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衆太は全てを話し出した

衆太は大人の姿の時より子供の姿のときのほうが落ち着いて見える。


元が大人の方なのだろうか。



「ねえ、私なんであんたの名前知ってるの?聞いたことも無いのに・・・それになぜかあんたを弟だと思ってた。でもあんたと別れた後はそのことを忘れてるの・・・・なんなの!?」


「姉さん」



ずいっと衆太は私に一歩歩み寄った。


顔が近くに来て私はドキッとした。



「姉さん・・・・貰うよ」


「えっああっ!!!」



衆太の手が私の中にズイズイと入ってくる。


またおかしな感覚に見舞われる。



「んっいやっ・・・んんっ」


「フッ・・・そんな声出しちゃ嫌だよ姉さん・・・」



衆太がどこのホストだよと言いたくなるくらいの甘い声で囁くものだから気がおかしくなりそうになる。


衆太の手が中に入り私の中のものを取り出そうとゆっくりそれを撫で回した。



「だ、だめっそこは!いぁっ」



私の体はビクンっと跳ね上がりその勢いに任せて衆太が一気にそれを引き抜いた。



「ああっ」



私は引き抜かれた瞬間脱力感に見舞われその場に倒れ掛かったが足を踏みしめた。


顔を上げると衆太は変態男の姿に変身しており、私から奪った剣ですでに怪物と戦っていた。


この間は気を失ってしまったが今度こそ忘れないように私は意識を保とうと必死だった。


衆太は一匹の怪物と戦っている。


私は昔やったゲームを思い出していた。


3Dアクションのそのゲームは技を繰り出すと光ったり、手の平から魔法が飛び出したりとリアルで子供ながらとても感動したものだ。



今目の前で起こっている戦いはそれに似ている。


よりリアルで、緊迫している。


こんなゲームが出たらさぞ売れるだろう。


私はこの非常時にそんなおかしな事を考えていたが、人間は意外とピンチに立たされると現実逃避というシステムが発動し今起こっていることがまるで他人事のように思えてくるものだ。


いや、それは私だけかもしれないがきっと皆にもこんな不可思議な体験をしてもらえればわかるはずだ。


唯一の救いは衆太がお決まりの技の名前などを叫んだりしない事だ。


戦闘中に敵と優雅におしゃべりしたりと言う事も無かった。





13

私が割りと冷静でいられたのは実は衆太が絶対に負けないという核心があったからだ。


なぜだか分からないけれど彼が負けるはずはないと私は知っていた。



最後の一刀を振り上げ叩き切ると怪物は消えてしまった。


私はほっと胸を撫で下ろした。



衆太は剣を振り下ろし私を見た。


私はなんて声をかけていいのかわからなかったのでとりあえずお疲れ様と言ってみた。



「フッ、のんきな奴だな」



―――黙れ小僧



エンジニアブーツの重そうな音を立てながら衆太が近付いてきた。



「ねえさっきの答え教えてよ、どうして私はあんたのこと知ってるの?そして忘れちゃうの?」



衆太は暫くじっと私の事を見ていた。


黒だと思っていた瞳は深い青色をしていてまるでその中に地球があるように澄んで見えた。


引き込まれる。


そう思って私はとっさに目を逸らした。



「あの怪物がなんだかわかるか?」


「いや、わかんないヘドロみたいな・・・」


「あれは汚れだ」


「え?」



突拍子も無い答えに私は顔を上げた。


衆太は遠くを見つめながら話を続けた。



「平たく言えば人間どもが垂れ流している汚物だ」


「え・・・それって・・うん・・・・」



言い切る前に衆太にさえぎられた。



「パンドラの箱を開けたが為に人間はこの星に災いを生むようになった」


「何それ昔話?」


「お前・・・パンドラの箱も知らないのか?」



衆太は信じられない、こいつ頭大丈夫かと声に出さなくてもわかるようなリアクションをとった。



「知ってるわよ!何か神様が開けちゃいけないって言った災いが詰まった箱でしょ?浦島太郎だって開けるなって言われて玉手箱開けちゃったもんね、人間って駄目って言われるとやりたくなるんだよね・・・・」



