06:おじいちゃん先生のプリント集め
紗彩ちゃんは文芸部に入っているけど、わたしと天宮くんは帰宅部だ。
だから、今日の放課後は二手に分かれて、校内パトロールをすることになった。
わたしの知らないところで怪我をするんじゃないかと心配で「一緒に回ろう」って言ったんだけど、「二人で回るのは効率が悪い」と断られた。
結局、何かあったらお互いラインで報告するってことで落ち着いたんだ。
天宮くんの運が悪くなっているのはわたしのせいなんだし、一人でも頑張ってハッピーポイントを稼がなきゃ!
「よし、パトロール開始!」
気合を入れて、学校中を歩き回ったけど……ほとんどの生徒は部活や同好会に出てる。
教室に居残ってる生徒は友達同士でお喋りしてて、わたしなんかお呼びじゃないって感じ。
うーん、どうしよう。
やっぱり学校じゃなくて、家の近所をパトロールしたほうがいいかなあ?
理科室やパソコン室がある特別校舎の一階で、悩んでいると。
――ポポンッ♪
スカートの中のスマホから、鼓みたいな音が聞こえた!
「なに!? こんな通知音、聞いたことないんだけど!?」
慌ててポケットからスマホを取り出し、画面を確認する。
【学校の中庭で、誰かが困っておるようじゃぞ!
ハッピーポイントがほしくば、いますぐ助けに向かえ!
美しく親切な神使 ハクより】
ハッピーポイントアプリから、そんな通知が来ていた。
「……ハッピーポイントアプリって、ハクからメッセージも届くんだ。しかも『美しく親切な神使』って、自分で言っちゃうんだ……って、ツッコんでる場合じゃない! 行かなきゃ!」
わたしはポケットにスマホを突っ込み、急いで昇降口に向かった。
「わわっ! 待て待て、どこへ行く!」
靴を履き替えて中庭に向かうと、数学のおじいちゃん先生の情けない悲鳴が聞こえてきた。
見ると、回答済みの数学のプリントが、強い風に乗って空高く舞い上がっている。
水葉学園では、ほとんどの先生が学校支給のタブレットで課題を出している。
でも、おじいちゃん先生――佐藤先生は昔ながらのプリント派だ。
「困りごとって、プリント集めか」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには天宮くんが立っていた。
彼の左肩の上には相変わらず、光の玉――ハクが浮かんでいる。
「天宮くん! 天宮くんも、ハクからのメッセージを見て、ここに来たの?」
「メッセージ? いや、おれは『中庭で誰かが困ってる』ってハクに教えてもらったんだけど」
天宮くんはハクを見たけど、ハクは無反応。
近くに佐藤先生がいるから、おとなしくしているらしい。
「あ、そっか。ハクは天宮くんのそばにいるんだから、口で言えば済むことだよね――」
「おや? そこにいるのは一組の天宮くんと、倉地さんか。これぞ天の助け……と思ったが、違ったな。さすがに怪我人に『助けてくれ』とは言えん」
佐藤先生は、ひと目で怪我人とわかるわたしたちを見て、苦笑した。
「大丈夫です、先生! 風のせいでプリントが散らばっちゃって大変なんでしょう? わたしたちも回収、手伝います!」
「いいのか? しかし、倉地さんは見るからに痛そうだが……」
佐藤先生は、包帯でグルグル巻きになったわたしの左足を心配そうに見ている。
「本当に大丈夫です! わたしたちは先生を助けるために駆けつけたので! 遠慮なく頼ってください!」
――それで、わたしたちに感謝したら、ハッピーポイントください!!
という言葉を、わたしは喉の奥で飲み込んだ。
「そうか? じゃあ、一緒に集めてもらおうかな。悪いね、ありがとう」
「はい」
わたしと天宮くんは手分けして、順調にプリントを回収していったけど。
「ああ、こら、どこへ行く! 逃げるな!」
佐藤先生は、逃げるプリントを追いかけて、あっちへふらふら、こっちへふらふら。
「先生、動かないで! 足元のやつ、踏んじゃいます!」
「おお、すまん」
「あっ、気をつけてください! そこ、花壇ありますよ!!」
わたしは左手にプリントの束を持ったまま、花壇につまずきそうになった佐藤先生の手を右手でとっさに掴んだ。
「またまた、すまんな、倉地さん」
「……あの、先生。すみませんけど、職員室で待っててもらえませんか? プリント集めはおれたち二人だけでやらせてください。先生がいると、効率が下がります」
言いにくいことを、天宮くんがズバッと言った!!
「プリントは一組と二組の二クラス分。二クラスの生徒全員が提出しているなら、全部で63枚ですよね?」
何も考えず、ただ目の前のプリントを集めていただけのわたしと違って、天宮くんはプリントの提出者までチェックしていたみたいだ。
隣のクラスの生徒の数まで覚えてるなんて、さすがだなぁ。
「これまでおれたちが回収したプリントは50枚。もうほとんど集め終えましたから、あとはおれと倉地の二人だけでじゅうぶんです」
「むう。そうか……じゃあ、すまんが二人に任せるよ。わしは邪魔らしいからな……」
「ああっ、そんなことないですよー!?」
しゅんと丸まった佐藤先生の背中に叫んでから、わたしは天宮くんと一緒にプリントを追いかけた。
天宮くんの動きは、やっぱりすごかった。
風を読んでいるみたいに先回りして、空を舞う紙を空中キャッチ。
さらには、一番厄介な場所に飛んだプリントを見つけた。
「枝に引っかかってるな。あれが最後の一枚なのに」
見上げるほど高い枝に、プリントが引っかかってしまっている。
「わたしの出番だね、任せて! 木登りは得意なの!」
張り切って、木に手を伸ばそうとすると。
「待て」
わたしの襟首を、天宮くんがむんずと掴んだ。
「なんで木登りが得意なんだよ。倉地は猿か。木があれば上らずにはいられないのか。ジョージ・マロリーの親戚だったりするのか」
「え、誰それ?」
「イギリスの登山家だよ。なぜエベレストに登るのかと聞かれたときに、『Because it's there』って答えたのは有名な話で……って、そんなことはどうでもいい」
天宮くんは、こほんと咳払い。
「とにかく、怪我人はおとなしくしてろ」
「でも、じゃあ、どうするの? 先生に言って、脚立でも借りてくる?」
「それが最適解だろうけどな。取りに行くのも面倒くさい。だから、ここは力技でいく」
天宮くんは足元の石を拾い上げた。
「なるほど! 『石をぶつけて落としちゃおう大作戦』だね! 任せて、わたし、ボールのコントロールも得意だから!」
木登りは止められちゃったけど、少しでも天宮くんに格好良いところを見せたい。
わたしは近くの石を掴み、大きく振りかぶった。
「おい、待っ――!」
「――えいっ!」
わたしが投げた石は見事にプリントに命中し――そのまま、プリントをぶち抜いた。




