12. 初戦闘のあとで
ゴブリンを殲滅したものの。
動くものがいなくなっても、すぐには警戒を解かない。油断したところを飛び出した生き残りにばっさり、などはゴメンだ。
数分ほどはそうして石壁の横から飛び出してくる影がないか確かめていたが、どうやら本当に終わったと判断。
それでも念のため、すぐに<風刃>を放てるようにした上で、石の壁を解除した。
「う……」
前方の壁が消えて露わになった光景に、自分のやったことながら思わず声が漏らしてしまう。
魔法を連呼している間は、短刀を持ったゴブリンたちに近づかれないよう必死だった。
しかし、戦闘時の焦りや緊張からいくらか落ち着きを取り戻した今、目の前にあるのは焼け焦げた死体の山。自分の魔法で作り出したものだとはいえ、見て気分のいい代物ではなかった。
なまじ肌の色が焦げてわかりづらくなってしまったために、小さな身体がどこか子供の焼死体のようにも見えてしまう。
それでも、吐いたり正視できなくなったりまでいかないのは、殺らなければこちらが殺られる状況だったせいか。
それとも、人型ではなくともこれまで蛇や小動物を獲物として狩ってきたため、知らず命を奪うことに慣れや耐性ができていたのか。
あるいは殺害方法が魔法という、人間時代の感覚からは非現実過ぎて自分の手で殺したという実感が得難いものだったためだろうか。
「なんにしろ、これから魔法で生きていくなら、もっと慣れていかないと」
あえて自ら死体の方へと近づいていく琢郎。
遠目だった焼死体がはっきり見え、苦しみ歪んだゴブリンの焼け爛れた表情までわかるようになる。
中には、炎で焼かれる前に風の刃で身体の一部を欠いた死体もあり、そのさらに奥には<火炎球>の効果範囲に入るより前に首と胴が分かれてしまったゴブリンが血溜まりを作っていた。
そうした惨状を目に焼き付けながらも、琢郎は自分のしたことを後悔だけはしないよう、今後も魔法を使う覚悟を固めていった。
「……ん?」
一番奥に、最初に腕ごと飛ばしたゴブリンの白い短刀が目に付いた。
他のゴブリンの持っていた短刀はほとんどが持ち主と一緒に焦げて使い物になりそうもなかったが、最も遠くに落ちていたこれには魔法による損傷は見られない。
「これくらいはもらっておくか」
固めた覚悟を確かめる意味もあって、琢郎はかがんでそれを拾い上げる。
肘から先だけのゴブリンの手が、短刀の柄を握ったまま付いてきた。こんなものは気にしないと自らに言い聞かせつつ、その指を1本1本はがして地面に落とす。
短刀を回収した後、ゴブリンが現れる前に<水流射>で撃ち落とし、その後の戦闘でも運良く巻き込んで潰してしまわずにすんだいくつかの赤い木の実も拾い集めて、急ぎ川原を離れる。
ゴブリンとの戦闘で時間が遅くなった上に、木の実の数も減ってしまった。場所を移して、他の食料を探す必要があった。
その気になれば、同族ですら食ってしまうオークのことだ。
黒焦げの死体は除外しても、ゴブリンの死体の1つでも持ち帰ればこれも肉。本日のノルマには十分な量になるだろうが、魔法で敵を殺す覚悟はしても、その敵を喰うところまで外道にはなれない。
考えようによっては、喰うわけでもないのに殺す方が問題かもしれなかったが、元人間としては少なくとも人型の敵を食料にしようとまではどうしても思えなかった。
帰路、来た道とは別のルートを通って代わりの食料となるものを探しながら移動する。
「見つけた! 大物だ」
途中、トカゲだかサンショウウオだか知らないが、1メートル近い巨大な生物と遭遇した。
彼我の距離は約10メートル。すでに日は傾き始めているため、ここで逃がす手はない。
「<地槍>!」
獲物が大きい分、狙いも外しにくい。相手が動いたために1発で胴を串刺しにとはいかなかったが、こちらに気づいて逃げようとするトカゲの足の1本が地面の下から穿たれた。
「ギシャァァァ!」
悲鳴を上げるトカゲに対し、躊躇うことなく次の魔法を唱える。
「<風刃>!」
今度は頭部に命中し、血を撒き散らしながらトカゲの頭が転がっていく。
胴体の方も、反射か何かは知らないが、切り口から血を噴き出しながらもしばらくはバタバタともがき続けた。
動きが止まる頃には辺りはかなり血にまみれていたが、琢郎はもはや少なくとも表には動じる様子を見せなかった。
淡々とその死体を食料として回収。これでノルマも十分と、巣へと戻っていった。
割とあっさり慣れてしまってますが、要因は本文中にあげた3つに加えて、あくまで「人型」であっても「人」ではなかったということも含めた全てです。




