85. 顔合わせ
「こちらは、ゾフィアさん。剣を得意としていて、ゴブリン退治の経験は豊富です」
職員が紹介すると、金髪の女剣士は会釈する。
パッと見の印象だが、どことなく固いというか真面目そうに見える。冒険者と言うより女騎士だとか言われた方がしっくりきそうだ。
「彼女は仲間を募ってより上位の魔物を討伐されることもありますが、固定のメンバーはいません。ですので、初見の方との協力にも慣れていると判断しての紹介です」
ではあとは当事者同士で話し合いを、と紹介を終えた職員が消えると、女剣士――ゾフィアはギルドの奥を示した。
「じゃあ、出発の前に打ち合わせをしておきたいので、奥に行きましょうか?」
だが、琢郎は部外者のためロビーより奥への立ち入りが認められておらず、その提案に応じることはできない。
リリィがその旨を告げると、
「あ。そういえば、今回はそんな話だったか」
ゾフィアもすぐ了解して場所を変更。あまり他の人のいないロビーの隅で向かい合った。
「ではあらためて。私はゾフィア=クレンゲル。これでも5年前から冒険者として剣を振るっていて、初心者講習に付き合うのもこれで3回目になる。ゴブリン討伐は慣れているので心配はいらない」
「わ、わたしは先日冒険者の登録をしたばかりで、リリィといいます。よろしくお願いします」
打ち合わせの始まりにまずあらためて自己紹介する女剣士に、リリィも慌てて自分の名前を名乗る。
「それで、こちらがわたしの仲間のタクローさんです」
続いて、琢郎のこともリリィが紹介して、琢郎自身は再び軽く頭を下げるだけにとどめる。
簡単に正体がバレるとも思わないが、なるべくゾフィアとの会話は避ける。ギルド職員がゾフィアを連れて来るまでの間に、そうすることはリリィと相談してあった。
「リリィに、タクローか。それで、タクローの方はギルドに登録していない、と」
琢郎が自分で名乗らなかったことで特に気分を害する様子もなく、ゾフィアは軽く頷く。
「もちろん、タクローの素性を詮索する気はない。必要のないことを知ろうとしたり首を突っ込んだりしてろくなことにならなかった奴は、冒険者になってから何人も見ているからな」
ただし、とゼフィアは腰に差した剣を軽く叩いて言葉を続ける。
「素性はどうでもいいが、戦闘の前の打ち合わせをするからには、得手不得手は教えてもらわないと困る。ちなみに、私はこのとおり剣を使う」
「わたしは……一応、槍を武器にしています。あと、昨日イリューン神の神契魔法を習いました。それから、タクローさんは元素魔法が凄く得意です」
リリィは正直に自分のできることを告げる。琢郎についても、名前の時と同じく本人に代わって答えを返した。
「へぇ? それなりに大きな体格なのに、魔法型なんだ?」
ローブで隠れているとはいえ、人間の枠で考えると琢郎は縦横ともにかなり大きいことは見て取れる。
その琢郎の得意が魔法という話が意外だったのか、ゾフィアは少し驚いたような表情を見せた。
だがすぐにその表情は、元の真面目なものに戻る。
「遠距離に対応できる者がいるというのは、心強い。それで、得意な属性は?」
「…………風」
少しだけ考えた後に、琢郎はここだけ自分で答えた。
どの属性も琢郎が自由に使えるせいで、どう答えればいいのかリリィがわからなかったということもある。
それに、『全部』と本当のことを言うのは余計な興味を引いてしまいかねない。適当にでっち上げた。
風属性を選んだのは、事実として使用頻度は高いことと、この後移動するのに<風加速>を使ったとして矛盾しないためだ。
「風属性か。それなら、山の中でも問題なく使えそうね」
それとゾフィアが言ったように、仮に火属性だと延焼が怖かったりして、場所によっては使いづらくなるからだ。
「では次に、ゴブリンの居場所の説明を。他の課題で北の池や雑木林に行っていると思うのだけれど、目的地はそこで街道を外れずにさらに進んだ先にある」
いよいよ本題に入り、ゾフィアは懐から小さな地図を取り出し、指で街道をなぞる。
「この辺りで右手側にいくつか小さな山が並んだところを通るのだが、この山々にゴブリンの生息が確認されている。課題は、この山の1つで行うことになる」
そこでまず、小集団を見つけてそこから誘き出すか残りを倒すかして、最初はリリィとゴブリン、1対1の状況を作り出す。そのために必要なのがゾフィアや琢郎の協力ということだった。
それを2,3回繰り返してゴブリンとの戦闘に慣れたら、次は複数対複数。別の小集団を見つけて、琢郎たちと協力しつつそれを殲滅する。
それができれば課題は修了。そういう段取りだった。
「で、ゴブリンの特徴についてなんだけど……」
段取りの説明の次は、獲物であるゴブリンに関する説明。
注意すべき動きやら、人型の魔物――つまり、簡素なものとはいえ装備を身に着けているために、他の魔物とは異なる点など。
そうすることになっているのか、ゾフィアが真面目なのか。詳細な説明はしばらく続いたのだった。
登場人物が増えると、また進行が遅く……
イカンイカン。




