こんな自分にも、そんな面がある。自分よりも優れた人達にだってないはずがない。
三崎敬太は、実は勉強が好きではない。
けれど、学生だから勉強をしなければならない。
だから、子供の頃から家族に、勉強しろ勉強しろとばかり言われ続けてきた。
けれど、いい成績をとれても褒められたことはなかった。
だから、頑張りが報われた結果を出しても、誰からも褒められたことはないからつまらなくなった。
勉強がつまらなくなると、すぐ飽きてしまう。
手に届く娯楽の類につい手が伸びる。
最初はなぞなぞの本だった。
次に、漢字のクイズの本だった。
いつの間にか、まだ習ってない漢字が身に付いてしまっていた。
その漢字を学校でしょっちゅう使うようになった。
「何だ三崎。そんな難しい字を使えるようになったのか。お前、すごいな」
と先生から褒められた。
努力もせずに、人が知らない知識をいつの間にか身に付けていた。
そのうち、豆知識とやらにも関心を持つようになった。
そこから雑学の本に手を出し始めた。
そこにきて、隣町でのクイズ大会の実績である。
好きだから読み続けた本。
そこから得たたくさんんの知識。
その知識の披露を、人より早く、人より多くできただけのこと。
クイズ大会で優勝するために読み漁ったわけではないし、そのつもりで゛読み続けたはずもない。
つまり、クイズ大会で優勝するための努力はまったくしていない。
なのに、見知らぬ多くの人達から褒められた。
褒められてうれしくないはずがない。
けれど、努力をしたという意識はない。
なのに人より優れたものを、知らないうちに自分の血肉としていた。
その時のことを振り返ると、心の中に生まれた感情はうれしさのみではなかったことに気付く。
自分にも、人から褒められる面があったのだ、という驚き。
自分にも、人より優れた面があったのだ、という驚き。
その驚きが、更にうれしさを増幅させた。
褒めることをしない三崎の家族すら、その驚きは隠せなかった。
自分のことをよく分かっているはずだった家族の驚き。
それが喜ばしいことや名誉に繋がることなら、それこそ望外の喜びだろう。
しかも、目に見えないことや、誰も目にしないことなら尚更に違いない。
第三回目の学祭のクラス会議。
クイズのイベントには誰が来るのか、という田宮からの指摘を受けた三崎は思った。
自分が参加して優勝できたあのイベントにできれば自分も参加して、自分の優れた部分を改めて噛みしめたかった。
けれどひょっとしたらみんなにもそんな面があるのではないか?
来てくれる人達の大部分は、学校の関係者。
教室ごとのイベントに来る人達は、その生徒の身内や繋がりが強い人達が来ることは間違いない。
その人達が知ってるその生徒に、彼らの知られざる優れた面を持っていることを知ったなら、どんなに誇らしいだろう? と。
家族からは褒められることがなかった三崎は、クラスメイトに自分の代わりになってもらいたいという願いを託していた。
そしてその思いは、三崎の言動に変化をもたらすほど強かった。
が、もちろん三崎にはその自覚はない。
だから、彼としては自分なりに普通に振る舞っていた。
三崎のクラスメイトだって、知る由もない。
だから、三崎の変化に誰もが驚いていた。
※※※※※ ※※※※※
三崎は、訪ねた部活の顧問や監督から許可を得、欲しかった資料をすべて手に入れた。
その資料には、久保山が言ってたようにDVDなどもあるため、パソコンルームの使用の許可をもらい、その教室に向かった。
その資料を見てさらに調べるためにパソコンルームに向かった。
「失礼します。使用されてないパソコンを使わせてもらいに来ました」
室内では、プログラミングや動画作成などに励むパソコン部が活動していた。
「はい、顧問の先生から話聞いてるよ。隅の机のパソなら使っていいよ」
「ありがとうございます」
名乗らずに入室したためかこの時は誰も特別な反応を示さなかったが、一人の部員の傍を通り過ぎたときに、不意に呼ばれた。
「あれ? 三崎君じゃないか。君とは思わなかったよ。何か仕事かい?」
「え? あ、川内君? ここの部員だったっけ?」
「酒井さんもいるよ。三崎君、学祭の準備で忙しいんじゃなかったの?」
「ん? 川内君、あたしを呼んだ? って、三崎君じゃない」
三崎に声をかけたのは、川内富士夫。
それに反応を示したのは酒井和子。
どちらも三崎のクラスメイトである。
「あ、うん。ちょっとパソコン使って、この資料で統計とって調べものするんだ」
「へぇ。手伝おうか? 教室での手伝いは難しいけど、ここで作業するんなら手伝えるかも」
思わぬ助っ人の登場は有り難い。
が、三崎は丁重に断った。
「あ、いや。こればかりは、全部自分の目で確かめないといけないから。それが終わった後のここでの作業があったら、頼むこともあるかもしれない」
「そうか。その時は遠慮なく声かけてよ」
「頑張ってね、三崎君」
三崎は二人に礼を言うと使用許可が下りたパソコンの前に座る。
そしてパソコンを起動し、作業を始めた。
二人の申し出を断ったが、実は三崎自身も何を見ていいのか分からなかった。
ただ、やるべきことは決まっていた。
それは、クラスメイトのプレイだけをピックアップして、そのデータをモニターに出したテキスト画面に入力することだった。
今はそこから何が見えてくるのか分からない。
だが、何かのデータが見えてきた時、それこそが三崎が望んでいた情報であることには違いない。
まだ見ぬ情報に三崎は期待に胸を膨らませつつ、プレイ動画に注目し作業を進めていった。




