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100. 再開

本編100話到達!

「さぁて……」


 リリィと一度別れた琢郎は、自分の服の会計を終えて手持ち無沙汰な声を洩らした。


 当然まだリリィの方は選び終わっていないようだが、あのやり取りの後で様子を見に行くほど愚かではない。

 リリィの買い物が終わるのを待つ間どうしようかと思っていると、初めそこがリリィの目的の場所だと思っていた女性向けの冬物の売り場が目に留まった。


「そうだな。失言の詫びに、今のうちに何か……」


 思いついたことがあって、琢郎はその売り場へと向かう。


  ◇


 3日後。

 琢郎が買った服はやはり調整が必要なものも多かったが、ギルドに行かず身体を休めている間にリリィが暇つぶしとしてそれを済ませてしまった。


 そうして満を持したこの日、ゾフィアに教わったことを実地で確認するためギルドへと向かった。

 ちょうどよく野草採取の依頼が出ていたためにこれを受注し、今はいつものように琢郎の<風加速>(フェア・ウィンド)を使って移動中――なのだが、1つ以前と違うところがあった。


「……着心地はどうだ?」


 琢郎が訊いた先には、普段の活動時の格好の上から毛皮のコートを羽織ったリリィの姿があった。

 服屋での失態の詫びも兼ねて、本来勧めるつもりだったこれからの季節を考えた上着をリリィと離れている間に琢郎が買っておいたのだ。

 自分の荷物の中にこっそり隠しておいて、今日出発の際に渡したのだが、感想が気になっていた。


「とっても暖かいです。わたしにはもったいないくらいですよ!」


 幸い、気に入ってくれたようでリリィは嬉しそうに笑顔で返してくる。

 例によって渡した直後はまたこんな高いものをと困った顔をされたが、実際に身に着けることで印象が変わったらしい。


「それは何より」


 琢郎はフードの下で頬を緩め、<風加速>(フェア・ウィンド)の速度を少し上げる。

 かつてゴブリン狩りをした山の横を通り過ぎ、さらに北へと向かった。


「冬になって採取できなくなる前に、確保しておこうってことか」


 目的の草が生えている場所はレオンブルグのかなり北。それも山のかなり上の方というだけあって、街よりもはっきり感じられるほどに肌寒くなっている。

 琢郎自身もリリィに寸法を合わせてもらった服をローブの下に着ているおかげで助かっているが、リリィの上着を買っておいてよかったと改めて思った。


「たしか、よく似た別の毒のある草があるから、気をつけないといけないんだっけ?」


 目的の草が自生している場所に近づき、琢郎はリリィと一緒に以前ゾフィアに教わった野草の特徴を確認する。


「そうです。それで、たしかその見分け方は……」


 さっそくそれらしい草を見つけて、リリィは引き抜いたそれに目を凝らし、慎重に手触りを確かめる。


「有害な方の草は、葉の裏側の葉脈が僅かに黒ずんでいて、少しだけ本物よりも硬い――これは、毒の方ですね」


 目的は採取で戦闘ではないため、上着を着たままのリリィはそう言って手にした草を捨てた。

 次いで今度は琢郎がそれらしいものを見つけるが、いまいちはっきりどちらであるか判断できない。


「ちょっと、さっきの見せてくれ」


 リリィに頼んで、今捨てたばかりの毒草の方を見せてもらい、照らし合わせてようやく当たりの方だと確信できた。


「なかなか難しいな、これは。ゾフィアに聞いていなかったら、多分けっこうな量で毒草が混ざってしまって、大変なことになっていたな」


「ゾフィアさんに感謝しないといけないですね」


 そんな話をしながら、2人で野草を集めていく。

 実際、見つけたものの半分近くは毒草の方で、間違って毒草が混ざらないよう注意するのはかなりの難作業だった。



「よし、これくらいで終わりにするか」


 途中で軽食を兼ねた休憩を挟み、採取用に持ってきた袋がようやく一杯になったところで、琢郎は終了を呼びかけた。

 ゾフィアに教わった要領で薬草となる草を見分けたため、予想より時間はかかったもののほとんど毒草は混じっていないはずだ。さすがに、絶対に1本も毒草が混ざっていないとまで断言はできないが。


 この時間から帰路につけば、街に着くのはちょうど日が西に沈みかけるくらいの時刻になるだろう。

 さぁ帰ろうと薬草の詰まった袋を肩に担いだところで、ふと琢郎の動きが止まる。これから下りようとしていた山の斜面から、何か大きな生き物が草を掻き分け琢郎たちの方へ近づいて来ているのが感じられた。


 上ってきた時には一度魔狼と遭遇して琢郎が倒したものの、採取中には何度か角兎を見かけるだけで戦闘にはならなかったのだが、どうやら最後の最後になって出くわしてしまったらしい。

 そんなことを考えている間にも気配は近づいてきて、樹の陰からいくつかの人型の影が姿を見せたのだった。

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