74. 初クエスト
ギルドに登録したら、やっぱり次は。
リリィの帰りを待つ間、手持ち無沙汰な琢郎は長椅子に座ったまま壁の掲示板を眺めていた。
そこには移動の護衛やら素材の特別買い取りなどの依頼が張り出されていたが、それとは別で大きく掲示されている表があった。
ギルドの窓口で買い取りしているものの一覧表。
魔狼の毛皮や角兎の角など素材として買い取るのが理解できるものも多いが、同じ魔狼でもその前足や、あるいはゴブリンの耳など、どう考えても使い道のわからないものも少なくない。
おそらくは素材のためというより、人に害なす魔物の討伐報奨なのだろうと思ったが、一覧の中に『オークの鼻』というのを見た時には、琢郎は思わず自分のそれに手をやってしまった。
「お待たせしました」
そうこうしている内に、リリィが戻ってくる。
無事登録は終えたようだが、当たり前のことながら外見は何も変わっていない。さっきは持っていなかった小さな荷物が増えているだけだった。
「もう終わったのか?」
と訊くと頷きが返ってきて、増えた荷物の中から登録証登録証が取り出された。
リリィの名前と登録番号らしきものが刻印されただけのただの薄い金属プレートに見えるが、リリィが聞いた説明によれば偽造や本人以外の使用を防止するための、複雑な処理がされているらしい。
「再発行には小銀貨5枚かかるそうなので、なくさないよう気をつけないといけません」
と語り、ギルドと提携している格安の宿の紹介も受けたとも言う。登録者と他1名までなら使用可ということなので、そこなら昨日より安く泊まることができるだろう。
「じゃあ夜はそこに泊まるとして、これからどうする?」
「あ。それなんですが……」
リリィは登録証と一緒に持ってきていた、何枚か綴りになったものを琢郎に差し出した。
「必ずしないといけない、ということはないそうなんですが、初心者向けにギルドが出している課題だそうです。報奨も十分に元が取れるようになっているので、これをやってみてもいいですか?」
「やってみる? てことは、俺がするんじゃなくて、リリィが挑戦するのか? 登録したのは身分証のためだけであって、リリィが本当に冒険者の真似をすることは……」
琢郎はその必要性を否定しようとしたが、リリィはそれに首を横に振った。
「わたしもできることを増やしたいんです。それに、少しは身体を鍛えないと、タクローさんに迷惑がかかることもありますし」
<風加速>の高速移動に酔ったことを気にしていたらしい。
それでなくとも、リリィと一緒にいることはメリットも多い反面、どうしても行動に制限がかかる。それを少しでもましにするために、リリィ自身がある程度力をつけたいということだ。
そのためには、この初心者の課題はちょうどいいというのが、リリィの考えだった。
たしかに、リリィが強くなるのは悪いことではないが、そのために危険なことをさせるのは琢郎の望むところではない。迷ったが、リリィが危ないと思ったら琢郎がすぐ助けに入ることを条件に了承した。
「それなら、順番に1枚目からこなしていこう」
最初の課題は、レオンブルグの北西にある池の畔で、薬の材料になる薬草を集めてくること。1本銅貨2枚で買い取り、1回20本までだそうだ。
薬草の特徴や、現地での注意点も詳しく記されており、確かに簡単そうに思える。
「<風加速>」
ギルドを出て、街の北門を抜けた琢郎とリリィは、魔法を使って10分ほどで指定の池に辿り着く。
池は思ったよりも小さく、その周辺には多くの草が生えており、ぱっと見ただけでも目的の薬草と思しきものがいくつか見受けられた。
「……これは、本当に簡単そうだな」
これなら、心配する必要もなかったかもしれない。
注意事項としては、ゼリースライムなる魔物が出没するそうだが、脅威度は極めて低い魔物だそうだ。
「あれがそう、か?」
以前に棲家で見たものとは違い、いかにも某RPGシリーズのイメージ通りの半透明の球状の物体が動いている。
琢郎と離れて薬草を採取しているリリィにも1匹近づいているが、動きも鈍く攻撃手段となるものも見当たらない。とりあえず琢郎は、手出しを控えた。
「えいッ!」
リリィもまたそれに気づき、武器として持っていた、以前料理に使った骨製のナイフをゼリースライムに突き立てる。
軟体生物には効果の薄い攻撃だったが、繰り返すうちに体内の核に刺さったらしく、何度目かで弾けて動かなくなった。
「……や、やりましたぁ!」
初めて魔物を倒したことに、喜びの声を上げるリリィ。
その後も琢郎は少し離れた場所から見守っていたが、2時間ほどかかってさらに3匹のゼリースライムを倒した後、20本の目的の薬草をリリィは集め終えたのだった。
わりとギルド系のよくある冒頭っぽく書いたつもりなんですが、誰が主人公か分からない感じに……




