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特進クラスの男子が行き成り現れた

「あの・・・君、一の森小の人ですよね?」



彼は何の前ぶりもなく私の目の前に現れた。


ネクタイの色から特進クラスの生徒だということだけはわかるが、それ以外のことはわからない。


私は次の科学の授業の為に教室を移動している最中だった。


そこへ行き成り見ず知らずの特進クラスの生徒に声をかけられたのだ。


わけもわからず固まっていると隣のうさこから口に出さなくてもわかる位のワクワクオーラを感じる事が出来た。


今のうさこの脳内では『この男は何!?シオンとどういう関係!?』なんて考えが浮かんでいるに違いない。



「あの、何か?」


「ああ・・・・俺は鈴木と言います」



すらっとした体系に、サラサラのストレートヘアーでバッチリとうちの制服と融合している鈴木君はどこからどう見ても美形の秀才でまさに見本となるような人物に見えた。


試験前などはきっと彼の机には彼を頼って人が集まるに違いない。


そんな彼が私のつれない対応に少し困ったのか、照れくさそうな顔をしてポリポリと頬を人差し指で掻いた。


その仕草は小動物のようで可愛らしく、思わず私の母性に働きかけてきた。



「何これ・・・まさか告白!?」



うさこが私の服の裾を掴んで小声でそんなことを言うものだから私も妙な勘違いをしそうになったが、鈴木君の次の一言で全てはかき消されてしまう。



「美村の事なんだけど・・・・」



私はハッとして全てを悟った。


うさこも空気を読んだのか「先に行ってるね」とだけ言って駆けて行ってしまった。


うさこの後姿を見送り私は視線を鈴木君に戻した。



「俺、中学の時彼女と同級生だったんだ・・・・」


「・・・・」



同じ悲しみを味わった者同士だからだろう、初対面のはずなのに私は彼に親近感を覚えた。


慌しくなる廊下の生徒達に次の授業の始まりが近い事を悟り

私達は放課後近くのカフェで落ち合う事を約束した。


実験室に行くとうさこが待ってましたとばかりに手を振ってきた。


でも私の顔色が良くないのを見ると「美村さんの事なんだね・・・」と言って少し寂しそうに笑った。


私も「うん」とだけ言ってそれ以上は何も言えなかった。




30


放課後うさこに訳を話して私は約束のカフェに向かった。


男の子と待ち合わせなんて少し緊張する。


しかし特別進学コースは放課後も7限目の授業があるとか聞いていたけれど鈴木君は大丈夫なのだろうか?


