76. 第2・第3のクエスト
翌日、出かける前に共用の台所で朝食を作る。
本来は井戸の使用や薪に別料金が必要らしいが、火も水も琢郎が元素操作で出すので、最初に払った10日分の宿代以外はかからなかった。
「それで、次の課題は?」
食事と片づけを終えて、部屋で次の課題を確認する。
「えっと……ギルドで指定の荷物を受け取り、隣町の出張所に運ぶこと、だそうです」
「出張所? ギルドの?」
「はい。トラオンにもありましたが、知らなかったですか?」
聞けば、たいがいの町にはその出張所はあるらしい。冒険者の登録こそ行っていないものの、その町で日銭を稼ぐための依頼を纏めていたり、一部素材の買い取りを行っていたりしているとのことだ。
「ともかく、荷物を受け取ってそこに届ければいい、と」
それだけの仕事であるが、まずはギルドに行ってその荷物を受け取らないことには始まらない。宿を出て、ギルドへと向かった。
「これが、指定の荷物だそうです」
受付へ行ったリリィが戻って手に持っていたのは、何かの液体が入った2本の瓶だった。
運ぶ現物を見ても、いまいち意味のわからない課題だったが、このまま瓶を裸で持っていくのも危なっかしい。
荷物の大半は部屋に置いてきたものの、リリィの装備やら着替えやタオルなんかは小さめの袋に詰めて持ってきている。そうした布で瓶を包んで、ひとまず瓶が割れにくくなるようにした。
「それじゃあ、さっさと運んでしまうか」
ただ運ぶだけの仕事なら、琢郎の加速魔法があれば手っ取り早い。目的地もこのレオンブルグに来る途中に通った町で、道がわかっているから尚更だ。
「<風加速>」
街に来た時に通った東門を出ると、早速リリィを抱えて魔法で街道を高速移動する。1時間と少しで隣町に着いて、出張所に瓶を渡してしまえばそれで課題は完了だった。
報酬は、瓶1本に小銀貨1枚。初心者の練習用にしてもあっけなかった。
「では、次。3つ目の課題です」
まだ昼前の時間で、さすがにこれだけではと、本日2つ目の課題にも着手する。
すでに完了して上2枚が剥がされた課題の綴られた束を手にし、リリィはその内容に目を通した。
「今度はまた採取。場所も、昨日の池の近くみたいです」
昨日の池は整備された街道を少しだけ外れた場所にあったが、今回の目的地はそのもう少し奥。小さな雑木林で、茸と前回とはまた別の薬草の2種を採取する。
やはり危険な魔物はほとんどおらず、角兎と稀に野犬(角兎よりは危険だが、魔物ですらない)に遭遇する可能性がある程度だと、説明も書かれていた。
帰りも<風加速>を使ってレオンブルグに戻り、街の中を通り抜けて北門から昨日の池の畔まで行く。
そこで一旦、足を止める。
池の周りは昨日の薬草だけでなく、他にも食用にできる草や実がところどころに生えている。時間も昼過ぎであり、食材を現地調達して昼食にするにはちょうどよかった。
「……ごちそうさま」
途中ゼリースライムを槍の練習を兼ねて倒しつつの食材集めと、それを使った食事を終えて、リリィは移動中は体力温存のため着けていなかった装備を身に着ける。準備ができると、池を離れてその奥にある雑木林へと向かった。
「棲家があった森に比べると、ずっと小さいし、人の通った跡も残ってるな」
リリィに同行する琢郎は、雑木林を見てそんな感想を洩らす。課題に書かれた説明の通り、これならあまり危ないことにはならなそうだ。
「あッ。あれです、あの茸ですよ」
何度も人が通って獣道のようになった場所に沿って進んでいたリリィは、近くの木の根元に目的のものを見つけて駆け寄る。慣れない装備を身に着けているが、ここまでは琢郎が運んで体力を温存したおかげか、今のところ動きは軽い。
琢郎は少し後ろでその姿を見守っていたが、何本目かの茸を採ろうとしゃがみ込んだリリィの横で、角兎が1匹地面の穴から顔を出すのが見えた。
「ッ! <風刃>!」
リリィが気づいていない様子だったので、魔法を飛ばして斬り裂く。買い取り対象の角は傷つけずに、胴体を斜めに両断した。
「あッ……!」
その時点で、ようやくリリィも角兎がそこにいたことに気づいたようだった。
「あ、ありがとうございます」
助けられた礼を述べるリリィ。
これを機に、採取の際にも周囲に気を配るようになったようだった。次に角兎が近くに顔を出した時には、ちゃんとそれに気づいた。
「やあッ!」
不意さえ突かれなければ、額の角と手にした槍ではリーチの差が物を言う。懐に跳び込まれてしまうよりも早く、リリィの槍が角兎を突き刺した。
あいかわらず序盤風ですが、さくさく進行。




