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10. 魔法の練習その2

前半に余計な回想が長引いたため、その3まで続きます。

 今日も、琢郎は食料調達と並行して魔法の練習をするために巣を出発する。

 ただし、今日はいつもと違って、森の中では使いにくい魔法の練習をするつもりでいるため、目的地は普段よりも遠い。

 そのため移動にも魔法を使うつもりだったが、出発してすぐには無理だった。巣の周りで番をしているオークや、同じように食料調達に向かうオークたちから確実に見られない場所に着くまで、その使用は控えていた。


「……ここまで来れば、大丈夫か?」


 巣から離れた場所で、他のオークの気配がないか辺りを見回す。

 慎重になるのには理由があった。魔法の秘匿はもちろんだが、それでなくとも元人間の琢郎は他のオークとは違うため、思わぬことで群れに悪影響を与えかねない。

 いずれ出て行くつもりではあるが、一応は今の自分が生まれた場所だ。愛着はないが、かといって自分の手で潰すようなことをする気はない。


「……あの先輩には悪いことをしたよなぁ」


 初日に食料調達の仕方を教えてくれた先輩オークを思い出して、心の中で詫びる。

 昨日、先輩は肉になった。そうなる原因を作ったのは、琢郎だ。

 琢郎が何日も性処理部屋に姿を見せないことに気づいて、(琢郎が壊れて食料調達の頭数が減ると自分の負担が増えるからとはいえ)心配して捜していた先輩オークに、琢郎が自分の右手で処理していたところを見られてしまったのだ。

 それだけなら大恥もので終わっていたのだが、先輩はそれで自分の手で処理するという行為を知ってしまった。


 どうやら成体の儀によって精通の時からメスを使ってするためか、普通のオークには自分で処理するという発想自体なかったようだ。

 そこに琢郎がしている姿を見ることでメスに頼らない処理の仕方を知った結果、先輩は猿のように(見た目は豚だが)行為に(ふけ)ってしまった。

 食料調達に行くのも忘れてしまい、食材の代わりに自分の身を捧げる破目になってしまったのが昨日のことだった。


 不幸中の幸いは、琢郎を見つけた時のまま巣の片隅でずっと耽っていたため、他のオークまで気づいて真似することがなかったことだ。一歩間違えれば先輩から広がった自家発電が蔓延して、恐ろしいことになっていたかもしれない。

 最悪、ほとんどのオークが自分の役目も忘れて快楽に耽り、群れとしての機能が失われていたことも考えられる。自家発電を覚えたせいで群れが崩壊とか、馬鹿馬鹿しすぎて笑うこともできやしない。


 先輩の貴い犠牲によって、琢郎は魔法を含めた自分の行動をこれまで以上に慎重にしようと心に刻んだのだった。


<風加速>(フェア・ウィンド)


 再度誰もいないことを確認してから、風属性の特殊魔法を唱えた。風を纏って加速する移動補助の魔法。

 これも正直、加速しすぎでぶつかると危険なために障害物の多い森には不向きではあった。そこで、普通に走る2~3倍程度に速度を加減することで、速度と安全の両立をなんとか成功させていた。



 昨日のうちに当たりを付けておいた川まで、高速移動すること約1時間。


「ふぅっ」


 川の流れる音と、水面で乱反射する陽光を感じて、琢郎は加速魔法を解除した。

 MPは60ほども減っているが、体力的にはほとんど疲れていない。

 にもかかわらず息を吐いたのは、数字には表れない高速移動中に障害物を回避し続けたことによる精神的な疲労だった。避けられる速度に加減していたとはいえ、やはり緊張はする。


 気分をリフレッシュするため、流れる川の水をすくって顔を洗う。豚の頭部では、洗ったところで水も滴るいい男、とは冗談にも言えはしないが、気分はすっきりした。

 最大MPが桁違いな分だけ自然回復量も多いようで、加速魔法で減っていたMPも短い時間でほぼ回復している。


「それじゃあ、早速練習といきますか」


 濡れた顔を雑に手で拭った琢郎は、川原近くにある大きな石を、これから使う魔法の的に定める。


<火炎球>(ファイアー・ボール)!」


 琢郎の右掌に、サッカーボール大の火の玉が浮かび上がる。

 この魔法を使うのは、自分が魔法を使えることを知った初日以来だ。

 ステータスの『使用可能魔法』のリストを呼び出したことで魔法の使い方を理解した後、初めて唱えたのが定番とも言えるこの魔法だったが、森で火属性の魔法を使うのは危険すぎた。

 危うく山火事を起こしそうになり、必死に水の元素操作で鎮火させたものの(おかげで基本の元素操作はすぐ覚えられたが)、以後使用は控えていた。


「せいッ!」


 あと、この魔法には少々欠点が。

 威力は十分あるのだが、魔法で生み出したのはあくまでも火の球にすぎない。球を飛ばすのは琢郎自身の腕によらねばならなかった。

 リリースするまで熱さを感じない、炎の中心にあるソフトボール大の芯を握り、見様見真似の投球フォームで的に向かって投げつけた。

 射出は自力、もちろん誘導も効かないが、身体能力は人間だった頃よりかなり上がっている。プロ投手並みと言っては言いすぎだが、おかげでかなりの速度で的の石に当たった。

 可燃物に当たればそのまま燃え広がるのだが、石ではそうもいかない。火球が弾けて当たった部分の表面が、一瞬だが赤熱する。


「よし、もう1球!」


 再び同じ魔法を唱えて投げるが、今度は球が逸れて横の地面を熱してしまった。


「ワンモア!」


 続けて第3球。今度は命中。

 第4球、命中。第5球、外れ。

 10球まで投げたところで結果は7球が石に命中。

 学校の授業を除けばろくに野球をしたこともない琢郎にしては、まずまずの数字だった。

先輩の死因は猿のように死ぬまで耽っていたためではなく、朝まで何回もやった疲れで寝てしまって食料調達に行けなかったためです。念のため。

あと、<火炎球>(ファイアー・ボール)の糞仕様は初期からの設定です。矢とか弾丸とかミサイルなんかじゃなくて、字面からしてただの球ですから。

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