09:雨の日の放課後
外が雨だから、今日の放課後は校舎の中をパトロールすることにした。
でも、コンタクトレンズを落としてしまった生徒以外に、困ってるような人は見つからず……。
【現在のポイント:50,021pt】
【目標まで残り:949,979pt】
「……あと95万……か……」
下校時間の三十分前。
わたしは天宮くんと合流し、空き教室の机に座った。
スマホの日付は5月31日。
それなのに、わたしたちが集めたハッピーポイントは、まだ5万を越えたばかり。
「あああ。あと一か月で95万ポイント集めるなんて、無理だよぉ。めちゃくちゃ困ってる人って、いったいどこにいるのよぉ」
わたしはメソメソ泣きながら、机の上にいるハクを見つめた。
「ねえハク、意地悪しないで教えてよぉ。コンタクトレンズを落としちゃったり、友達とケンカしちゃったりして、『普通に困ってる人』のことは教えてくれるのにさぁ。なんで、100万ポイントくれるほど『めちゃくちゃ困ってる人』のことは教えてくれないの?」
「それは風花が見つけ出すべき相手だからじゃ。教えてしまっては意味がない」
狐の姿になったハクは、足で顎の下をかいている。
……のんきそうで、うらやましい。
「わたし、本当に死んじゃうの? 実は7月1日になっても生きてるってこと、ない? ハッピーポイントなんて集めなくても、大丈夫なんじゃない? そうだよ、だって、こんなに元気なんだからさ――」
「そう思うなら、止めればいいじゃろ」
「えっ。いいの?」
予想外の言葉に、わたしはキョトンとしてしまった。
「うむ。我の言葉を信じるも信じないも、風花の自由じゃからな。せいぜい、残された時間を楽しめよ」
ハクは「さようなら」というように、左前足を振った。
「えっ。ちょっと待って――」
焦るわたしを無視して、ハクはくるりと半回転し、わたしにお尻を向けた。
「月都、良かったのう。時間制限がなくなったぞ。これからは一人で、のんびりゆっくりハッピーポイントを集めるが良い――」
「わあああん嘘です頑張りますから見捨てないでぇぇ!!」
わたしは椅子を蹴飛ばして立ち上がり、ハクを抱きしめて泣きじゃくった。
「ぐえっ。く、苦し……」
「ぐすっ、ひっくっ……あ、ハクって、ふわふわ。お日様みたいな良い匂いがするし……モフモフ……ふふふ……」
「これっ、どさくさに紛れて頬擦りするでない、匂いを嗅ぐでないっ!! 我は神の――おいっ、いま背中を濡らしたものはなんじゃ!? もちろん涙であろうな、まさか鼻水ではなかろうなっ!? 月都、何をぼさっと見ておるんじゃ!! あと十秒以内に助けぬなら、ポイント没収してやるからなっ!!」
「それは困る」
向かいの席に座っていた天宮くんは立って、わたしの手からハクを奪い取った。
「ああ、わたしのモフモフっ! 返して!」
わたしが手を伸ばすと、天宮くんは冷たくわたしをにらんだ。
「いいから座れ。そろそろ真面目に話したい」
「はい」
わたしはすぐに手を引っ込め、着席した。
天宮くんは自分の机にハクを下ろし、椅子を引いて座った。
「ハクによれば、倉地の近くに『救いを求める者』――本気で困ってる人がいるんだろ? 倉地の家族は違ったのか?」
「うん。何回か聞いてみたんだけどね。お母さんもお父さんも、本気で困ってるようなことはないみたい……あ、お父さんは一つだけあった!」
三日前のことを思い出して、わたしは勢いよく顔を上げた。
「どんなことだ?」
天宮くんは真剣な顔をしている。
ハクも三角の耳をピンと立てて、わたしを見ていた。