私は自分で頷きながら、疑問にたどり着いた。



「てかそもそも神様も乙姫もそんな災いの詰まったものを何で送るかな?嫌がらせ?」


「お前・・・」



衆太は呆れたようで頭に手を当て首を振った。


完全にこいつは駄目だと思われている。



「乙姫とやらがどうだったかは知らんが神は最初から開けさせるつもりで渡しているからな・・・・・・」


「へー」



私が気の無い返事をしたせいか衆太は少し機嫌が悪くなった。



「パンドラが箱を開け疫病、悲嘆、欠乏、犯罪が飛び出した、しかし最後に何が残ったと思う?」


「え?」



衆太の目はまっすぐに私に向けれた。



「希望だ」


「希望・・・・」




体中に電撃が走ったような衝撃が私を貫いた。


なぜだかわからないけれど私はその言葉に感動して涙が出ていた。


皆が泣くからって言って借りた本やドラマを見ても泣かない私が泣いた。


どうしてだろう。





14


「神話とは少し異なるが、人間こそがパンドラの箱だ、そして人間の中にまだ残っている希望、それがお前の中にあるこの剣だ」



衆太の手に握られた私の剣。


それが希望の形。


災いを切り取る力。



「私・・・・超凄くない!?」


「自分で言うな」


「いや、でも待って!人間に希望があるなら他の人でも良くない!?」



衆太はくすっと笑った。


小馬鹿もされたようで腹が立つ。



「確かにお前じゃなくてもいい」


「あ・・・そうなんだ」




『お前じゃなきゃ駄目なんだぁーーー』的な台詞を期待していた私はがっくりと肩を落とした。



「ただ・・・」



衆太は言いかけて辞めた。



「何よ、気になる!!言って」


「本来なら一時でも希望を抜かれているわけだから大体の人間は直ぐ気を失うか、泣き叫んで狂ってしまうだがお前にはそれが無い」


「・・・・なんで?」


「俺にもわからない、最初こそ気絶したが・・・・慣れるにしてもお前は適応が早すぎる」


「うーんやっぱ優秀なんだ」


「そうかもな・・・・」



衆太はマジマジと私の剣を見た。



「人間がパンドラの箱の中身って話はまぁ大体分かったけど、あの怪物は?」


「この星の穢れ・・・負のエネルギーが次第に集まり固まるとあれが生まれる。俺達は『Ω』オメガと呼んでいる」


「俺たち?・・・・他にも居るの?あんたみたいなの・・・・」


「居るさ・・・お前が気がついていないだけだ」


「え?」



私は周りの気配に気がついた。


衆太が現れるとき全てが止まって見えるのだがかすかに周りに何かの気配を感じる。


私のように剣を奪われている人が他にも居るのだ。



「何か・・・・凄い・・ね・・・」


「そうだな・・・」


「なんで衆太はこんなことしてるの?」


「わからない・・・・・」


「え?」


「お前はなんで生きてるんだ?」


「え?」



衆太は微笑んで



「この世にはわかっていても答えられない事があるんだ」



そう言った。



私は衆太の質問に答えられなかった。


なんで生きているか?


そんなのわかんない。



生きてるから生きてるんだもの。


答えなんて無い。


衆太はそう言うことを言いたかったのかな?




「じゃあなんで私はあんたの名前を知ってたんでしょうか?」


「それも知ってたから知ってたんだ」


「「ん〜よくわかんないな〜〜」



私は頭を抱える。


持っていた鞄から甘いにおいがした。


うさこに貰ったシュークリームだ。


もしかして潰れてしまったのだろうか、最悪だ。


そんなことを考えてると衆太が近付いてきた。


グイっと腰を持ち上げられ顔が息のかかる範囲まで近づけられた。


衆太からはコロンのようないい匂いがした。



―――こいつ男の癖にそんな洒落たもんつけてんのか・・・・



「後一つ、教えてやる」


「え?」


「お前が俺を忘れる理由」


「何?」


「必要ないからだ」


「えっ」



目を見開くと私のくちびるは衆太のくちびるで塞がれていた。


私は思わず生唾を飲んだ。


生まれてこのかた異性とキスなんてものした事もなかった。


手を繋いだのだって小学生の遠足のときくらいのものだ。



頭の中で何かがグルグルと回る。



ああ・・・・また記憶が頭の中から抜け落ちていく・・・・・




「おやすみ、心音」


15



遠くで誰かの声を聞いたような気がして私は我に返った。



気がつく家の前だった。


愛ちゃんと会ってからの記憶が無い。


またボーッとしてたんだ、気をつけなくては・・・・・




自室のドアを開け私はいつもの調子でポイっと鞄を机の上に投げた。


するとドスッと鈍い音がした。



「しまった!!!」



何か重いものを入れていたかもしれないと慌てて私は鞄に駆け寄り中身を見た。



「うわぁ・・・・」



中からむっとするような甘い匂いが立ち上った。



「最悪・・・シュークリームが・・・・」



私は眉をひそめ潰れたシュークリームの袋を拾い上げ、目の前に持ってきた。


甘ったるいカスタードと生クリームの混じった匂い。


しかしどこかこの匂いは記憶の奥の何かを引き出そうと刺激する。


もう少しで、何かのキッカケがあればそれは直ぐにでも思い出せそうなのだがなかなか思い出せない。


名前が出てきそうで出てこないときのようなそんなもどかしい感じがして私は首を捻る。


何かシュークリームで以前いやな思いをしただろうか?


よく分からないまま私はうさこには悪いがそれをビニールの袋に入れ捨てた。




16


「ねぇねぇシオン!昨日のうたよろ見た!?」



うさこが嬉しそうに昨日の歌番組の話を持ち出した。


何でも彼女の好きなアイドルが出ていたらしい。



「うさこ・・・前は違う人がスキって言ってなかった?」


「ああ、あれ?あれはもうだめよ古い!」


「ああそう・・・・」



熱しやすく冷めやすい女である。


でも何かにこうして熱中できるのは大変羨ましい。


私といえば花の女子高生だというのに浮いた話もなく、共学だというのに好きな人すら出来ない。



「ねぇうさこ、どうしたら好きな人って出来るの?」


「え?」



私の唐突な質問にうさこは面食らったようだ。


キョトンとしている。



「私、アイドルとか芸能人にも全然興味が沸かないんだよね・・・・」


「・・・・シオンは変わってるよ、黙ってれば美人なのに」


「黙ってればは余計でしょ・・・・」



美人といわれて悪い気はしない、思わず顔が綻ぶ。



「でもさ男でも女でも顔のいい人ってアッチ系の人多いよね〜あの俳優もさ〜」



うさこの芸能人の噂話を聞き流しながら私は教室の時計を見て早くお昼にならないかなと思った。


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