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16. 思い違い

いろいろと琢郎の思い込みが明らかに。

 これまで魔法の練習をする際、加速状態で制御を誤った場合に激突して大怪我を負うことを危惧していた。だが、それはただの杞憂だったようだ。

 半ば暴走状態で余剰に風を纏っていたことが幸いしたのか、巣から飛び出してすぐに樹にぶつかってしまったのだが、身体の周りを覆う風がクッションとなり琢郎自身が大きなダメージを受けてしまうことはなかった。


 細い木や枝に対しては、琢郎の勢いが勝ってそのままへし折って突き進んでいく。

 しかし、太い樹の幹にぶつかったときにはさすがにそれを折って直進はできなかった。加速した勢いのままゴムボールのように跳ね返り、予期せぬ方向に角度が変わってしまう。


 元々無我夢中に飛び出したわけだが、そうして何度となく跳ね返って進む方向が変わってしまった結果、どこをどっちに進んでいるのか、自分でもわからなくなってしまった。最後には、


「どわあああぁぁぁ!」


 山の斜面から転がるようにして、気づけば崖にダイブしていた。

 落下するこの状態で加速を続けては、墜落死確定だ。


「ああああぁぁぁぁぁあああ!!」


 慌てて加速魔法をキャンセルすると、高速で迫る崖下に向かって、今度は全力で逆向きの風を起こす。逆噴射による減速を試みたのだ。

 徐々に落下の速度は落ちていくものの、みるみるうちに地面が迫ってくる。

 激突までもう1メートルないかという地点で、ぎりぎり身体が浮くような感覚があった。


「……ッてぇ」


 わずかな浮遊状態の後、勢い余って身体が半回転して残り数十センチの高さを尻から落ちる。落下の衝撃が走るが、その数十倍の高さから墜落するところだったことを考えると楽なものだ。

 ぶつけた尻をさすりつつ、琢郎はすぐに起き上がった。


 見上げると、琢郎が転がり落ちたであろう場所は20メートル近く上にあり、そこから下はほぼ垂直な崖で、人や獣が上り下りできそうな道はここから見る限りない。

 視線を水平に戻して反対側を見ると、崖下のこの辺りは岩や地面が剥き出しになっているが、少し向こうには別の森と思しき影がある。


 とりあえず、ここがどこかもよくわかっていないが、ここまで来ればたぶんもう安全だろう。

 仮にさっきの連中が追ってきても、この崖を下るのは容易ではないはずだ。

 それでも一応、琢郎が落ちた場所からは陰になって見えない場所まで移動した上で、腰を下ろして休憩の姿勢をとった。


「痛ぇ……」


 落ち着いて気持ちがゆるむと、さっきまでは気にする余裕すらなかった痛みが甦ってくる。

 ナイフが刺さった右手はもちろん、風がクッションになったとはいえ無傷とはいかなかったようで、山の中を逃げる間に身体のあちこちに打ち身や擦り傷ができていた。



『個体名:タクロー   種族:オーク

 追加属性:転生者


 HP:    76/ 157

 MP:  7685/8223   

 筋力:    41

 頑丈:    45

 敏捷:    18

 知力:    11        』



 自分のステータスを呼び出してみると、HPがほぼ半分にまで減っているのがわかる。

 HPにしろMPにしろ、これまでの実験の結果で通常なら自然回復することはわかっていた。だが傷を負っている今は、HPについてはそうもいかない。

 特に右手の刺し傷からの出血がまだ続いているせいもあってか、回復どころかこうして見ている間にもHP76から75へと減少した。


 だが、琢郎には魔法がある。実戦経験に乏しかったり、相手の数が多かったりでさっきは逃亡を選択したが、『全属性魔法(オールラウンダー)』は伊達じゃない。

 消耗したHPを回復させるための魔法も、使用可能な魔法リストにあった。


<生魔変換>(コンバーティング)


 属性元素を操るのではなく、魔力そのものを直接操作する無属性魔法。その1つに、MP(魔力)HP(生命力)に変換する特殊魔法がある。

 MPはまだまだ残っているので、これで全回復してすぐ元通り……と思ったのだが。


「……くそッ、ちっとも痛みが消えない。どうなってんだ?」



『HP:   157/ 157

 MP:  7603/8223 』



 魔法を失敗したわけではないのはステータスを見ても明らか。初めて使用したこの魔法は、どうも琢郎の予想とは効果が少し異なっていたらしい。

 琢郎は<生魔変換>(コンバーティング)をいわゆる回復魔法と思っていたのだが、実際は擬似回復魔法とでも言うべきか。あくまでMP(魔力)HP(生命力)に変換して数値を回復させているだけで、傷を癒すような効果は持っていなかったようだ。


「あぁ、もう。なんなんだよ! チート級だと思ってたのに、なんか微妙に使えない魔法ばっかじゃないか」


 巣を逃げる時の<透明化>(インビジブル)も完全ではなかった。

 姿そのものは消えていたはずだが、あの時の猫獣人の反応からすると視覚以外の感覚(音や臭い、あるいは動物的な勘?)で琢郎の存在に勘付かれてしまったように見えた。


 まだ魔法を十分に使いこなせているとは言えないが、それを差し引いても琢郎が思っていたほどにはその能力は凄くないのかもしれない。

 そんな考えが琢郎の中で大きくなり始めた。

書きたいことが思うようにまとまらず。おそらく次に続きます。

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