98. 休みの日
「今日は、これからどうする?」
次の日の朝、朝食を終えると部屋で琢郎は訊ねた。
いつもならこの後はギルドに行ってゾフィアと合流するのだが、今日からしばらくは彼女が姿を見せることはない。
最初、リリィはゾフィアの見送りをしたいと言っていたのだが、警備の都合上で詳しい出発の時間と場所は教えられないということで断念していた。
「しばらくは稼がなくても十分過ごせるだけの金はあるし、ゾフィアが戻るまでゆっくり休んでいるのもいいかもな?」
考えてみればこの街に来てからというもの、リリィもほぼ毎日のように狩りや採取に励んでいる。
そろそろ一度、しっかりとした休暇をとるべきではないかと琢郎は思っていた。
「それはダメですよ。せっかく、ゾフィアさんがわたしたちに色々と教えてくれたんですから」
だが、リリィはその提案に否定的な声を返す。
「教わったことが身に付いているか、復習を兼ねて今のうちにちゃんと確認するべきですよ」
リリィの言うこともわからなくはない。だが、やはり今はまず休むことが必要だという考えを、琢郎は翻そうとは思わなかった。
「だが、冒険者登録をしてから、リリィは採取や戦闘、訓練ばっかりだっただろう? いい加減休んだ方がいい」
「でも、ゾフィアさんが帰ってくるまでずっと休んでいたりしたら、体が鈍っちゃいますよ」
「よし。じゃあ、こうしよう……」
相談の結果、双方の意見を取り入れてまず2,3日は体を休め、それから適当な依頼を探してここ半月で教わったことを実地で復習するという形に落ち着いたのだった。
「……リリィは、何か欲しいものとかないか?」
話し合いのしばらく後、泊まっている宿を出て並んで街の中を歩きながら、琢郎は隣のリリィに訊ねる。
休むといっても、1日部屋で寝ているというのも味気ない。
そこで、宿とギルド、街の外へ出る門を結ぶ道以外は、滞在している長さの割にほとんど足を伸ばしていないため、少し街を歩いて回ってみようということになった。
とはいえ、女性をエスコートするような経験は琢郎にはまるでない。
毎晩同じ部屋で寝ているのに今さらこんなことを気にするのも少し変だが、2人で街に出かけるとかなんとなくデートめいた気がしないでもない。
内心で緊張しているが、こんな時にどういった場所へ連れて行けばいいのかうまい答えが見つからなかった。
貧弱な発想でぱっと出てくるのは映画だとか遊園地だとかであるが、そんなものはどちらもこの世界にはないだろう。
行き先に迷って、どんなところへ行きたいか本人に訊いてしまった。
「いえ。特に欲しいものは…… あッ、そうですね。そろそろ調味料を少し買い足した方がいいかもしれません」
返ってきたのは、琢郎が求めているものとはニュアンスが少し違うものだった。
だがまぁ、当てもなくうろうろしているよりはいくらかましだ。
ショッピングと考えれば、それもある意味で定番とも言える。
「じゃあ、まずは食料品の店にでも探すか」
泊まっている宿の近くにも、冒険者向けに保存食を中心とした食品を扱う店もあったが、せっかくだからと別の店を求める。
ギルドを中心とする区画を離れるにつれ、一目で冒険者だとわかるような格好の者は次第に少なくなっていく。
やがて、一般の市民向けの商品を販売している店が並ぶ通りへと出た。
「あ、そこみたいだな」
店頭に食材の入った瓶が並ぶ店を見つけて、琢郎はそちらへ進もうとする。
「え? こっちにもありますよ?」
だが、数軒離れた違う店を指差すリリィに、その足が止まった。
さらには、その向こうにもまた別の食料品店が見える。どうやら大きい街だけあって、同じ区画内でも似たような物を扱う店が何軒かあるらしい。
「……急いでるわけじゃないんだ。いくつか店を回って、一番気に入ったところで買うことにしようか」
一瞬は戸惑ったものの、考えてみれば当たり前なことにすぐに気づき、琢郎はリリィを連れて先ほど足を向けかけた店へ改めて近づいていった。
もっとも、店に入ると商品の良し悪しを見定めるのはもっぱらリリィの役目。琢郎はほとんど荷物持ち程度の役にしか立たなかったが。
「じゃあ、最後は塩を2番目のお店に戻って買いましょうか」
買い物で商品を選んでいるリリィはわりと楽しそうだった。
選んでいるのが調味料や食材で、色気がないのが玉に瑕ではあるものの、それ以外は琢郎に不満などはない。
こうして店を回っている内、ふと思いついたこともあった。
塩の入った袋も無事目当ての店で買った後、琢郎はそれも纏めて大きな袋に入れて担ぐと、そのことを口にする。
やっと続きが出せました。
デート?紛いの日常回は、次回も続きます。




