ガラン、ありがとう。軸も重心もぶれていない。切れ味もいい仕上がり」
台へと向かい、置いてあった鞘を手に取り剣を納める。
す、っと、どこにも引っ掛かりもなく、根元のところまで納めたところで、ちん、と軽い金属音がした。
未熟な鍛冶師だと、研ぎ直した後の僅かな違いからこうはいかないことも多い。しかし、ガランが研磨した剣でそんなことを起こしたことは一度もなかった。
「そうか、満足してくれたようで良かった」
「助かるわ。さすがにこんな特殊な剣、任せられる人は他にいないもの」
「あー、それなんだがな」
念のため借りていた剣を腰から外し、代わりに自分の剣を定位置に納める。ほとんど重さなども違わない剣を借りていたのに、それでもやはりこちらの方がしっくりくる。とても落ち着く。
「うん?」
「そろそろ弟子に引き継がせようと思ってな。実は今回も一部の作業はやらせたんだ。……おい、出てきて挨拶しろ!」
「はーい」「はい」
ガランが呼べば、奥から二人分の若い声がした。バタバタと走ってくる音。奥と店内を繋ぐ扉がガチャリと開く。片方は背が高いが体格は良くない、全体的にひょろりとした印象の青年。もう片方は背は低いけれどがっちりした……女性?
「うちの娘と、その婿だ。娘の方は鍛冶師、そして婿の方は細工師だ。……流石にお前さんに言わずに剣身を扱わせるわけにいかなかったから、剣本体を研いだりなどは俺がやったが、鞘の方はそいつがやった。いい出来だっただろう?」
「えぇ。まったく違和感なかったわ。ありがとう」
「そう言って頂けて光栄です」
青年の方が頭を下げた。その横、ちょっと悔しそうに女性鍛冶師が頷く。
「リチェ、次の時は剣も娘に任せてみたい。もちろん俺が全面的について作業は見ているし、仕上がりも確認する。必要なら調整もする。……構わないか?」
「ガランの自慢の娘さんなんでしょ? もちろん」
「精一杯やらせて頂きます」
まだ二十代半ばだろう若き鍛冶師に言えば、弾かれたように彼女はお辞儀した。
その隣で青年の方がにこにこしている。なんだか微笑ましい二人だ。
「そうしたら、次は……あちらに移住した後かしらね。その時はよろしくね」
「あぁ、出来たらあっちに慣れた頃に来てくれ。さすがにその剣は半端な状態で触りたくないからな」
「分かった」
私は頷き、言われていた額よりちょっと多めに入った小袋をガランに渡す。「まいど」と満足そうな唸りが返ってきた。
そうか、ここも世代交代するのか、と、ちょっと感慨深い気分になりながら、私は鍛冶師の店を後にした。




