熱中できるものがあると人が変わるようなるけど、決して人のことは言えないことでもある
「補助費を使う? 何に?」
三崎は再び動き始めた次の日の朝。
教室に一番乗りしたのは三崎。
五分くらい経っただろうか、七瀬が何人か女子と一緒に入ってきた。
彼女が席について早々に、支給された補助費を使って買い物をしたい、と告げたのだった。
「賞品。スマホのメモリーカードにしようと思う。八千円もしないものを二つ。多分、賞品を貰える人はいないと思う。けど、万一誰かが普通に獲れたことを考えたら、二つあれば大丈夫と思うから」
クイズ形式に相当自信があるように見える。
二十四時間前の自信なさげな彼とはまるで別人のようだ。
一体彼の中で、何がどう変わったのか。
七瀬には不思議で仕方がない。
「……それだけはっきりと言い切るってことは、プランもしっかりできてるってことでいいのかな? なら、その話し、じっくり聞かせてもらえるかしら?」
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「……なるほど。出題の材料は、一般知識じゃなくて二年A組のクラスメイトから作り出すってことか。正解数は一つだけだし、誰から見ても別解は出ないもんね。でも、何度も挑戦する人も出てくるんじゃない? そうしたら、いずれ賞品はもってかれるかもしれないよね?」
「解答の判定では、正解か不正解かの判定のみで、正解を伝えないようにすれば問題ない。しかも、出題する問題も変更すれば、易々と賞品を持っていかれずに済む。で、学祭終了の何十分か前に参加募集を終了して正解も提示する。これなら参加者も正解を知ることができてすっきりできるんじゃないかな?」
七瀬は、授業道具がまだ中に入っているカバンを机の上に置いたまま。
腕組みをして、三崎の提案を思案する。
その答えを待つ三崎の自信ありげな顔も、実に珍しい。
陰キャ扱いされている者とは思えない明るい表情だ。
が、七瀬はそんなことを気にも留めず、普段友達と会話するのとほとんど相違ない態度。
今までは一方的に言われたり指示したりという関係。
何も知らない誰かが今の二人を見たらば、健全で対等な関係に見えることだろう。
だが、この教室に来る生徒達は、この二人はそれぞれどんな人物かよく知っている。
朝の挨拶をしながらやってくるクラスメイト達はこの二人を見て、誰もが自分の目を疑った。
「あぁ、賞品はそれでなきゃダメってことはない。客寄せパンダになってくれりゃ何でもいいよ。ただ、参加者の誰もそれを手にすることができなかった場合、終わった後クラスのみんなにくじ引きか何かで当てた人にあげる、みたいな感じで」
なるほど、と七瀬が頷きかけたときに、三崎に文句を言う目的で一人のクラスメイトが近づいてきた。
「三崎、あんたいい加減にしろよな。七瀬との時間が無駄に減るって、こないだも言ったよね? それに昨日のあんた、部外者なのにのこのこと人の部活の場所にやって来て、どういうつもりよ!」
「え? 平木? あんた何を……」
七瀬に親しくしている一人の平木だった。
が、三崎は、誰もが思いもしない反応を示した。
「今大事な話してるとこだから、遠慮してくれ。……それと模造紙を何枚かと……太字のマジックペンが必要なんだけど、ペンが必要なのは俺だから、それは俺が買うとして……」
「な……何いい気になってんのよ! 三崎のくせに!」
平木に構わず七瀬に相談する三崎。
見下すべき相手と思い込んでいた平木は激高した。
「部活の部外者ってことなら、それは当てはまるよ。でも学祭に協力する気がないなら平木だって、学祭のことで相談している俺と七瀬さんから見たら部外者だ。それに、七瀬さんに用事があるのは友人として、ということなら後にしてくれ。授業が始まるまで相談するつもりはないから」
「三崎ぃ! あんた最近ほんとに図に乗ってるよね!」
「ちょっと平木」
なぜ三崎に対してこんなに怒るのか。
それより宥める方が先、と七瀬は声をかけるのだが。
「余ってもそんなに損失はないだろうから模造紙十枚、大至急用意してほしい。足りなきゃ後で追加注文する。用件は以上。じゃ平木、俺の用件は済んだからあとはご自由に」
「え?」
「なっ……!」
要点を伝えてすぐに席に戻る三崎。
突然のことで、七瀬と平木はそれを見送るしかできなかった。
三崎が席に着いてすぐにやってきたのは久保山だった。
久保山は三崎の机の上に、幅広い一通の封筒を静かに置いた。
「監督と顧問の先生からの伝言だ。思いの外早くできたから持ってってやれ、と。何する気か分からねぇけど」
「あ、ありがとう、久保山君。助かったよ。一日無駄に過ごさずに済んだ」
敵視、と言っても差し支えないような接し方をしていた久保山に、何のためらいもなく謝意を伝える。
久保山は、まさか礼を言われるとは思わず「お、おう」と素の反応を示した。
「あ、あと中にDVD入ってるから、それはパソコンルームか視聴覚室で見てくれっつってたな。伝えたからな」
「うん。わざわざありがとう」
平木には仏頂面だった三崎は、久保山には笑顔を向ける。
そんな三崎の反応は、本人にはある意味不気味さすら感じるものだった。
このクラスの人気がある生徒は何人かいるが、代表格はクラス委員長の七瀬。
しかし、人気ではなく注目を浴びる存在は誰かと言えば、間違いなくキャラが変化した三崎だろう。
その三崎は周りの目を気にすることなく、久保山から受け取った封筒を開けて書類を何枚か取り出して、それを楽しそうに眺めていた。