そんなことを考えながら私は店内に入りカウンターで飲み物を注文し、店内を見渡してから空いている置くのソファーの席へ座った。


鈴木君はまだ来ていないようだった。


時計を見ながらストローで甘いコーヒーをすする。



―――遅い



やっぱり授業があったに違いない。


私は待たされ若干イライラしていた。


もう1時間近く一人で待っているのだ。


こんなことなら電話番号なり聞いておくんだった、帰るに帰れない。


私がストレスと戦っていると息を切らせた鈴木君が髪の毛を振り乱して私の目の前に現れた。



「ご、ご、ごめん!!!待った!?」


「・・・大丈夫ですか?」



待たされたイライラよりも息を切らせた鈴木君が今にも倒れそうだったので私はそっちの方が気になってしまった。



「本当にごめん、普通科と時間割違うって知らなくて・・・それで・・・」



普通科ですみません。



「あの、何か奢るよ、奢らせてください!何がいい??」


「あ・・・・ごめんなさい・・・・さっきもう二杯目飲んだからお腹一杯で・・・・」


「え・・・・」



鈴木君は私の目の前に置かれた空の容器を見てガクっと項垂れた。


この人はどうして見かけに寄らずドジなんだろう。


鈴木君はため息をついてまだ落ち着かない呼吸を整える為に椅子に腰をかけた。



「お水持ってくるね」


「あ、いや・・・」



彼が言い切る前に私はセルフの水を汲み鈴木君に渡した。



「本当にすみません」



彼は私からカップを受け取ると頭を項垂れてまたため息をつき、グイっと一気に水を飲んでしまった。


よっぽど急いで着たのだろう。


私はなんだか逆に申し訳ない気持ちになった。


彼が落ち着くのを待ってから私は話題を切り出した。



「あの、愛ちゃ・・・美村さんの同級生だったって・・・・・」



鈴木君は一瞬動きを止めると姿勢を正して私と向き合った。


やはりこうしてみると好青年だ。


典型的なしゃべらなければ良いタイプだ。



「はい・・・美村とは中学が一緒で生徒会も一緒だったんです。あの頃の彼女は大人しいけれど活発で学校行事なんかにも積極的に参加するような子だったんです。ですから・・・」



彼は唇をかみ締めた。


次に彼が言う言葉は私にも理解できた。


彼が唇をかみ締める理由が私には分かる。



「私だって信じられません・・・未だに・・・・」



私も鈴木君も俯き唇を噛んだ。


そうしなければ悔しくて涙が出てきそうだったからだ。




31


「私先日美村さんと偶然会ったんです」


「え?」


「少しの間しか言葉を交わせなかったけど・・・・私が知ってる事の美村さんとはやっぱり違って・・・・とても辛そうな・・・・」


「・・・・彼女が変わったのは・・・受験に失敗したせいかもしれない」


「え?」


「彼女・・・一学を受けたんですよ・・・」


「!」



愛ちゃんは第一志望だった一学に落ちていた。


自分が落ちた高校に私みたいな人間が普通科と言えども通ってるなんて知った時の愛ちゃんの気持ちは一体どんなだったんだろう・・・・


私はなぜだか罪悪感で一杯になった。


常日頃から努力を惜しまず頑張ってきた人が落ちて、私は運良く受かった。


受験には運も必用だと言われていたけれどこれではあんまりだ。


愛ちゃんの直接の死因が私じゃないとはしても私との再会は愛ちゃんにとって決して良いものではなかったはずだ。



「どうしても一学に入学したかったらしく浪人するつもりだったみたいですけど、親御さんがやっぱりそんな事許してくれなかったみたいで・・・・あそこもレベル高いし俺はうちとそんなに変わらないと思ってたんだけど、やっぱり本人からすると違うみたいで・・・」


「・・・・・」


「プライドも高かったし自分が許せなかった部分もあったんだと思うんです、それで理想と現実とのギャップに悩むようになっていったんじゃないかと・・・」



もうこれは推測でしかなかった。


でも今の私達には推測でも何でもいい、愛ちゃんが死んだ理由が欲しかった。


意味もわからず死んだなんてそんなはず無い。



「遺書は見つかったんですか?」



鈴木君は首を振った。



「・・・・」


「せめて遺書があれば・・・・・」



この世に何の未練も残していく人たちに何の侘びも入れずに死んでいったというんだろうか?


私だったからどうするだろう。


死の衝動に駆られた時私はどうするんだろう?



「鈴木君」


「え?」


「お葬式参加してた?」


「・・・うん、そこで君を見かけたから」


「あ・・・私自己紹介もしてなかった」


「あ・・・そうだったね」


「宇野です」


「下の名前は?」



思わず顔が引きつる。



「・・・・」


「え?」


「こ、心音」


「ここね?」


「うん・・・変でしょ」


「全然変じゃないよ、字は?」


「心の音って書くの」


「へぇ〜〜〜」



鈴木君は呆れているのか感心しているのか良く分からない声を出して頷いた。



「鈴木君は?なんて言うの?」


「え!?」



明らかにしまったという顔をした。


もしかして彼もまた犠牲者なのではと私は期待してしまった。



「・・・・大之秦」


「だいのしん!?凄い渋い名前だね・・・・」


「苗字が地味だろ?だからうちの祖父が・・・・」


「いや、でもある意味新しいと思う」


「うん・・・・でもやっぱり病院とかで名前を呼ばれると恥ずかしいんだ・・・・お爺さんかと思ったって言われるし」



確かに。



「私達ある意味同士かもしれない」


「フッ面白いこと言うね、でも・・・・色んな意味では同士だね」



鈴木君の顔がまた曇った。


私達は同級生を失った同士でもある。




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