17. さらなる思い違い
「……ダメか。やっぱり他に治癒魔法っぽいのはない」
回復魔法と信じていた<生魔変換>の当てが外れてしまったため、琢郎は再度ステータス内の使用可能魔法のリストを確認していた。
上から下まで1つ1つ確かめてみたが、それらしいものは見当たらない。
ナイフが刺さった右腕の傷からはまだ出血が続いている。
そのためか、考え事をしている間に、上限まで回復していたHPの値がわずかだが再び減っていた。開きっぱなしのステータス画面でそれがわかった。
魔法のみならず、巣での生活を思い返せばスキルでもろくに使えないものがある。
この『特殊表示』だ。自分の能力を数値化できるのはいいが、相手の数値が見られないのでは比較することができず、たいした意味を成さない。
さっき巣を襲撃した冒険者たちも、見ることができたのは種族名のみ。200前後のHPをもっていた他のオークをたやすく殺してのけた、彼らの能力値はどれくらいだったのか。
自身の能力に疑念を抱きつつある琢郎としては、その中でも特に魔法使いの能力数値だけは確認できていればと思えてならない。
「……と言うか、ちょっと出来すぎじゃないか? あの襲撃のタイミング」
即時治療は不可能とあきらめた琢郎は、元素操作で出した綺麗な水でせめて傷口を洗いながら、ふと思いついたことを口にする。
琢郎も、人里近くでメスを奪ってくるオークたちの生活が、いつまでも続くとは思っていなかった。いつかはああして討伐される予想はあったし、それもいずれ巣を抜けようと思っていた理由の1つでもあった。
だが、この展開はあまりにもタイミングが良すぎるようにも思える。
琢郎が転生を果たし、まだ十分とは言えないまでも魔法の練習を行い、実戦も経験した矢先。
思い出してみれば、あの天使らしき少年、琢郎の第2の生を自分も楽しむようなことを言っていなかったか。
まさかとは思うが、何か運命のようなものを操作して、都合よくゲームのイベントのように巣への襲撃を引き起こしたのでは。
「もしそうだとすれば、今度会った時には絶対に許さん……!」
傷口を逆の手で押さえ、少しでも止血を促しながら琢郎は、この傷の遠因があの天使の面白がった行為にあるのではと憤った。
だが、琢郎が知る由もないが、その考えは的外れなものだった。
冒険者の襲撃が今日になったことは、琢郎の転生と無関係ではないが、その理由はむしろ逆。何かしたから襲撃が起こったのではなく、するのをやめたから襲撃に至ったと言うべきか。
転生者が前世の記憶を甦らせるのは、成人時になっている。それまでに死んでしまったのでは、転生の意味がない。
そのため、転生者の魂を持つ者はそれまでの間、運命の加護を実は受けている。
生存率が低く、場合によっては共食いすら起こるオークの幼体期を、体格に劣っていた琢郎が生き延びたのもその加護のおかげだ。
本来なら巣自体も、もうとっくに見つけられていておかしくなかったのだが、加護の影響で討伐を依頼しても冒険者が集まらなかったり、追跡の途中にアクシデントが起こって失敗したりでこれまで発見を免れていた。
それが、琢郎が成体の儀を終え前世の記憶を取り戻したことでその加護が消失し、その結果として次の遠征で後をつけられたオークによって巣の位置がばれたというのが真相だった。
そんなこととは知らない琢郎は、魔法が思ったより使えないことを含めてしばらく天使のことを呪っていた。
そうしている間にオークという生命力に優れた種族は魔法とは関わりなく自然治癒力も高かったのか、ようやく腕からの出血が止まる。傷口を反対の手で押さえていた琢郎はそのことに気づき、安堵した。
念のため再度<生魔変換>で出血のため少し減っていたHPを完全回復させると、改めて今後の行動予定を考え始める。
「ってもまぁ、選ぶほど選択肢ないんだけど」
まさか、まだ冒険者がいるかもしれない巣に戻るわけにもいかない。かといって、今の琢郎には他に行き先などないが、そろそろ辺りも暗くなり始めている。
とりあえず、どこでもいいから今夜寝る場所を探さなければ。
これまでは一応群れの中で生きてきたが、今後は全て自分1人で生きていかなければならない。
「ま、これが仕組まれたイベントなんだったら、なんとかなるだろ」
内心の不安を紛らすべく、あえて楽観的な言葉を口にする。実際はそもそも的外れであるうえ、何の根拠にもなっていなかったが、琢郎は前方の森へと歩み始めた。
ご都合主義的展開の解説。
いえいえ、初めからの設定ですよ?




