75. 活動準備
最初の課題に書かれた目標を達成したので、ひとまず街へと引き返す。
ギルドでリリィが薬草を渡して報酬を受け取るために受付に並んでいる間、琢郎は再び掲示板に張られた買い取り一覧表を見ていた。
リリィを介することで琢郎も倒した魔物を金に換えられるようにはなるが、必要な部位がどこなのか知っていないと、いざ魔物に遭遇しても何にもならない。とりあえず丸ごと持ち帰っていたら荷物になるし、場合によっては倒す時に知らず必要な部位を損傷してしまって金にならなくなるというのも考えられる。
リリィが戻るまでに、琢郎は見覚えがあるものを中心にしてある程度頭に入れておいた。
「次は、ギルドが紹介してくれた宿に行きましょう」
まだ日は高く、時間的には今日の内に次の課題に手をつけることも可能だったが、リリィが優先したのは宿を確認することだった。
当面ここのギルドを拠点に行動するつもりではあったが、滞在費があまり高くつくようだと考えなければならない。そのための確認だった。
「ウチは10日単位での契約です。2人部屋で10日ですと、これだけになりますね」
1泊辺りはそちらの方が安くなると言われた中長期向けの宿で、受付の人間は指を2本立てた。
しばらく留まるのなら、琢郎としてはいい加減個室が望ましかったのだが、ギルドとの契約の問題でギルド員と相部屋は可だが別々に個室を取るのは不可とのこと。それでここ数日と同じように2人部屋となったが、これまでより広いくらいの部屋で、他の客と共用だが台所も使えるらしい。
料金は先払いだったが、これなら悪くないということで支払って契約した。
「で、残った金なんだが。これでリリィの装備を整えよう」
契約した部屋で、移動の間ずっと担いできた荷物を置いて身軽になった琢郎は、そう提案する。
さっきは急だった上に危険がほとんどないのがわかっていたのでよかったが、これからも初心者用に渡された課題をこなしていくつもりなら、ちゃんとした装備はどうしても必要になるだろう。
「……やっぱり、買わないとダメですか?」
自分が言い出したことで自分のための大きな買い物をすることになるのを、失念していたのだろうか。急にリリィは渋りだしたが、彼女の安全のためにもここで妥協はできない。
「ダメだ。だいたい、強くなりたいと言い出したのはリリィだろう?」
強く言って、ギルド近くの武器や防具を扱っている店へと繰り出す。
「お金、大丈夫なんですか?」
「まだ銀貨1枚は残ってる。それに、さっきの課題だけでも小銀貨4枚だろ? 残りの課題を全部こなすだけでも元は取れるんじゃないか?」
心配するリリィに、楽観的に返す琢郎。
だが、琢郎もまんざら考えなしで言っているわけではない。宿代はさっき先払いしているし、そこで料理もできる。
棲家にいた頃のように山や森での食料調達を課題の合間にすれば、必要になるのはパン代くらいのものだ。銀貨1枚どころか、その半分でも十分にお釣りが出る。
対して収入は、リリィが課題の報酬で得るものに加え、琢郎もそれに付き添う傍らで独自に魔物を狩ったり、店で引き取ってもらえそうなものを探したりするつもりだ。
「変に安物買って、リリィに何かあったら、それこそどうにもならないからな」
それらの収入も、リリィがいてこそだ。
買ったのは、革製の胸当てと籠手。丈夫かつ軽量なものを選んである。
武器には、リーチの長さと扱う重さを考えた小さめの槍と、近距離で手回しが利くナイフの2つを用意した。
「わたしも鍛えたいなんて言ったのは、失敗でした……」
それらを合わせた価格を頭に浮かべてか、リリィは憂鬱そうではあったが、これで装備は大丈夫だろう。
加えて、琢郎が付き添い後方から魔法で援護すれば、ある程度安全にリリィも経験を積むことができるはずだ。
「何度も言ってるが、さっきの金もリリィに渡すつもりだった分もあるし、今後ギルドを利用して得られる収入だって、リリィがいないと始まらない。課題の報酬は当然のこと、俺がリリィに頼んで売ってもらう分にもリリィの取り分はあるんだから、そんなに気にするな」
そんな言葉をかけつつ、琢郎はリリィと共に契約した宿へと帰って行った。
さくっと次のクエストへ。のつもりが、支度に思いの外手間取ってしまいました……(更新ペース的にも、描写的にも)




