08:家族に聞いてみよう
助けを必要としている人は、わたしの近くにいるらしい。
わたしの近く――まず思い浮かぶのは、やっぱり家族だ。
そんなわけで。
「ねえ、お母さん。いま困ってることとか、悩んでることってある?」
夕食後のお皿洗いを手伝いながら、わたしはさりげなく聞いてみた。
「どうしたの、急に」
「いいから答えて」
「そうねえ。一人娘が、別人みたいに良い子になったことかしらね」
汚れたお皿をスポンジで洗いながら、お母さんは言った。
「一週間くらい前から、頼まなくても家事を手伝ってくれるようになったじゃない? 昨日、町内会長さんにも言われたわよ。『風花ちゃんは毎日ゴミ拾いをしてて偉いねえ』って。最近は朝早く出るし、休日もよく出かけると思ったら、そんなことしてたのね」
「ま、まあね。実はいま、ボランティア活動にハマってるんだ。でも、良いことでしょ?」
わたしは泡まみれのお皿を水で洗い流し、笑ってみせた。
全部ハッピーポイント目的です……なんて、言えない。
「それはそうなんだけどね。裏で相当ヤバいことをしでかして、ご機嫌取りのために頑張ってるんじゃないかしら……って、心配だわ」
「ヤバイことなんて、してないよっ! ていうか、ヤバいことってなに!? 娘をなんだと思ってるの!?」
わたしが頬を膨らませると、お母さんは、楽しそうにケラケラ笑った。
――けど。
「冗談はさておき。――風花こそ、悩みごとがあるんじゃないの?」
お母さんは急に真面目な顔になって、わたしをじっと見つめた。
「えっ。な、なんで……そう思うの?」
動揺して、声が上ずっちゃった。
「スマホを見つめて、何度もため息をついてるじゃない。学校で何かあったの? もし、いじめられたりしてるんなら、隠さず、ちゃんと言ってね。風花が受験勉強頑張ってたのは、よ~く知ってるわ。でも、学校は他にもたくさんあるの。辛いと感じる場所だったら、そこは風花の居場所じゃない。無理に水葉にこだわる必要なんてないんだからね」
「そうだぞ、風花。まだ入学して一か月しか経ってないけどさ。どうしても合わないようなら、転校したっていいんだからな?」
リビングでノートパソコンを叩いていたお父さんが、わたしを見つめて言った。
お母さんもお父さんも、様子のおかしいわたしのことを心配してくれてたみたい。
「……お母さん……お父さん……」
ああ、やばい。
鼻の奥がツンとして、泣きそうだ。
――お母さんも、お父さんも、わたしが死んじゃったら悲しい?
そう聞こうとして、止めた。
聞かなくたって、二人が悲しむことは、よくわかったから。
――わたしは絶対に、死ぬわけにはいかない。
なにがなんでも、困ってる人を見つけ出して、100万ポイント集めなきゃ!!
あらためて、強く強く、そう思った。
「……大丈夫っ! 学校はすっごく楽しいから! 実はね、最近、仲良くなった男子がいるんだよ!」
わたしは手の甲で涙を拭い、意識して明るい声を出した。
「男子?」
ぴくんと、お父さんの耳が動いた。
「ほう。誰かな? 詳しく教えなさい」
お父さんは右手で、眼鏡をクイっと押し上げた。
あ、いまの仕草、紗彩ちゃんにそっくり。
「クラスメイトの天宮くん」
「あまみや……はっ!? も、もしかして、天宮グループ総帥のお孫さんか!?」
なぜか、お父さんはめちゃくちゃ動揺して、椅子から落ちそうになった。
「そうすい? うーん、よく知らないけど。天宮くんのお父さんは、天宮グループの社長さんだって言ってたよ」
「……。いいか、風花。仲良くするのはいいが、くれぐれも失礼なことのないようにな?」
お父さんはしばらく無言で頭を抱えた後、何かを決意したように立ち上がり、キッチンにやってきた。
わたしを見下ろすその顔は、真剣そのものだ。
「う、うん。失礼なことは、してない……」
自分の過去の行動を思い出してみる。
……してない、よね? 多分。
「でも、なんでそんなこと言うの?」
「……実はな。お父さんは、天宮グループの下請け企業で働いてるんだ」
「したうけ?」
ここに説明してくれる天宮くんはいないから、わたしはお母さんを見た。
「要するにね。風花が天宮くんに失礼なことをすると、お父さんがクビになるかもしれないってことよ」
「えっ!? そうなの!?」
「うん……。頼むから、言動には気をつけてくれよ? お父さんがクビになったら、お金がなくなって、学校に行けなくなっちゃうぞ」
「やだ、そんなの困る! わかった、気をつけるよ!!」




