77. リリィVS角兎
最初の1匹を1発で突き殺したのは、どうやら運がよかっただけらしい。
離れて見守っている琢郎は、しばらくしてそのことに気づいた。
元々そう好戦的ではないのか、出会えば必ず戦闘になるとは限らない。次に遭遇した角兎は、槍に残った同族の血の臭いに気づいたのか、リリィの存在に気づくなり即座に反転して逃げていった。
その次も、威嚇のために初手で大きく跳躍してきたものの、リリィがなんとかそれを避けるとその跳躍の勢いのまま、正に脱兎の如く去っていった。
「でも、角兎を倒すことが目的じゃないですから」
課題はあくまで茸と薬草を採取して持ち帰ること。角兎はその障害でしかない。
角兎と遭遇するたび作業が中断しているが、目的のものはもう半分以上採取できているし、怪我も負っていない。課題に沿って考えるならば、今のところ順調であると言えた。
「っ……また出た!」
数本纏まって生えている場所を見つけ、それを採れば茸の方は必要な数が揃うというところで、再び角兎が姿を見せる。同じ獲物を狙っているのか、今回は逃げずに向かってくる。
「やッ!」
リリィは最初の1匹のように飛び込まれる前に槍で迎撃しようとしたが、タイミングが合わず当たらない。
「きゃぁッ!?」
角兎の突進をくらってしまい、リリィの口から悲鳴が上がる。だが幸い、装備していた革の胸当ての上からだったために、衝撃はあったものの血が出るような怪我には至っていない。
「<風……」
「だ、大丈夫です、これくらい!」
しかし、次も怪我しないとは限らない。琢郎は当然魔法で助けようとするが、リリィがそれを制止。
「危なくなったらすぐに助けられていたんじゃ、強くなんてなれません。もうちょっと待ってください」
言って再度、槍を突き出す。それも角兎が動く方が早く当たらないが、さらに3度目を繰り出していく。
琢郎にとっては、たった1人の大事な同行者だ。過保護でもすぐに助けたいのが本音だったが、リリィの意を尊重して琢郎はそれを見守った。
何度も槍を突いて、ついに穂先が角に当たって傷を付ける。
さらに何回かの攻撃の後、とうとう胸を槍に貫かれて角兎はその動きを止めた。
「ほら。勝てた! 勝てましたよ!」
出会い頭の幸運な一撃でなく、正面からの戦闘で角兎を倒した喜びを、リリィは琢郎に伝える。
その興奮が冷めぬままに茸を摘み取り、残る薬草を探す途中でも、同じように苦労しつつも角兎をもう1匹仕留めた。
「これで、課題のものは全部集まりました」
成果を報告するが、戦闘の結果はやはり無傷とはならなかった。
革の胸当ては十分な防御力があったのだが、相手が小さすぎた。大きく跳躍して上半身を攻撃することもあったが、足元を狙われることも多く、掠めた傷から血が滲んだり打ち身になったりしている。
「動きづらいって言ってたけど、やっぱり脛当ても必要だな」
街に戻ったら追加の装備をリリィに買うことを、琢郎は心に誓った。
「とにかく、課題は達成したんだから街まで戻ろう」
歩くのに不自由するほどの怪我は、1つもない。だが琢郎は、課題は終わったのだからもう助けてもいいだろうと、<風加速>でリリィを連れ帰る。
有無を言わさずリリィを抱きかかえ、街に入ってからは速度は考えたものの、泊まっている宿まで下ろさなかった。
「まずはここで治療だ」
琢郎が治癒魔法を使えれば早かったのだが、<生魔変換>はMPをHPに変えるだけで傷は癒せない上、自分にしか使えない。
部屋にリリィを運んだ後、冒険者相手の商売柄で宿に置いてあった包帯と傷薬(もちろん有料)で処置を施す。
「次はこっち」
手当てが終わると、昨日行った店を再び訪れる。昨日は重さや動きやすさを考えて買わなかった、革の脛当てを購入した。
手持ちの金がさらに少なくなるが、ギルドに行けば今回の課題の報酬で、ほぼ補填できるはずだ。それに、課題の分とは別に倒した角兎の角も、金に換えられる。
「……戻りました」
だが、ギルドまで送って受付からの帰りを待つ琢郎の元に戻ったリリィの手には、一緒に換金に持っていったはずの角が残っていた。
「換金できなかったのか?」
琢郎の問いにリリィは首を横に振る。
「いいえ。受付に持って行ったら、次の課題にこれがあるからそっちで提出するよう、勧められたんです」
そう言ってリリィが見せる初心者用の次なる課題には、
『討伐依頼:角兎の角を7本提出』
と書かれていた。今あるのは今日リリィが倒した3本に、その前に琢郎が魔法で倒した分を入れても計4本。
最低でもあと3匹は、角兎を倒す必要があった。
相変わらず進行が遅い……
結局、前回タイトルの第3課題の続きで終わってしまいました。
一緒に入るはずだった2回目の角兎狩りは次で。




